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未婚男性が短命なのは食生活だけじゃない、もはや健康ですら「贅沢な消費」と化した

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

短命な未婚男性の死因

大きな反響をいただいた前回の記事(「いのち短かし、恋せぬおとこ」未婚男性の死亡年齢中央値だけが異常に低い件)の続き。

未婚女性も既婚男女も長生きなのに、なぜ未婚男性だけ短命なのか?という点について深掘りしたい。

未婚男性が短命であるという要因をまずその死因から見てみる。2020年における男性の死因を有配偶と未婚別に比較してみよう。

データは45-64歳までのいわゆる現役世代の働き盛りの男性の死因を配偶関係別の構成比と当該年齢全体の構成比と比べたものである。

プラス表示(右側に伸びている)になっているものは、全体の構成比より高いもの、すなわちその属性の死因が多いことを意味する。あくまで死因構成比の比較なので死亡率ではない。

一目瞭然で、明らかに有配偶男性と未婚男性とではその死因構成が大きく異なる。有配偶男性が上回るのは悪性新生物(癌)のみで、他はほとんど未婚が上回る。

未婚は、腎不全比率がもっとも高く、高血圧性疾患、糖尿病と続く。特に、糖尿病や高血圧性疾患などは生活習慣によるところが大きいといえよう。

未婚に癌での死亡が少ないのは、決して癌に対する耐性があるわけではなく、癌が発症する前に上記生活習慣病によって死亡しているものと推測される。

未婚男性の食生活

未婚中年男性がこうした生活習慣病に罹患しやすいのは、ほぼ食生活だろう。

家計調査によれば、単身男性(勤労者)のエンゲル係数は高く、特に外食費は、コロナ前の2019年まででいえば、1家族の外食費の2倍近い出費を一人でしている。未婚女性と比べても圧倒的に外食出費額は高い。

外食が悪いわけではない。外食でも栄養のバランスを考えれば問題はない。が、未婚男性の場合はどうも食生活に偏りがあるようだ。

同じく、コロナ前の2019年家計調査における単身男女と二人以上世帯の(家族)の品目別外食を細かく見ていくと、単身男性は単身女性や家族に比べて圧倒的に「ラーメン(中華そば)」と「焼肉」の消費額が飛びぬけて大きい。特に34歳以下の単身男性の消費額は、一家族の1.6倍になる。

外食以外の普段の食生活においても、弁当や唐揚げなど揚げ物の消費量が高く、どうしても糖質や脂質の多い食事になりがちである。

※単身男性の出費が家族を上回るのは、あくまで外食費のみであり、食費全体で見れば単身男性より家族の方が逆に1.6倍も多い。いかに単身男性が極端に外食偏重しているかがわかる。

幸福感を食べる未婚男性

これは未婚の特に中年男性の不幸度の高さとも関係する(なぜ男性は不幸なのか。なぜ40~50代は不幸なのか。なぜ未婚の中年男性は不幸なのか)。

不幸感と食事がどう関係するのか、と思うかもしれないが、糖質は、手っ取り早く興奮物質(ドーパミン)を分泌できるからである。

砂糖・塩・油の多い食物は、瞬時に脳のドーパピンが分泌され、その興奮によって幸せ感を得られる。しかし、即効性はあっても持続性がないのでまたすぐほしくなる。そうしていわば依存的な習慣になってしまう。

写真:イメージマート

若い頃ならまだ運動量も多く、新陳代謝も高いので影響は少ないが、中年になるとそうした偏食生活のツケが生活習慣病という形で返ってくる。

外で飲みたい単身男性

もうひとつは、お酒である。

ニュースでは若者の酒離れというのがたまに話題化されるが、酒離れの最たるものは、中年以降の酒量の減少であり、決して若者の酒離れのせいではない。そもそも若者は昔から酒をそれほど飲まない。

しかし、コロナ禍によって飲食店が制限される前の2019年の家計調査をみると、家族より単身男性の方が圧倒的に酒を飲んでいる。特に「家飲み」ではなく外の飲食店での「外飲み」が多いのだ。

外で酒を飲めば、当然アルコールとともにツマミでの食事量も増える。締めにラーメンなども行きたくなってしまうだろう。

そうした生活を継続していれば、当然肥満という形で表出する。未婚男性のメタボ率は年々あがっているという調査結果もある。

メタボはおじさんだけの問題じゃない~男の未婚率の増加と肥満割合の上昇が完全にリンクしている件

写真:イメージマート

医者に行くのが面倒くさい

さらに加えて、単身男性たちは医者に行かない。家族と比較しても、同年代の単身女性と比較しても。

多分これくらい食生活が乱れていれば、会社の健康診断などで異常値が出ていることもあるだろう。しかし、彼らにはそれを心配してくれる相手も「医者に行け」とうるさく言う(言ってくれる)相手もいない。そもそも医者とか検査とか面倒くさがり、特に、身体のどこかが痛いわけでもない場合放置してしまう人も多いだろう。

有配偶と未婚の男性の大きな違いは、普段の生活習慣に加えて、医者に行かないという行動の差があり、これらが積もり積もって寿命の差という形で表れるのかもしれない。

健康も贅沢品となった

とはいえ、これらがすべて本人の意識の問題とするのも乱暴である。

どうして未婚男性が糖質・脂質の多い食生活になってしまうのか、どうして彼らが医者に行かないのか、という点を別の視点でとらえると、それは「お金がない」という経済問題であるかもしれないからである。

安価で満足感を得られる食事を考えればどうしても食事の幅は限られるし、ちょっとくらいの身体の不調でも医者になんか行っていられない、入院なんかしたら仕事できなくなるという人もいる。彼らの生活は意識の問題ではなく、彼らのおかれた環境によるものかもしれない。

身体に良い食事やジムに行ったりすることや、医者にかかれるということは、ある種それだけで十分裕福なことであるわけである。

男性の未婚と経済環境とは強い正の相関があり、彼らの経済環境はそのまま生活環境と密接に関係し、影響する。とかくいろんな問題を「個人の意識や価値観の問題」にすり替える人が多いが、意識や価値観などは環境の違いで決まるのである。

この連載でも何度も言及しているが、「結婚とは贅沢な消費である」と同様に、もはや「健康も贅沢な消費」なのである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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