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“味の濃さ”がじわるクセ強グルメドラマ『飯を喰らひて〜』、『孤独のグルメ』と対極のポジションへ

武井保之ライター, 編集者
(C)2024 足立和平・白泉社/「飯を喰らひて華と告ぐ」製作委員会

話題作が乏しく、盛り上がりに欠けていた感のある夏ドラマシーンだが、中盤に入って思わぬ伏兵が登場している。TOKYO MXによる1話12分のグルメドラマ『飯を喰らひて華と告ぐ』だ。

仲村トオル演じるクセ強キャラクターにハマる視聴者が続出中。異色のグルメドラマという作品性も含めて、一躍今期の注目作となり、SNSなどネットの話題をさらっている。

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料理シーンの振りからドラマのメインとなる“店主の語り”へ

本作がまず注目されるのは、グルメドラマとして異彩を放っている点。飽和気味のグルメドラマ市場にあふれる従来のドラマとは、スタイルもストーリー性も異なる。

そんな本作の舞台は、路地裏にひっそりと佇む中華屋のような店構えの料理屋「一香軒」。主人公はその料理屋の店主。毎話おいしい料理が登場し、その調理シーンはハイスピードカメラで撮影され、食材も料理人の調理の腕も映える映像になっている。

その料理を、客がおいしく食べる。ただ、料理自体は特別なものではなく、ごくふつうのありふれたメニュー。客の食レポ的な感想のセリフも、どこかで聞いたことがあるような、ありきたりな言葉ばかり。

しかし、ここからがこのドラマのメインパートであり、味が濃すぎるキャラクターの店主の独壇場となる。

それまでのふつうな感じは、あえてそうしている演出だろう。その理由は、このドラマのメインが実は料理ではなく、客の食事のあとに続く、店主の“語り”だから。それまでのすべてが、そこにつながる振りなのだ。

勘違い店主が客に斜め上から的外れアドバイス

その店主は、店のメニューにはなくても、客が望む料理を何でも出すというすご腕の料理人。店を構える路地裏を通る人たちに声をかけては店内に誘い、ときには半ば強引に引きずり込む剛腕でもある。

その客たちは、老若男女、千差万別。共通するのは、誰もが大都会・東京で人生に疲れ、迷いや悩みがあること。店主はそんな客たちの心を瞬時に見抜き、それぞれの客の舌を満足させ、心と体を癒やす最高の料理を提供する。

しかし、そこから店主の本性が現れる。

料理の腕は間違いなく一級品だが、人を見る目はズレている。客の仕事や人生そのものをとてつもなく大きく勘違いし、まったく的外れなアドバイスを、斜め上からの目線で熱く説く。しかも、なぜか格言なのかことわざなのかわからぬ例えを自信満々に語り、その圧はすさまじいが、客はピンときていない。

そんな語りに客は困惑し、勘違いを訂正しようともするが、いつしか無駄な抵抗と諦め、店主の1人よがりの勘違いを受け入れる。

しかし、その話を聞くうちに、次第に客たちの心は軽くなり、気づけば人生に前向きな気持ちが生まれている。店を出るときには、誰もの足取りは軽くなり、思考はポジティブ。その表情は和らいでいる。

勘違い店主の的外れなアドバイスは、まったくの見当外れではなかった。ある側面から、客たちそれぞれの心の痛みを和らげ、毎日の生活に向き合えるように背中を押している。客たちの悩みの本質を突く、普遍的なメッセージを含む店主の言葉は、視聴者の心のひだにも触れる。

とぼけた天然キャラだが圧がすごい仲村トオルのハマり役

『飯を喰らひて華と告ぐ』TOKYO MXにて毎週火曜23:45より放送中(C)2024 足立和平・白泉社/「飯を喰らひて華と告ぐ」製作委員会
『飯を喰らひて華と告ぐ』TOKYO MXにて毎週火曜23:45より放送中(C)2024 足立和平・白泉社/「飯を喰らひて華と告ぐ」製作委員会

そんな個性的で人間性豊かな店主だが、とにかく個性が強すぎる。思い込みと勘違いが激しい、かなりの天然キャラクターであり、有無を言わせぬ目力と顔の圧で客を圧倒し、自分の世界に引きずり込む。

そして、客の心に土足でズカズカと上がり込み、ときに失言もある。しかし、そこに悪意はなく、彼なりの愛があるから、人を傷つけることはなく、彼の人柄に嫌な感じはない。むしろそのとぼけた天然ぶりがかわいくも見えてしまう。

店主を知らない客の立場からすると、馴れ馴れしいおやじであり、うざいおっさんかもしれない。しかし、彼の話を聞いたあとの客たちにそんな思いは微塵もない。いつのまにか好感を持ち、気づけば心を引かれている。ある種のカリスマ的なオーラを放っている。

そんな店主を仲村トオルが怪演している。勘違いのとぼけぶりから、圧倒的な存在感をベースにする顔面の圧、ときおり見せる目が離せなくなるような強烈なインパクトの立ち居振る舞いなど、とにかく彼ならではの、視聴者を惹きつけて離さないクセ強キャラクターなのだ。

後半に磨きがかかる店主のクセ強ぶり

ドラマは後半に入るが、店主のクセ強ぶりは、回を重ねるに連れて磨きがかかっている。これから先、彼と作品がどこへ向かうのか、まったく予想できない謎のグルメドラマだ。

そんな本作のクセ強店主は、『孤独のグルメ』の主人公・井之頭五郎とは対極の位置付けの名物キャラクターに育っていきそうなポテンシャルがある。そのキャラクターとともに、ドラマそのものもこれから大きく跳ねていくかもしれない。

そして、本日9月5日は仲村トオルの59歳の誕生日。50代最後の1年にどのような味を見せてくれるのか、期待がかかる。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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