規則正しい起床/就寝だけでも糖尿病を遠ざけられる?7万4千人を8年観察で明らかに【最新情報】
「糖尿病」という名では病気の本質がわかりにくい?
最近「ダイアベティス」と呼び名を変えようという動きのある「糖尿病」[関連報道]。確かに「糖尿病」という名前ではどういう病気かよく分かりませんね。
簡単に理解できる現象としては「血中の糖分が増える」=「血糖値が上がる」ですが、病気として怖いのは血中の糖が増えた結果、血管がボロボロになりかねないという点でしょう。
例えば、眼球や腎臓を走っているとても細い血管(「細小(さいしょう)血管」と呼ばれています)がダメになると、失明したり尿が出なく(腎不全)なったりします。これはよく知られていますね。
それ以上にここ10数年で注目されるようになったのが、もっと太い血管への影響です。
具体的には心筋梗塞のように、(血管の内部が詰まったり狭まったりした結果)の壁に十分な血液(酸素と栄養)を血管が届けられない「冠動脈疾患」(冠動脈:心臓の壁を走っている血管です)や、あるいは脳の血管が破れたり詰まったりする「脳卒中」を起こすリスクが、糖尿病患者ではかなり高くなります。
これは九州の久山町という場所に住んでいる約2500人を8年間観察した結果です。
糖尿病の人は糖尿病でない人に比べ、脳卒中のリスクが2〜4倍、冠動脈疾患リスクも同じくらい、上昇していました。
もちろん治療すればこのリスク増加は抑制できます。でもできるなら、糖尿病自体の発症を予防した方が楽ですよね。
「睡眠」に気を配るだけで2型糖尿病になるリスクを下げられる可能性
でも糖尿病、それも私たちには馴染みの深い「2型糖尿病」の予防と言えば、日本糖尿病学会のガイドラインを見ても、「身体活動性を上げる」や「飲食物に気をつける」など、どれも「耳にタコ」の内容ばかりです。
そんな中、「毎日規則正しい睡眠を取れば2型糖尿病になるリスクを下げられるかもしれない」という研究が報告されました。
睡眠の「長さ」や「質」には着目していないところが新鮮です。
調べたのはオタワ大学(カナダ)のジャン=フィリップ・シャビエット教授たち。論文は米国糖尿病学会が発行する「糖尿病ケア」という、この領域では世界で一二を争う信頼性の高さを誇る学術誌です(掲載日は2024年10月10日)[文末文献1]
7万4000人の睡眠規則性を手首装着型の加速度センサで把握
シャビエット教授たちが調べたのは、英国在住の40歳以上で糖尿病と診断されたことのない約7万4000人です。
観察を始めるにあたり7日間、手首装着型の加速度センサ(身体活動性をモニタ)をつけてもらい、「睡眠の規則性」を調べました。
規則性の評価には「睡眠規則性指数」という指標が使われました。毎日同じ時間に就寝していれば「100点」(満点)です(点数が下がるほど不規則性が高い)。
そして「睡眠規則性指数」の高低で全体を3群に分け、「指数」が最も高い群を「睡眠規則性:高」群、最も低い群を「睡眠規則性:低」、そして真ん中の群を「睡眠規則性:中等」と評価しました。
「就寝・起床時間」が一定しているほど、2型糖尿病になりにくかった
そして8年後。
「睡眠規則性:低」群では「睡眠規則性:高」群に比べ、2型糖尿病となっていたリスクは相対的に38%も高くなっていました(1.38倍)。
「睡眠規則性:中等」だった人たちも同様です。「睡眠規則性:高」群に比べ2型糖尿病を発症するリスクは相対的に35%の上昇が認められました。
さらにこれらの群区別を取っ払って全体で調べると、「睡眠規則性指数」が低くなるほど2型糖尿病を発症するリスクが高いことも分かりました。
興味深いのは、「睡眠時間の長短」に関係なく、上記の関係が認められた点です。
つまり睡眠時間が十分でも、就寝・起床時間のバラツキが大きい人では、2型糖尿病になるリスクは高くなっていたのです。
日本糖尿病学会のガイドライン(473頁)には「7時間睡眠で最もリスクが低下」と明記されていますが、「7時間も睡眠時間を取れない」「7時間以上眠りたい」人たちは就寝・起床時間だけでも日々、揃えるようにした方が方が良いかもしれません。
最後に
もちろんこの結果だけでは、「低い睡眠規則性」が2型糖尿病のリスクを上げているとは断言できません。観察開始時に糖尿病発症直前だった人が、うまく眠れず睡眠が不規則になった可能性もあります。
でも実はこの研究、観察開始から1年以内に糖尿病を発症した人たちは除かれているのです。なのでそのような可能性は低いでしょう。
シャビエット教授たちも「低い睡眠規則性」は2型糖尿病発症のリスクではないかと考えているようです。
いずれにせよ、2型糖尿病を避けたければ、就寝時間と起床時間だけはできるだけ一定にしておいた方が良さそうです。
「糖尿病の予防」については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひご覧ください。
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