トランプ大統領の返り咲きで日本の対米自立が達成されるかもしれない
フーテン老人世直し録(779)
霜月某日
私事で恐縮ですが、7日朝に入院しなければならなくなったので、米大統領選挙の結果が最終確定する前にブログを書く。現在日本時間で6日の夕方だが、トランプ候補の勝利はほぼ確定だ。
事前にメディアは「大接戦」と予想したがとんでもない。トランプの強さが際立つ選挙だった。実はフーテンはメディアの報道とは異なりかなり前からトランプの勝利を確信していた。なぜフーテンとメディアの見方が違うのか。そしてなぜトランプは強かったか。冷戦が終わる頃からワシントンに事務所を置いて米国政治を見てきたフーテンの考えを紹介したい。
第二次大戦後の世界を二分した米ソ冷戦の一方の雄、世界最大の核保有国であるソ連は、1991年12月に崩壊した。それによってアメリカは唯一の超大国として世界に君臨することになった。フーテンに言わせれば、それがアメリカの躓きの始まりである。
当時のアメリカの敵は、軍事ではソ連、経済では日本だった。アメリカはソ連とは兵器競争でしのぎを削り、日本とは貿易戦争を戦っていた。ソ連崩壊は一見平和の到来を思わせるが、しかし裏では核管理体制の崩壊という深刻な問題を生み出していた。
ソ連崩壊によって、ソ連の核科学者や核物質が世界に拡散される可能性が生まれたのだ。アメリカは北朝鮮や中東諸国の核武装に神経を尖らせなければならなくなり、ソ連が存在した時以上に軍や諜報機関の機能を強化しなければならなくなった。
一方、ソ連崩壊は国民に共産主義に対する民主主義の勝利を確信させた。そしてアメリカ民主主義を世界に広めることが自分たちの使命だと思わせた。そこに「ネオコン」と呼ばれる思想集団が登場し、民主・共和両党に浸透した。彼らは世界最強の軍事力で民主主義を世界に広めることを目的にしている。
冷戦崩壊後の最初の大統領である民主党のビル・クリントンとファーストレディのヒラリーは、ベトナム反戦運動に影響されたヒッピー世代で、キリスト教を基盤とする伝統的価値観とは異なる思想を持っていた。
特にヒラリーは日本の国民皆保険制度を評価し、アメリカに導入する旗振り役を務め、またアフリカの諺から「子供を育てるのは親よりもコミュニティが大事」という本を書いた。しかしそれらはアメリカの伝統的価値観と衝突する。国民から反発されたクリントン政権は中間選挙で大惨敗し、大統領再選が危ぶまれた。
すると夫妻は一転して国民皆保険導入をやめ、新自由主義と伝統的価値観の政策を取り入れ、デジタル技術でIT革命を成し遂げる方向に突き進んだ。クリントンはビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグらを育成する一方、アメリカが「世界の警察官」となり、民主主義を広める目的で世界各地に軍隊を派遣した。
さらに日本経済を打ち負かすため、中国を「世界の工場」にして国際経済に引き入れ、米中戦略的パートナーシップ協定を結んで日本経済に対抗した。そのためかつて日本の集中豪雨的輸出の犠牲となったアメリカ製造業は、今度は中国に雇用を奪われ、ラスト・ベルト(さびついた工業地帯)には悲惨な白人貧困層の世界が生み出された。
クリントンは「21世紀はグローバリズムの時代」と言い、IT革命でアメリカ経済を回復させたが、グローバリズムとはアメリカの価値観の押し付けである。その反発が世界各地に「反グローバリズム運動」を生み、とりわけイスラム世界でそれが過激な反米テロへと転化していく。
クリントンの次の大統領である共和党のブッシュ(子)は、チェイニー副大統領をはじめネオコンに取り巻かれ、軍事力で民主主義を広めることを使命と考えていた。そのブッシュ政権を9・11同時多発テロが襲う。ブッシュはすぐに「テロとの戦い」を宣言し、中東の独裁政権を民主化すると称してアフガニスタンとイラクを先制攻撃した。
「テロとの戦い」に全面協力したのはロシアの大統領になったプーチンである。プーチンは西側の軍事同盟であるNATOにロシアも加盟し、西側と協力体制になることを望んだが、ネオコンの狙いはあくまでもロシアの解体である。米ロは次第に対決色を強めた。
「テロとの戦い」はベトナム戦争を超える泥沼の戦争となり、クリントンのIT革命はバブル経済を生みだす。次のオバマ大統領は「世界の警察官」をやめると言い、イラクからの米軍撤退を表明したが、結局オバマは綺麗ごとを言うだけの大統領で、ネオコンを抑えきれずに終わった。
そこに登場してきたのがトランプである。2016年の大統領選挙でヒラリーと大統領の座を争った。ファーストレディの時代から大統領を狙っていたヒラリーは、それまでとは真逆のタカ派政治家に変身していた。ヒラリー大統領が誕生すれば世界は必ず戦争になるだろうとフーテンは心底思った。
幸いトランプ大統領が誕生したが、悪い噂ばかりで何を考えているのかよく分からない。しかしトランプは本気で朝鮮戦争を終わらせようとした。朝鮮半島の分断は冷戦の名残りで、世界を平和にする気のある大統領なら真っ先に手を付けなければならない問題である。
しかしクリントンはアジアに戦争の火種を残しておくため手を付けなかった。代わりにパレスチナとイスラエルの「2国家共存」を打ち出した。そして北東アジアには10万の米軍が配備された。アメリカが軍事でアジアを押さえ付けようとする意図だ。同時に日本に兵器を売りつけ金を巻き上げようとする意図もある。
ところがトランプは朝鮮戦争を終わらせ在韓米軍を撤退させようとした。在韓米軍の撤退は在日米軍の撤退につながる。ネオコンとは真逆の考えを見てフーテンはトランプとは何者かを真剣に考えた。他国の戦争には関わらないというモンロー大統領の影響がある。戦争を終わらせるには共産主義とも手を結ぶというニクソン大統領にも似ている。
そして何よりもトランプの言う「アメリカ・ファースト」とは、第二次大戦への参戦に反対した反戦団体「アメリカ第一委員会」を指している。当時の「アメリカ第一委員会」は国民の大きな支持を集め、ルーズベルト大統領は参戦したくともできずにいた。
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