話題作ない夏ドラマ前半、見続けるべき作品力の高い3本【1/2】
出足が鈍く、世の中的な話題作がほぼない今年の夏ドラマ前半戦。そんななかだが、作品力の高いドラマやこの先が気になるドラマもある。
今期ダントツでおもしろいのは『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(NHK総合)だ。ほか気になるドラマは4本ほど。さらに、配信ドラマでは、見逃せない8月配信開始のNetflixオリジナルドラマがある。
(後編へ続く:前半苦戦の夏ドラマ、ちょっと気になる2本+8月必見の配信ドラマ1本【2/2】)
父は急逝、弟はダウン症、母は車いす生活の女子高生の物語
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は、ベンチャー企業家だった父が急逝し、弟はダウン症、急病で倒れた母は車いす生活になる女子高生・岸本七実(河合優実)が主人公の家族の物語。
七実は、いま社会問題になっているヤングケアラーであり、生活は決して楽ではない。一般的な同年代の女子たちのように、自分を中心にした生活は送れない。まわりのキラキラした同年代を意識することもある。それでも、彼女に悲壮感はない。
家族のことを大切に思いながら、持ち前の屈託のない明るさで、情報過多な毎日を元気に健気に生きる、愛らしい女の子だ。ただ、思春期の女子らしいいささか自意識をこじらせる日々はあり、大変なことを必死で笑い飛ばしながらも、時々涙する。
七実役の河合優実をはじめ、母親役の坂井真紀、父親役の錦戸亮ほか豪華キャスト陣が、そこに生きる人々の生活を情感豊かに好演している。
もともと作家・岸田奈美さんが自身の家族について綴ったエッセーを原作に昨年BS-NHKで放送されていたが、今期の総合で地上波放送され、心温まる家族ドラマとして注目されている。
身近なテーマを掘り下げるリアルな物語に心を打たれる
ほか、話数を重ねながら視聴者を引き込んでいるのが、フジテレビ月9ドラマ『海のはじまり』と『あの子の子ども』(関西テレビ・フジテレビ)の2本だ。
『海のはじまり』は、28歳の主人公・月岡夏(目黒蓮)が大学時代に付き合っていた同級生・南雲水季(古川琴音)の訃報とともに、彼女に娘がいて自身が父親であることを突然知る物語。
突然彼の人生に訪れた大きな転機は、周囲の多くの人たちに影響を与えていく。誰も悪くはないが、みんなが苦しみ、傷つく。ときにチクリと胸に刺さる痛みがあり、ときに心温まる優しさに満たされる親子の絆を映し出している。
『あの子の子ども』は、16歳の高校生カップルの女子生徒が妊娠してしまう物語。ふつうに部活も勉強もがんばり、恋愛も楽しんでいた一般的な高校生の2人が、その“1回きり”のたまたまが重なった出来事から、苦しみ、傷つき、悩む。どこにでもいるような高校生2人が向き合う現実が切々と描かれる。
この2作に共通するのは、命をテーマにすることと、そこに向き合う現代の若者の素直な思いと真摯な姿勢が描かれていること。テレビドラマらしいドラマティックな演出はない。彼らの心の内が切々と丁寧に紡がれる。彼らの気持ちに嘘や作り物がなく、リアルだから心を打たれる。
身近なテーマを掘り下げる、切なく、苦しくもなる物語性がいまの時代にマッチしていると感じる。
後編へ続く:前半苦戦の夏ドラマ、ちょっと気になる2本+8月必見の配信ドラマ1本【2/2】
【関連記事】
『新宿野戦病院』から響く不協和音 細部はおもしろいのに全体の味が薄い 濱田岳のおもしろ存在感は光る