有名芸人のカニチャーハンがカニカマだった炎上事件はよく起きることか?
メニューと実物が異なる
お笑いコンビ「ライス」の田所氏によるTweetが物議を醸しており、記事を執筆している時点で、1万2千以上のリツイートがあり、1万7千以上のいいねが付いています。
Twitterに投稿した写真を見てもらえれば分かるように、中華料理店と思われる飲食店で注文した際に、実物がメニューの名前や写真と大きく違っていたのです。メニューには「カニチャーハン」と明記されており、写真ではほぐしたカニの身がしっかりと載せられていましたが、実際にはカニカマがバラバラと散らされているだけでした。
法的観点ではキャンセル可能
<蟹チャーハンにカニカマが…支払いは拒否できる?>という記事でも取り上げられており、法律的な観点から説明されています。
飲食店の不完全履行なので注文をキャンセルできると述べられていますが、一般的な消費者の感覚と極めて近いのではないでしょうか。
考察する点
法律的な観点からの見解に驚く点はあまりないので、この記事では別のことを考察してみます。
この事件と同じように、実物がメニュー名や写真と異なるのはどういった場合があるのか、また、よく起きることなのかを考えてみましょう。
以下のポイントに関して考察します。
- 実物と異なる内容
- 業態による違い
実物と異なる内容
この事件では、メニュー名が「カニチャーハン」であり、写真に記載されているのもカニであったにも関わらず、実際に使われているのはカニカマであったことが問題となりました。
実物と異なることで、問題となるのは以下の場合です。
- 食材
- ボリューム
- 調理方法
食材
食材が問題となる場合は、まさに今回の場合です。実際にはメニュー名や写真と異なる食材が使われており、しかもそれが劣ったものであると大きな問題となります。
例えば、黒毛和牛と謳っているのに国産牛や交雑種(F1)であったり、国産野菜であると記されているのに外国産野菜であったり、ブランド米であると説明されているのにマイナーブランド米であったりした場合です。
マグロではなくアカマンボウ、イクラではなく人造イクラやマスの卵、タラバガニではなくアブラガニなど、魚介類でよく見掛けられる代用魚も同様になります。
先の例では、実際には劣っている食材を提供しているわけなので、あからさまに計画性があって意図的であったとすれば、詐欺行為となるでしょう。こういった食品偽装が発覚してしまうと、どのようなブランド価値をもった飲食店であってさえも、信頼は一夜にして瓦解してしまいます。
では、食材がグレードアップさせられていた場合はどうなのでしょうか。
国産牛と記載されているのに黒毛和牛が使われている場合には、食材費が何倍も高くなっているので問題ないように思えますが、これはこれで問題となります。何故ならば、脂がしっかりと入った黒毛和牛が苦手なので国産牛を選んだという人もいるからです。
メニュー名や写真と同じ食材を使わなければならないのは、値段や希少性の問題ではなく、飲食店と客の約束事の問題になります。
アレルギーや宗教的な問題とも関係するだけに、メニュー名や写真、説明と同じ食材を提供できないのであれば、飲食店は提供する前に説明しておくべきです。
ボリューム
次に、ボリュームです。<東京ゲームショウ2017「ステーキ事件」は何が問題なのか?>でも取り上げたように、あきらかに写真とボリュームが異なる場合にも問題となります。
何故ならば、たとえ食材の質は同じであったとしても、ボリュームも値段に深い関係があるからです。
写真では器一杯に盛られており、値段も一人前程度に設定されているのに、実際には器にスカスカの分量しか盛られていなければ、苦情が発生するでしょう。
難しいのは、アラカルトのボリュームに関する説明です。「2~3人前」や「4~5人前」などと記載される場合がありますが、1杯が1人前の丼物などとは異なるだけに、実際にはどれくらいのボリュームになっているのかイメージしづらくなっています。
従って、本来であればグラム数、カット数やポーション数なども記載されているのが好ましいです。
せっかくおいしい料理を提供していても、予想したよりもボリュームが少ないと、食材費を抑えようとしていると穿った見方をされたり、見た目が寂しくて見栄えが悪いと思われてしまったりするだけに、飲食店はボリュームにも気を付けなければなりません。
客も、ボリュームがよく分からない場合には、サービススタッフに具体的な数字を尋ねておくと、想像し易くなってよいでしょう。
調理方法
最後は調理方法です。揚げたと書いてあるのに揚げていなかったりするようなことはないとしても、18時間煮込んだと説明されているのに実際には数時間だけしか煮込まれていなかったり、30日熟成させたと謳っているのにたった数日しか熟成させていなかったりする場合はあります。
人件費も当然のことながら値段に反映されるので、手間暇かかったこだわりの一品であれば値段が高くても仕方ありませんが、実際にはそこまで調理の手間がかかっていないとすれば、値段に疑問符が付くでしょう。
手が込んでいるように思わせておいて、実際にはそれほど手が込んでいないのは、よい食材を使っているように思わせておいて、実際には劣っている食材を使っているのと同じことです。
調理方法とは少し異なりますが、写真ではプレゼンテーションが華やかで美しいのに、実際には質素で簡易的であった場合にも、客はとても残念な気持ちとなります。
メニューを読んだ時に、日本料理であれば調理方法が分かるかも知れませんが、例えばフランス料理の「ポワレ」「ヴァプール」「ブレゼ」など、外国料理の調理方法であれば分かりにくいです。
