日本が自由貿易を主導してトランプを説得するという身の程知らず
フーテン老人世直し録(264)
霜月某日
アメリカ大統領選挙の結果を読み違え、結果が出る前にTPP協定を衆議院で強行通過させた安倍政権は、TPP撤退を選挙公約に掲げたトランプが次期大統領になったことに慌て、摩訶不思議なことを言い始めた。
保護主義の台頭を抑えるため、日本がTPPに代表される世界の自由貿易を主導し、トランプ次期大統領を粘り強く説得していくというのである。まるで日本が自由貿易のリーダーであるかのようで、アメリカ人が聞いたらびっくり仰天腰を抜かすのではないか。
安倍総理はクリントン大統領誕生を信じ、オバマ大統領がアメリカ議会でTPP批准を実現する側面援助として、日本がそれに先んじて今国会でのTPP批准を実現する方法と日程を考えた。
オバマ大統領に最も喜ばれる日程は、大統領選挙前に批准を確実にすることである。そして喜ばれる方法は、昨年の安保法制と同じように強行採決をやって強い意志をみせることである。安倍総理の意向は与党内部に深く浸透し、TPPの審議に関わる与党の人間は「強行採決」の四文字が頭から離れないようになった。
それが仇となり担当大臣まで「強行採決」を口にして審議の停滞を招いたが、しかし大統領選挙前に強行採決で衆院通過を図ることはできた。これで今国会の批准は確実である。ああそれなのに、大統領選挙の結果は「TPP脱退」を選挙公約にしたトランプが勝ってしまったのである。
トランプの勝利で「TPP脱退」は米国民の「民意」となった。それを外国人が、とりわけ日本人が説得して覆すことなどあり得る話ではない。やれば足元を見られて逆に徹底的に揺さぶられ、日本の国益を吸い上げられるのが関の山だ。
ところが今国会で批准すると決めてしまい、強行採決までしてしまった安倍総理には引っ込みがつかない。54万円もするゴルフクラブのお土産を持ってトランプとの「面会」に押しかけた。その行動をトランプがどう見たかはわからないが、安倍総理はトランプを「信頼に足る指導者」と持ち上げた。
ところが直後にトランプはインターネット動画で「TPP脱退」を明言する。トランプにしてみれば、ペルーのリマで開かれたTPPの閣僚会合もAPECも、クリントン元大統領やオバマ大統領が力を入れた会議であり、しかもそこでトランプの保護貿易主義が問題視されていた。「なにおっ!」と思ったトランプが次期大統領としての方針を各国の指導者に対して明確にぶつけてきたということだ。
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