表の顔は天使、心は悪魔の少女に復讐を。いじめ地獄のどんよりした気持ちを体現した若き女優について
韓国から届いた映画「地獄でも大丈夫」は、ナミとソヌという女子高生の物語だ。
ただ、二人を取り巻く状況はキラキラした青春とはほど遠い。
スクールカーストで底辺に位置する二人は常にいじめの対象。
もはや学校生活は地獄でしかない二人は、自死を心に決めている。
地獄の日々になることが目に見えている修学旅行をパスした二人は、その期間を使ってソウルへ。
死ぬ前に、かつて自分たちをいじめて地獄行きへと主導したチェリンへの復讐を果たそうとする。
その物語は、競争社会、学校でのいじめ、自殺率の高さといった現在の韓国社会の問題に言及。学校の隅に追いやられ、居場所を失い、この先いいことがあるなんて到底思えない少女たちの切実な声が伝わってくる。
ただ、だからといってダークでシビアな物語というわけではない。
この世に絶望した少女二人の物語は、ソウルに向かうあたりから凸凹コンビのバディ・ムービーへ。
それが、宗教や虐待の問題に言及した社会派ドラマから、アクションへと転じ、最後は10代のすべての子たちに贈るような青春劇へと顔を変えていく。
当事者の切実な声を拾い、社会を鋭く見据えながらも、変に硬派ぶらない、エンターテイメント性がしっかりと宿る一作となっている。
手掛けたのは、ポン・ジュノ、チェ・ドンフン、ユン・ソンヒョン、チョ・ソンヒ、キム・セインなど韓国映画をリードする新しい才能を輩出し続けている「韓国映画アカデミー（KAFA）」が2022年に「今年の顔」に選出したイム·オジョン監督。
長編デビュー作である本作に彼女が込めた思いとは？
韓国からまた現れた女性監督のニューフェイスに訊く。全七回／第五回
ウリさん本人と会ったら、みなさん彼女こそナミそのものだと思うはずです
前回（第四回はこちら）からキャストについての話に入り、まずはナミ役のオ・ウリにを抜擢した理由について語ってくれたイム・オジョン監督。
続けてオ・ウリの魅力についてこう語る。
「ウリさん本人は表情や体の使い方など、わたしを参考にして演じましたと言っていますが、まあわたしとは似つかないといいますか。
たぶん、ウリさん本人と会ったら、みなさん彼女こそナミそのものだと思うはずです。
彼女自身が持っているふだんのかわいらしさや活発さ、明るさがナミにしっかりと溶け込んでいて、それがキャラクター性となって映像によく表れていると思います。
それからわたしはいくつかの場面で彼女に助けられています。
映画を撮りながら深く悩む場面が何度かあったのですが……。
そのひとつがナミがソヌに謝るシーンでした。
当初、わたしが書き上げた台本を、ソヌを演じるパン・ヒョリンさんに見せたところ、彼女からこう伝えられました。『これではソヌの怒りの気持ちは収まらなくて謝罪を受け入れることはできない』と。
どうしたものかと書き直すことにしたのですが、ウリさんに加わってもらってセリフを考えてもらうことになりました。
それで二人で考えたものを見せて、ヒョリンさんからOKをいただくことができました。
あの謝る場面は、ウリさんの力があったからこそ成立したといっていいです」
どんよりした気持ちを、一番体現しているのがソヌ
では、話に出てきたが、ソヌ役のパン・ヒョリンは、どのようなことを求めたのだろう？
「ナミとソヌが２泊３日の短い旅に出て、一緒に歩みを進めます。
そして最後は元の場所に戻ってくる。それは再び地獄のような日々に戻ることでもある。
いままでのように暗澹たる日々がおそらく待っていることになる。
そのどんよりした気持ちを、一番体現しているのがソヌといっていいと思います。
そうした中で、結末に触れるので詳細は言えませんが、最後の最後に二人はいままでみてこなかった互いの姿を目にすることになる。
復讐の旅に出る前、自殺がもし成功していたら、二人は互いのあの姿を見ることはなかった。
これから生きていく未来、クラスメイトとの今後はどうなるかわからない。
そのような不安定な気持ちの中で、おそらくとても怯えたでしょうし、悲鳴を上げたい気持ちにもなったことでしょう。
また死を意識した日々に戻っていくかもしれない。
でも、そんなときでもきっと自分のそばにいてくれる人がいる。
目の前が真っ暗になってしまうことがあっても、どこかにより良い未来につながる光がある。
そのようなことを演じる上で意識してほしいと、ナミにもソヌにも伝えました。
特にソヌについてはいつもうつむいていて、言いたいこともいえない。
自らの人生に絶望している。笑顔も消えている。
ですから、ヒョリンさんも演じていて苦しくなったことや落ち込むことがあったと思います。
ただ、そういった状態を的確に表現しながらも、ラストで、あのようなすばらしい表情を見せてくれたんですね。
まさにあのシーンはわたしが求めていたものでした。
彼女もオ・ウリさんと同じくすばらしい才能の持ち主だと思います」
（※第六回に続く）
「地獄でも大丈夫」
監督・脚本：イム・オジョン
出演：オ・ウリ、パン・ヒョリン、チョン・イジュ、パク・ソンフンほか
公式サイト https://www.sumomo-inc.com/okiokioki
全国順次公開中
筆者撮影以外の写真はすべて（C）2022 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED
