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配偶関係別の死亡中央値年齢「未婚のまま高齢者となった男達はどう生きるか?」

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

短命な未婚男性

「未婚なのか、有配偶なのか」という配偶関係で寿命が変わるという話は、以前こちらの記事(「いのち短かし、恋せぬおとこ」未婚男性の死亡年齢中央値だけが異常に低い件)でも書いた通り、未婚男性だけが極端に寿命が短い。

寿命といっても、平均死亡年齢ではなく、死亡年齢の中央値の比較である。

おかげさまで上記の過去記事は、公開時に大いに話題になり、「未婚男性は短命」というタイトルなどでニュースやネット記事に取り上げられた。私自身もメディアからの取材を多数受けた。

これは、配偶関係別、男女別でみても、唯一未婚男性だけが60歳台で死亡というインパクトがあったからである。記事は1年以上たっても今でもよく読まれている。

さて、今回は2022年の人口動態調査確定報に基づいて、最新の配偶関係別死亡年齢中央値をご紹介したい。

ただ、以前の記事では、15歳以上の全年齢と50歳以上に限った場合とで2種類の数字を出しているのだが、前者で計算すると15-29歳の未婚者が大多数を占める数が含まれるので、より実態に即するのであれば後者で見た方がよい。

要するに、生涯未婚率と同等の考え方で、50歳まで未婚だった者はそれ以降も初婚する可能性がないと考えられるからである。

最新の配偶関係別死亡中央値

前回の記事の50歳以上死亡中央値データは、2015-2019年の累積値による計算だったが、今回は2022年の単年での配偶関係別死亡中央値である。

ご覧の通り、相変わらず未婚男性だけがもっとも低いという状態は変わっていないが、今まで60歳台だった死亡中央値は、71.1歳とかろうじて70歳を超える結果となった。未婚男性も寿命が延びているのである。

念のため、死別男女がもっとも長生きだからといって、「配偶者と死別すれば長生きできる」ということではない。あくまで配偶者と死別するまで有配偶状態が継続した結果にすぎない。

また、女性の場合、有配偶がもっとも短命に見えるが、これも「結婚した状態だと女性は早死にする」のではなく、そもそも有配偶のまま死亡する女性の総数が少ないためである。大抵の妻は夫より長生きだ。一般的に、多くの女性は有配偶のうちには死なず、死別女性として死亡するのだが、有配偶女性だけを抽出して死亡中央値を計算するとこういう結果になるだけのことである。

未婚男性にとって朗報?

さて、未婚男性の寿命が延びていることだが、これは当の未婚男性たちにとって朗報だろうか。

ひとつには、年金の問題がある。

60歳台で半分が死亡していると、せっかく現役の頃に支払っていた自分の年金すら満足に受け取らずに死んでしまうことになるのだが、71歳まで生きるのであれば、60歳から年金繰り上げ受給をすれば10年以上はいただけることになる(但し、政府が年金支払開始時期をより後ろ倒しにする可能性も高いが)。

少なくとも、すでに民間の個人年金をやられていた方は支給開始が60歳から、期間10年間であれば満額を本人が受給できることにはなる。

とはいえ、この未婚男性の寿命はここが天井ではないかもしれない。今までの傾向から推測すれば、さらに伸びる可能性がある。

2000年から10年単位で、50歳以上の未婚男性の死亡年齢分布を比較すると、10年単位で最頻値年齢が10歳ずつ順調に延びているからだ。もしかすると、2030年頃には未婚男性の死亡中央値も80歳を超えるかもしれない

もっとも、単純に寿命が延びることが是とも言えない。実際の寿命と健康寿命とは違うからだ。

健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を指す。一般的に、平均寿命より男性は約9年、女性は約12年、健康寿命は短い。

逆にいえば、80歳以上生きるということは、どこかのタイミングで介護や支援を必要とする時期が訪れ、それがそれくらいの長期間続くということでもある。

退職のタイミングに注意

特に、男性の場合、退職をするタイミングが大きな環境変化の転機となる。

提供:イメージマート

60歳でも65歳でもいいのだが、定年退職して、今まで長く依存していた「会社という所属」がなくなることで、途端に生気を失うタイプが多い。会社の中である程度、成果もあげて出世したタイプにこそ多い。

それでも、自分が打ち込める趣味があったり、家族や孫に囲まれているという環境がある場合はまだいいのだが、何もない未婚のひとり暮らしで無趣味だと一日中外出もせず、一言も他者と会話することなく過ごしてしまうことにもなる。

未婚男性の次に離別男性の死亡が早いのもそうした影響があるだろう。

未婚だけではなく、結婚しても、老後、男性も「一人で生きる」時間が長くなっているのは間違いない。

セルフネグレクトの入り口は「することがなくなること」である。

外出しなくていい、誰とも会わなくていい、ということから外見や服装に気を使わなくなり、やがて、風呂に入ることや歯磨きすることすら面倒になり、掃除もせず部屋がゴミ屋敷化し、やがて「食べる」ことすら面倒になっていく。

そのうち、自分でも気づかないうちに、肉体が液状化してしまうかもしれない。

定年退職してから考えるということではなく、50歳くらいから「会社を辞めたらこれをしよう」リストを作っておき、老後のスケジュールを埋めるための助走をしておくことが大事かと思う。特に、あれこれ言ってくれる人が周りにいない未婚男性諸君は。

「何をしても自由だ」というのは案外不自由なものなのである。

写真:アフロ

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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