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たった5分間でも体の使い方次第で血圧は下がる。1万5千人データで分かった意外な事実【最新情報】

黒澤恵(Kei Kurosawa)医学情報レポーター

今どき薬で血圧をドカンと下げるドクターはいるのか?

いまだに本屋さんで雑誌を開くと時々見かけますね、「血圧は下げないほうが良い」という記事を(今週もどこかで読んだような・・・)。

そういう記事では大抵、血圧を下げる薬(降圧薬)の副作用が強調されます。

「飲み始めたらフラついた」「頭がぼーっとした」「元気がなくなった」などです。

確かに、降圧薬を使っていきなり「ドカン」と血圧を下げれば、そりゃ体が対応できなくて不都合も出てくるでしょう。

でも今どき、そんなドクターっているのでしょうか?

私が仕事でお目にかかるドクターはまず例外なく、降圧薬を始めるときは最も少ない量から始め、不十分で増量する時も副作用を注意深く警戒される方ばかり。

副作用が出ると患者さんが来なくなってしまうおそれがあるので、一般的にクリニックのドクターはとても慎重です。

「〇〇(薬の名前)はキレが良い(血圧がスパッと下がる)」などと言って重宝していたのは、もはや30年も前の話です。

自分は「超人」だという確信がない限り血圧は下げたほうが良い

それはさておき、血圧を下げないと何が起きるか。おなじみのグラフを見ていただきましょう。

万国著作権条約にのっとり引用
万国著作権条約にのっとり引用

日本人およそ6万7千人で「血圧」別に、その後、脳卒中や心筋梗塞などの「心臓血管系疾患」で死亡するリスクを調べた結果です。

75歳を超えるとそうでもありませんが、それより若いと、血圧が高いほどその後に心臓血管系疾患で死亡するリスクが高くなっているのは明らかです。

もちろん、世の中どんなことにも「例外」は存在します。だから血圧が高くても血管が痛まず、何年も元気でピンピンしている「超人」もいるでしょう

でもそれはあくまでも「例外」。自分が「超人」だという確信がない限り、やはり血圧は下げたほうが良さそうです。

1日5分間、体の動かし方に気をつければ血圧は下がる

さて血圧を下げる基本は「生活習慣の改善」です。

「運動」「減塩」などは耳にタコができていますよね。

そこで最新データです。運動はたとえ5分だけでも、血圧を下げられるようです [文末文献1] 。

魅力的な話ではありませんか?

これを見つけたのはユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(英国)のジョアンナ・M・ブロジェット博士たち。論文は「サーキュレーション」(循環)という、心臓血管系疾患領域では掲載の難しさで世界1、2を争う学術誌に掲載されました。

手短にご紹介しましょう。

1万5千人の身体活動を「1日24時間×7日間」加速度計で客観評価

ブロジェット博士たちが調べたのは、欧州在住のおよそ1万5千人。7日間連続で太ももに加速度計を装着してもらい、その間の身体活動を評価。血圧との関係を探りました

加速度計で身体活動を客観的に把握しているところが、この研究のウリです。

加速度計データから身体活動を「睡眠」「座位」「立位(立っているけど歩かない)」「ゆっくり歩き」「早歩き」「ランニング・自転車乗り・坂道/階段上り」の6つに分類しました。

鍵は1日5分の「坂道/階段上り」

すると「睡眠」「座位」「立位」「ゆっくり歩き」「早歩き」の時間を5分間「ランニング・自転車乗り・坂道/階段上り」に置き換えるだけで、上の血圧(収縮期血圧)は0.7 mmHg下がることが明らかになりました。

「たった0.7 mmHg?」と思われるかもしれません。でも「塵も積もれば山となる」。まずは毎日できるところから手をつけませんか?

駅や建物の中でエスカレーターを使わなければ、1日5分間の階段上りは案外簡単に達成できますよ。

さらに、「睡眠」「座位」「立位」「ゆっくり歩き」「早歩き」を「ランニング・自転車乗り・坂道/階段上り」に「20分間」置き換えられれば、収縮期血圧は「2 mmHg」も低下することも分かりました。

「2 mmHg」という数字は無視できない大きさですね。ジムなどで運動される際の参考として覚えておいてください。

ぐずぐず起きていないで眠るのもオススメ

この解析でもう一つ面白かったのは、「2時間50分座っているなら、いっそ眠ってしまった方が、収縮期血圧は2mmHg下がる」というデータです。

ベッドの中でスマホを見ている時間があれば、さっさと眠ってしまったほうが血圧には良さそうです。また通勤されている方は、これで大手を振って電車の中で眠れるのでは?

いかがでしたか?

血圧については次のような論文紹介記事も書いています。こちらもぜひ、ご覧ください。今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。ではまた!

今回ご紹介した論文

  1. 生活習慣と血圧の関係:1万6千人横断解析

本記事は医学論文の紹介です。データの解釈は論者により異なる場合もあります。またこの論文の内容を否定する論文が存在する可能性も皆無ではありません。あくまでも「参考」としてご覧ください。

医学情報レポーター

医療従事者向け書籍の編集者、医師向け新聞の記者を経てフリーランスに。15年以上にわたり新聞社系媒体や医師向け専門誌、医療業界誌、会員向け情報誌などに寄稿。近年では医師向け書籍も共著で執筆。国会図書館収録記事数は3桁(含筆名)。日本医学ジャーナリスト協会会員。

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