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幸福感も低いが、自己肯定感もない独身男女が陥りやすい「思考の罠」

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

自己肯定感がない人が多い未婚

「未婚者は既婚者よりも幸福度が低く、男は女より幸福度が低い」という話は、こちらの記事でご紹介したが(→なぜ男性は不幸なのか。なぜ40~50代は不幸なのか。なぜ未婚の中年男性は不幸なのか)、幸福度と同じような傾向が「自己肯定感の有無」でも見られる。

ご覧の通り、自己肯定感も未婚者より既婚者の方があり、男より女の方がある傾向が強い。

幸福感については、「Uの字型」の法則がある。20代の頃がもっとも高く、40代で最低になり、50代以降さらには高齢者になるとまた高くなる傾向にあるのだが、自己肯定感は、むしろ20代から50代へと年代があがるごとに直線的に高まる特徴がある。

しかし、その特徴に唯一当てはまらないのが未婚男性だ。未婚男性はほぼ幸福感と同じように、20代が高く、40代で最低となる。これは20代未婚男性の自己肯定感が高いのではなく、30代以降のそれが他と比べて低すぎるのである。

未婚男性は、年を取れば取るほど自己肯定感も幸福度も下がる。自己肯定できないから不幸なのか、不幸だから自己肯定できないのか。

誤解されつつある「自己肯定感」

一方で、巷では「自己肯定感」という言葉がインフレを起こしているような気がしている。そういう言葉をタイトルにした記事や書籍がたくさん出て、並行して「自己肯定感をあげるセミナー」などのようなものもたくさん出てきている。婚活業界でも「モテるための自己肯定感の上げ方」などと打ちだして集客しているところもある。

同時に、あまりに有象無象が使い過ぎたことで「自己肯定感」という言葉の意味が勘違いされてきているという懸念がある。

一番多いのが「自己肯定感」と「自己有能感」の混同である。

自己有能感(自己有用感ともいう)とは、自分が有能・有用だと思える感情のことで、他者との関係で、自分の存在が誰かの役に立っている、貢献していると認識出来る時に起きる感情である。

一方、「自己肯定感」とは「自尊心」ともいうが、自分の存在の意義や意味を自分自身で信じられる感情のことである。

どこがどう違うのか?と思う人もいるかもしれないが、自己有能感とは基準が他者や社会という自分の外部にあるのに対して、自己肯定感とは基準は自分の内面にあるという点が大きく違う。

また「自尊心」と「プライド」は全く違うので注意が必要である。むしろ、自己肯定感のない人ほどやたら高いプライドという鎧で自分を守ろうとする。

写真:アフロ

有能でなければ肯定できなくなる

自己肯定感を自己有能感と混同している人は、あくまで他者の評価を気にする。他者から賞賛されたり、いいねをたくさんもらったり、偏差値だったり給料の額だったり、乗ってるクルマや来ている服、もっている時計の金額だったり…。そういうもので満足を得ているのは自己有能感が高い人であって、自己肯定しているとは限らない。

もちろん、自己有能感が高い人ほど自己肯定感もあるという相関はある。しかし、上記の意味の違いを把握しているならいいのだが、混同している人がはまりやすい危険な落とし穴がある。

それは「有能ではない自分は肯定できなくなる」ということだ。

試験の成績が悪かった、希望の会社に落ちた、給料が平均と比べて低い、フラれた…など何か失敗やしくじりをするたびに「ああ、自分は有能ではない」と感じると同時に「こんな無能な自分は嫌だ」と自己否定につながってしまう。

未婚男性の自己肯定感が低いのはまさにそんなところに原因があるのではないか。

事実、既婚者は「有能ではないけど自己肯定感がある人が多い」のに対し、未婚男女は、「有能であると感じる人しか自己肯定感を感じられない」という傾向が顕著である。

もちろん、個別に見ればそれぞれ違うし、未婚と既婚と単純にひとくくりにはできないが、大まかな傾向としてとらえていただきたい。

「自己肯定感をあげるには」という罠

本来、有能であることと自分を認めることとは別である。もっといえば、自分の評価を他人の評価に依存してどうする?という話である。にもかかわらず、他人の評価でしか自分自身を感じられなくなってしまう危険性は多くの人に内在している。それは、もはや自分自身を見失っている人にもなりかねない。

ところで、こういう話をすると必ず「自己肯定感をあげるにはどうすればいいですか?」という質問が来る。

自己肯定感は学校や仕事上の成績ではない。こうすればあがるなんてハウツーは存在しない。それどころか「こうすればあがる」ということだけに支配されて、「こうすれば」ができない自分はダメだ…とますます自己肯定できなくなるだけだろう。そもそも自己肯定感は高ければいい、低いとダメだというものでもない。

だから、「こうすれば自己肯定感が爆あがりします」なんてことを言って近づいてくる輩には注意した方がいい。彼らがあげたいのはあなたの自己肯定感ではなく、自分の売上の方だけだ。

提供:イメージマート

とはいえ、ひとつヒントを出すとすれば、自己肯定とは、自分を肯定することではないということだ。肯定も否定もしない。ことさら「自分大好き」になる必要もない。むしろ「自分に慣れる」ことこそが自己肯定の鍵なのである。

「慣れる」とはどういうことか。

長くなったので「鍵」の話の続きは次回へ。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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