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【どっちが本当?】「減塩」で血圧は下がる?脳卒中や心筋梗塞は減らせる?臨床試験が示した真実。

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

「減塩は無駄」は本当?

「高血圧」や「血圧高め」だと必ず指導されるのが「減塩」。意味するところはナトリウム摂取制限です。世の中には「減塩食品」も増えてきました。

しかしこの「減塩」、一部ではあまり評判が良くないようです。特に週刊誌などでにはよく「血圧を下げるのに減塩は無駄」とか「減塩しても脳卒中や心筋梗塞は減らない」などという医師のコメントが並びます。

かかりつけの先生と言っていることが違うな」と困った方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は簡単に「減塩」と「血圧」、そして「健康」について報告している論文を簡単にご紹介します。「減塩」が本当に役に立つのか無駄なのか、ぜひ、ご自身の目で確認してみてください。

なぜ「塩」で血圧が上がる?

その前に「塩を摂るとなぜ血圧が上がるのか」を見ておきましょう。

ひとことで言えば「血液中のナトリウム濃度を一定に保つため」です。

血中のナトリウム濃度には許容範囲があり、高すぎても低すぎてもさまざまな不具合が生じます。

そのため「低すぎる」時には「レニン・アンジオテンシン系」というホルモンシステムが作動し、ナトリウムの排出を防ぎます。この作用はかなり強力なので、よほどのことがないとナトリウム不足にはなりません

一方、ナトリウム濃度が高すぎる時はもう少し簡単で、血液中の水分量を増やして薄めます。すると血液の量が増えるので「血液が血管壁を押し出す力」=「血圧」が上がるというわけです。

そのため血圧が高い場合、「高すぎるナトリウム濃度」を疑って「減塩」が勧められるのです。

減塩による血圧低下は医学的に証明されている

減塩によって血圧が下がることはすでに、「ダッシュ・ナトリウム」という臨床試験で証明されています [文末文献1]。

米国で血圧「140~159/90~95 mmHg」の204人に、ナトリウム含有量「低」「中等」「高」の食事を30日間ずつ食べてもらったところ(順不同)、ナトリウム含有量「高」の食事を摂っている時に比べ「中等」食では血圧が「2.1/1.1 mmHg」低くなっていました。

さらにナトリウム含有量「低」食では「中等」食に比べても「4.6/2.4 mmHg」も血圧が下がっていたのです。

この研究はランダム化比較試験という信頼性の高い方法で実施されており、信頼性は抜群です。論文は「ニューイングランド医学雑誌」という臨床医学では最も信頼性の高い学術誌が採択。2001年の掲載時には大きな話題となりました。

減塩で血圧が下がらない人はあまりいない

「減塩による降圧」に懐疑的な人たちがよく持ち出すものに「食塩抵抗性」があります。この言葉は「塩(ナトリウム)を摂っても血圧が上がらない」性質を意味します。ただし医学的にはこの言葉の定義は一定せず、また検査法も確立されていません。「食塩抵抗性は存在しない」と信じている医師もいます。

では実際、減塩するとどれほどの割合で血圧は下がるのでしょう?答えは「少なくとも75%」。高血圧の有無を問わず米国で集めた213人で確認されました。昨年報告された「カーディア・SSBP」という臨床試験で明らかになった数字です [文末文献2] 。

さらにこの試験では「減塩による降圧作用」に「人種差」がないことも分かりました。「食塩抵抗性」の人が「少ない」と言われているアフリカ系米国人と「多い」とされる白人の間で、減塩による血圧低下幅には差がなかったのです。

つまり「食塩抵抗性」のあるなしは「減塩による降圧作用」とはあまり関係ないと考えられます。

この研究を採択したのは「米国医師会雑誌」。こちらも信頼度は高い学術誌です。

ナトリウム制限で血圧が下げれば「脳卒中」や「心筋梗塞」なども減る

そして「減塩」で血圧が下がれば、恐ろしい「脳卒中」や「心筋梗塞」も減らせます。中国で1,612名を対象に実施された、「ナトリウム減少塩(ナトリウムを一部カリウムで代替」と「通常食塩」を比べた臨床試験、「ディサイド・ソルト」で明らかになりました [文末文献3] 。

「ナトリウム減少塩」群では「通常食塩」群に比べ、血圧が7.1/1.9 mmHg低くなり、「脳卒中と心筋梗塞、心不全、血管系疾患による死亡」は相対的に40%も減っていました。

(万国著作権条約にのっとり引用)
(万国著作権条約にのっとり引用)

この研究は「ネイチャー・医学」という学術誌に載りました。ネイチャーはみなさん、ご存知ですよね。

最後に

いかがでしたか?

減塩による血圧低下や心臓血管系疾患抑制は、きちんとした臨床試験で確認されている」というお話でした。ちゃんと勉強されているドクターならみなさん、ご存知の論文です。

週刊誌などに載る、一見、医学常識に反した意外な記事は面白おかしく読めますが、自分の体を守れるのは自分だけです。「高血圧」「血圧高め」ならもう一度、食生活を見直すのも一つの手ではないでしょうか。

「食塩」と「血圧」については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひご覧ください。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 減塩で血圧は下がる(ダッシュ・ナトリウム試験)
  2. 減塩で血圧の下がらない人は少ない(カーディア・SSBP試験
  3. 減塩で血圧は下がり脳卒中や心筋梗塞なども減る(ディサイド・ソルト試験)

【注意】本記事は最新の医学論文についての紹介あり、研究結果の文責は「論文筆者」にあります。また論文の解釈は論者により異なる可能性もあります。さらにこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性もゼロではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。15年以上にわたり、新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌、会員向け情報誌などに寄稿。近年では医師向け書籍も共著で執筆。国会図書館収録記事数は3桁。日本医学ジャーナリスト協会会員(含筆名)。

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