説明が記載されていればまだよいですが、ファインダイニングのメニュー表では説明が記載されていることはほとんどありません。
通常はサービススタッフが噛み砕いて説明してくれますが、それでも分からなければ詳しく尋ねてみて、どういった料理であるかを把握しておいた方が、楽しくおいしく食べられるでしょう。
業態による違い
先程までは、実物がメニュー名や写真と、どのような違いがあるかについて考察してきました。
では、実物がメニュー名や写真と異なることは、よく起こるのでしょうか。業態によって事情が違うので、以下の場合について考察します。
- ファミリーレストラン
- ファインダイニング
- カジュアルな個店
ファミリーレストラン
ファミリーレストランでは、資本規模の大きな外食企業が経営していることもあり、「PP加工」や「ラミネート加工」された作りがしっかりとしたメニュー表が使われています。メニューには料理名と写真、説明、さらにはカロリー数やアレルギー食品の有無も明記されているなど、情報が充実していると言ってよいでしょう。
調理マニュアルもしっかりと製作されており、セントラルキッチンから送られてきた食材やコンディメントをどのように調理すればよいかなども決まっています。一つのメニューを決めるだけで、コーポレートの開発部や購買部を通しているだけに、よほど組織的な偽装でも ない限り、食材やボリュームおよび調理方法が違うものを作って提供することは、ほとんどないと言えるでしょう。
ただ、メニューの写真のクオリティが高過ぎるために、実物よりもずっとおいしく見えることは多いかも知れません。ただ、基本的にどの飲食店でも写真は見栄えのよいものを使うので、問題ない範囲であると考えられます。
ファミリーレストランとして話を展開してきましたが、ここで述べていることは居酒屋やカフェなどのチェーン店でも同様です。
ファインダイニング
ファミリーレストランとは対極にある、フランス料理などのファインダイニングではどうでしょうか。
ファインダイニング、それもミシュランガイドで星を獲得していたり、ディナーの客単価が1万5千円を超えていたりするようなファインダイニングでは、メニューが「カルト ブランシュ」=「白紙メニュー」となっているところも少なくありません。
つまり、ファインダイニングによるおまかせメニューとなっているのです。これでは、メニュー名や写真と違っているということが、そもそも起きうるはずがないのです。
メニュー名が記載されていたとしても「フォアグラ 」や「甘鯛 キノコ」など食材名だけが記されていることも珍しいことではありません。食材を明記している場合でも、よほどシェフの強いこだわりがあり、かつ、生産者との太いパイプがない限りは、生産者やブランドまでも明記していることはないのです。
日によって変わったり、コストもかかったりするので、料理を撮影して、写真を掲載していることもまずありません。
そういった意味では、フランス料理で実物がメニュー名や写真と違うことは、ブランドを偽装していない限り、あまり起こり得ないのです。
中国料理では、メニューに食材がいくつか列挙されており、その中から好きなものを選んで、調理方法などを相談しながらも作ってもらえることがあります。新しく創造される料理ばかりなので、この場合も、メニュー名や写真と違うということはそもそも起きることはありません。
以上のことから、ファインダイニングでは実物が、メニュー名や写真と違うということで問題となることはほとんどありません。食品偽装などのように、公な問題となるのは、内部からの告発からになります。
カジュアルな個店
今回の場合がまさにカジュアルな個店です。大手企業ではないので、コンプライアンスも厳しくありませんし、社内の稟議や承認もありません。ファインダイニングではないので、おまかせではなく、しっかりとしたメニュー表を製作する必要があります。しかし、メニュー名や写真を指摘する人は誰もいないといった状況です。
こういった環境であれば、オーナーシェフやアサインされた店長が好き勝手にできてしまうので、店の利益を限りなく追求してしまうと詐欺に近いことが行われてしまいます。
カジュアルな飲食店が矜持をもっていないということはありませんが、ファインダイニングに比べると客単価が低いだけに、客もあまり文句を言わないでしょう。
また、特にブランド食材を使っているわけではなく、有名店でもない上に規模も小さいので、食品偽装と騒がれることもないのが現状です。
客と飲食店の契約
日本ではあまり認識されることはありませんが、客と飲食店は契約関係にあります。主にノーショー(無断キャンセル)やドタキャンに関して、私は以下の記事で、そのように述べてきました。
冒頭でも引用しているように、実物がメニュー名や写真と違うことは、客と飲食店の契約違反にあたります。
これをしっかりと認識していなければ、客によるノーショーやドタキャンにつながりますし、飲食店による食材偽装や写真の盛り過ぎにつながってしまうのです。
客が予約して飲食店に訪れて食べて飲んで支払いする、飲食店が予約を受けて準備して料理やドリンクを提供してサービスを行う、こういったことは全て契約にあたります。
飲食店は、客からお金を搾り取ることよりも、客の満足度を高めたり客に忘れがたい体験を与えることが重要であり、客は、飲食店で得をするよりも、飲食店で楽しんだり飲食店を応援したりすることが意義あることです。
客と飲食店がお互いに尊敬の念を抱き合い、共に外食産業の発展に寄与していくことを心から願っています。