『錦糸町パラダイス』にあって『新宿野戦病院』にないもの テレビ東京VSフジテレビ、街ドラマの明暗
道行く学生たちに、街のドキュメンタリーを撮るカメラマンが「錦糸町ってどんな街?」と聞くシーン。「騒がしいけど楽しい街」と明るく楽しそうに答えた学生たちは、収録後カメラマンに謝礼金を求める。
ルポライターは、街中で店員に問い詰められる、置き引きをしたおばちゃんを見て、「あの人は本当に困ってやった。ダメだけどダメじゃない」とつぶやく。
テレビ東京ドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本~』は、そんな街の温度感を、自虐も内包しながら、おもしろおかしく丁寧にすくいあげるコミカルなドラマだが、同時にさまざまな登場人物それぞれの人生を巧みに交錯させ、リアルな社会問題にも鋭く切り込む。
前半はチグハグな印象が強かった『新宿野戦病院』とは対照的に、類稀なクリエイティブで出だしからしっかりと視聴者を引き込んだ。街を中心に据えるドラマのなかでも、その尖った作風が異彩を放っている。
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社会性が高いコミカルな“街と人のドラマ”
本作は、俳優の柄本時生と今井隆文がドラマ初プロデュースを手がけ、名作『ヴァイブレータ』で知られる日本映画界を代表する人間ドラマの名匠・廣木隆一監督が総監督を務める。
そこに集うキャスト陣が豪華絢爛。メインキャストは、賀来賢人、柄本時生と『桐島、部活やめるってよ』の落合モトキ。彼らの周囲を固めるのは、岡田将生、光石研、濱田マリ、MEGUMI、星田英利、板尾創路、さとうほなみ、忍成修吾、浅香航大、早乙女太一ら。何が起こるか楽しみ過ぎる、ドラマファンがうなる個性派が集結している。
ドラマは第4話まで放送されているが、主人公3人が勤める清掃会社を中心に、彼らの同級生が経営する喫茶店、ひいきにしている居酒屋、仕事で訪れた音楽アプリ制作会社、映像制作会社、フィリピンパブなど、錦糸町の会社とそこに勤める人々がどこかで誰かと関係しあい、それぞれがつながりあっている様が群像劇として描かれる。
その内容は、キャスト陣を見て想像できる通り、コミカルな要素がてんこ盛り。とくに地域ラジオのDJを演じる光石研がすごいことになっているが、ほどよい自虐を交えながら、錦糸町に生きる人々の人間ドラマを笑いと痛みを伴って、社会性高く映し出す。
テレビ東京ドラマ24枠らしい攻めのクリエイティブ
第1話から第2話では、表参道生まれで青山育ちだが錦糸町にオフィスを構えたスタートアップ起業家、パワハラとモラハラで従業員が次々と辞めていく小さな会社のワンマン社長の姿が、夜の錦糸町の雑多で猥雑な側面とともに映される。
第3話からは、主人公たちの同級生であり、母親がフィリピン人の日本で生まれ育った友人が、母娘ともにフィリピンに強制送還されることになったエピソードが、全体のストーリーの流れの一部に入ってきた。
第4話までで感じるのは、テレビ東京のドラマ24枠らしい、ほどよくゆるい攻めたドラマであること。街をテーマにする数あるドラマのなかでも、錦糸町をフィーチャーすることに加えて、街の温度感とそこに生きる人々の体温を感じさせる物語の企画性と、リアルな社会問題に切り込むストーリーの鋭さが光っている。
主題歌をMOROHAが手がけていることも見逃せない。アコースティックギターとMCという2人組が放つ、特徴的なリズムとラップによる胸に刺さるような歌詞のインパクトがある曲には、まさに錦糸町という街の空気と温度が宿っている。
スタッフ全員のクリエイティブへのこだわりがしっかりと噛み合い、ストーリーと音楽が一体となってひとつのドラマを形成していることを感じる。
後半に入る第5話からは、岡田将生演じる“過去の過ち”を暴くルポライターが掃除屋3人とどう絡み、錦糸町のさまざまな社会問題にどうメスを入れていくのかが注目される。この先が楽しみなドラマのひとつだ。
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