99%の人ができていない 1%の人だけが持っている「課題設定スキル」とは?
■まず「問題」をわかっていない人が大半である
「解決策がわからないのではない。問題がわかっていないのだ」
ギルバート・チェスタートンの名言である。VUCAの時代となり、
「どうすればうまくいくのか? やり方がわからない」
と嘆く人が急増している。しかし「やり方」を見つけようとする前に「あり方」を正しく理解しているだろうか。「あり方」がわからなければ、問題を特定できないし、「やり方」を見つけることもできない。
マネジャー研修をしていると、私は必ず「ある質問」をする。その質問とは、
「今の職場で抱えている問題を一つ挙げてください」
である。
「パッと思いつくままに書いてください」
と促すと、次のようなことを口にするマネジャーが多い。
「部下のモチベーションが低い」
「仕事が偏っている」
「情報共有ができていない」
「仕事の効率が悪い」
「報連相がない」
この中でも圧倒的に多いのが「部下のモチベーションが低い」である。「意識が足りない」「当事者意識がない」「主体性に欠ける」「危機感が感じられない」などパターンは様々だが、だいたい意味は同じである。
しかし、
「その問題のあるべき姿は何ですか?」
と質問すると、多くのマネジャーが混乱しはじめる。問題についてはすぐに思いつくが「あるべき姿=あり方」がパッと思いつかないのだ。
■問題を特定する「鉄板の公式」とは?
「部下のモチベーションが低い」ことを問題だとしたマネジャーは、あるべき姿を「部下のモチベーションが高い状態」「主体性を発揮して活き活きと仕事をしていること」などと口にする。
このように問題の反対を、あるべき姿にしてしまうのだ。
「それでは、現状はどうなっていますか?」
と3つ目の質問をすると、頭が整理できないマネジャーたちは、さらに混乱する。そして問題と同じようなことを表現してしまう。
「だから、現状は部下のモチベーションが高くない状態なんです」
「主体性が足りないし、もっと意識を高くしてもらいたい」
読めばわかるだろう。ほとんど愚痴である。
ご存じのとおり、問題とはあるべき姿と現状とのギャップである。公式は次の通りだ。
・問題=あるべき姿ー現状
ただし、できればこの式は次のように書き直して頭に入れておきたい。
・あるべき姿=現状+問題
こうすれば問題を間違えて捉えること人は減ることだろう。さらに変数の特徴を式に追記すると、こうなる。
・あるべき姿(固定)=現状(変動)+問題(変動)
あたりまえだが、あるべき姿は不変だ。変わることはない。しかし現状は常に変動するわけだから、問題も常に変動する。したがって、
「問題は何ですか?」
「あるべき姿は何ですか?」
「現状はどうなっていますか?」
と質問されたとき、パッと答えられるのは「あるべき姿」だけだ。問題を答えるためには、現状を調べたうえでないと表現することはできない。なぜなら、問題はあるべき姿と現状とのギャップ(差分)だからだ。引き算でしか、表現しようがないのである。
■わかりやすい事例で「問題」を整理してみる
わかりやすい事例で表現してみよう。次の事例を見れば、スッと頭に入るはずだ。
・あるべき姿:英語のテストで90点をとる
・現状:70点しかとれない
・問題:20点足りない
「あるべき姿=現状+問題」の式で表現すると、次のようになる。
・90(あるべき姿)=70(現状)+20(問題)
90点というあるべき姿は固定だ。マラソンのゴール地点と同じで、この「あるべき姿」が変わってしまうと目指しようがない。日々意識してマネジメントサイクルを回せないだろう。いっぽう70点という現状は常に変動する。テストを受けるたびに変わるし、もちろんそのギャップ(差分)である20点も、その都度変動する。
だから、この3つの変数を考える際は、
・あるべき姿が問題の反対になっていないか?
・問題と現状が同じようになっていないか?
を自問自答し、チェックしてほしい。
「問題が山積みだ」
「何から手を付けていいかわからない」
と悩んでいる人は、チェスタートンの言葉のとおり「問題がわかっていない」ことが多い。単に、自分が困っていること、気になっていること、心配していることを問題だ、と勘違いしているのだ。だからいつまで経っても、問題が解決しない。
■問題と課題の違いとは?
大半の人が問題をわかっていないのだから、正しく課題を設定できる人は1%ぐらいしかいないのではないか。100人いたら1人ぐらいの計算だ。
実際に300人、400人集まる講演で問いかけても、課題設定スキルがある人を見つけることはかなり難しい。
まず問題と課題の違いについて、ハッキリしておきたい。問題とはあるべき姿と現状とのギャップだ。先述したとおりである。それでは、課題とは何か? 課題は、
・問題を解決するうえで現実的に取り組めるテーマ
のことである。「課題=解決策」ではなく「テーマ」と表現したほうがいい。KPIマネジメントで表現すると「KSF(Key Success Factor):重要成功要因」である。
小難しいことを書いているとわかりづらいので、先述した例で表現してみよう。
・あるべき姿:英語のテストで90点をとる
・現状:70点しかとれない
・問題:20点足りない
この例で考えた場合、「20点足りない」という問題を解決するために考えられる課題は、以下の3つである(あくまでも例)。
(1)リスニング力を強化する
(2)ボキャブラリーを増やす
(3)文法を学び直す
問題を解決する唯一無二の解決策など存在しない。この例からすると、
「あなたが英語のテストで90点をとるには、コレさえやればいい」
と言えることは「ない」はずだ。とはいえ上記の3つの課題さえやっていれば、確実に90点をとれるかというと、そうでもない。あくまでも「重点課題」というだけである。
しかし問題解決とは、そういうものだ。簡単な問題なら、誰も悩むことはない。困ることも少ないだろう。複合的な要因で問題は解決(目標達成)するものだからだ。
したがって、問題を正しく特定できたら「問いを立てる力」を駆使して課題を設定するのだ。そこから逃げてはならない。
■「課題設定スキル」がなければ正しいKPIを導きだせない
課題(KSF)が設定できたら、あとはそれぞれに「KPI(Key Performance Indicator):重要成功指標」を設定しよう。たとえば、次のようなものだ。
(1)リスニング力を強化する → リスニングの教材を使って週に4時間勉強する
(2)ボキャブラリーを増やす → 単語帖を使って毎日10個ずつ覚える
(3)文法を学び直す → 高校一年生の英文法の教科書を使って毎週日曜日に2時間勉強する
このようにKPIを「いつ」「何を」「どのように」「どれぐらい」と詳しく表現すればアクションプランとなって、マネジメントサイクルを回せるようになる。
KPIをパッと思いつく人は多いだろう。しかし、それ以前に正しい問題を特定し、そのうえで課題設定できるスキルがなければいけない。
課題設定スキルはかなり高度な技術である。「ロジカルシンキング」「仮説思考」「フェルミ推定」など、総合的な思考技術が必要であり、私たちコンサルタントが最も求められるスキルと言っていい。
経験豊かなトップコンサルタントになると、現場に入り、一次情報(客観的なデータに基づく事実)、二次情報(一次情報をもとにして得た情報など)を入手したら、素早く課題を設定することができるだろう。しかも効果的でシンプルな課題を、である。
「問題が山積みで、何から手を付けたらいいかわからない」
などと決して言わない。
トップコンサルになる必要はないが、VUCAの時代である。すべてのビジネスパーソンに不可欠なスキルだ。情報感度を高め、日ごろから「問いを立てる力」を鍛えつつ、この課題設定スキルを磨いていこう。
<参考記事>
■頭がいい人の「問いを立てる力」とは? 初心者が驚くほどコーチング技術を身につけられる秘策