クリントンが始めた世界の警察官をトランプがやめるという意味
フーテン老人世直し録(261)
霜月某日
ドナルド・トランプが大統領選挙で米国民から支持された理由の一つは「世界の警察官をやめる」と宣言したことにある。米国民はほとほと世界の警察官をやることに嫌気がさし、その限りにおいてはオバマ大統領の後継となるトランプに一票を入れた。それは「ネオコン」とは対立する共和党穏健派の主張とも合致する。
先月フーテンは「戦争に向かうヒラリーと戦争から逃げるトランプ」というブログを書いたが、オバマよりタカ派で理想家肌のヒラリーとは異なり、トランプの商売人的感覚は「戦争は他人にやらせてアメリカは戦争で儲ける」と考えているのではないか。
米国内にはこれまでも「アメリカは世界の警察官なのか?」とその役目を疑問視する声があった。特に民主党のクリントン政権が「人道」を理由に1999年に旧ユーゴスラビアで起きたコソボ紛争に介入した時、論争は燃え上がった。
そもそもアメリカが「世界の警察官」を自認するのは1991年に旧ソ連が崩壊し「唯一の超大国」となった時からで、それは共和党のブッシュ(父)政権時代だったが、実際に「世界の警察官」をやり始めたのは民主党のクリントン政権である。
ブッシュ(父)共和党政権時代のアメリカは湾岸戦争でもあくまでも国連が主導する多国籍軍の一員として米軍は派遣され、開戦の理由も第一次大戦以来国際社会が非合法とした「侵略」に対抗するためのものであった。
ところが旧ユーゴスラビア内で起きたセルビア人とアルバニア人の宗教対立で、クリントン大統領は旧ユーゴとセルビア人がアルバニア人を「民族浄化」していると非難し、「人道的立場」からアメリカが介入する「クリントン・ドクトリン」を発表、国連の承認を得ずにNATOとの同盟関係を優先してコソボ空爆に踏み切った。
これにセルビア側に立つロシアやNATOの一員であるフランスは反発し、米国内でもキッシンジャー元国務長官らがアメリカの国益と関係のない他国の紛争に「人道」や「民主主義」など普遍的価値を理由に介入することを批判した。米国民も理想のために世界から嫌われることが正しいのか疑問を抱いた。
そして国際社会では、クリントン政権の真の狙いは「世界の警察署長」となったアメリカが「署長代理」にイギリスを充て、NATO諸国にも警察業務を負担させるためあえてコソボ紛争に介入したのではないかと憶測された。
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