「チームカラーは青色」中日5位指名・濱将乃介(福井)は独立リーグ出身には希少なレギュラー獲りを誓う
■子どものころからの夢をかなえた
「第5巡選択希望選手 中日 濱将乃介 内野手 福井ネクサスエレファンツ」―。
その瞬間、指名を待っていた福井の会場は大きな歓声に包まれ、途中からはもう、そのアナウンスが聞こえなくなるほどだった。
当の本人、濱将乃介(はま しょうのすけ)選手は深々と一礼したあと、ホッとしたように笑顔でひと息ついた。周りの関係者と握手を交わし、「率直に嬉しい気持ちが大きいです」とコメントして、さらにふ~っと大きく息を吐いた。
10月20日のNPBドラフト会議で、中日ドラゴンズから5位指名を受けた福井ネクサスエレファンツ(日本海オセアンリーグ)の濱選手は、とうとう夢をかなえた。子どものころから持ち続けた「プロ野球選手になる」という夢を。
何度も挫折を味わい、悔し涙に暮れ、周り道をしながらも、やっとその舞台にたどり着いた。
じわじわと押し寄せてくる喜びに、濱選手は心地よさそうに身を委ねた。
■ドラフト前のハマショー語録
ドラフト会議の約1ヶ月も前から、濱選手は不安な胸の内を明かしてきた。その語録を並べてみよう。
「ドラフトが近づくにつれてソワソワしてきました」
「あんまり考えないようにしてるんですけど、考えてしまいます」
「早く指名されてホッとしたいです」
「気持ちのソワソワがやばいっす」
「指名されへんかったら、どーしよってのもあります」
「なんか今までにない緊張です」
「ソワソワして、なんか落ち着かないです」
「何もないのに家の中ずっと歩いてます」
「僕、本当に指名されますかね」
「まじソワソワします」
「最近、夜中とか目が覚めます」
「眼球が痛いです」
「もう、ドラフト終わる頃にタイムスリップしたいですー」
落ち着かない気持ちは痛いほど伝わってくるのだが、そのキャラも手伝ってか、なんだかかわいらしくて微笑ましかった。いや、当人は人生が懸かっているのだから、真剣なのではあるが…。
■お手洗いへ行く回数は?
昨年、高知ファイティングドッグス(四国アイランドリーグplus)での3年目、初めてNPB球団から調査書が届いた。が、1球団だけだったので、望みは薄かった。
それでも緊張のあまりドラフト前日は一睡もできず、当日も指名を待つ間に3度もお手洗いに行って「何回行くねん」と笑われたという。指名もなく、その日も悔しさのあまり、まったく眠れなかった。
だが今年は違う。しっかりと結果を残し、多くの球団からの調査書を手にして、スカウトとの面談も重ねてきた。自分自身にも手応えはある。順位の予想はつかないが、指名される可能性は限りなく高い。
それでも「去年よりもっと緊張すると思うから、5回はトイレに行くと思う」と心配していたので、「オムツでもしとけば?」とオススメしてみた。もちろん冗談である。
しかし濱選手の「僕が入るサイズって売ってますか?調べてみます!」「スーツもっこりしますかね」「誰にも言わないでくださいね」という返答はボケなのか、いや、意外と真剣なのか。どうにも測りかねた。
■涙は出なかった
そしてドラフト前夜だ。また不眠になるに違いないと言っていたのに、なぜか突如「僕、落ち着いてきました笑」と連絡してきた。「なんか普通に寝れそうです。明日はいい日になりますように」とメッセージを打ってすぐ寝ついたらしく、朝まで9時間、グッスリと眠れたようだ。
やれるだけのことはすべてやりきった自信が自らを開き直らせ、腹が据わったのだろう。
しかし、当日の会場に入ってからはやはり緊張感に襲われ、何度もお手洗いに駆け込んでいた。さすがにオムツはしなかったようだが、表情はずっと硬く、笑顔もこわばっていた。
ただ、駆けつけてくれたチームメイトの前では、少しだけ表情がほぐれた。
数日前、「僕、指名されたとき、泣いてしまいそうです。なんか(ドラフトのことを)考えただけで泣きそうになってる」とも話していたが、指名の瞬間は落ち着いており、涙が出るような感じは見られなかった。
「泣くとかよりホッとした感じ。涙は一滴も出なかったですね(笑)」と、安堵感が強かったと振り返る。
■指名会見で“ハマショー節”が炸裂
すべての指名が終了したあとの会見では、不慣れだからかやはり硬かった。頭もいつものようには回転しない。質問が抜け落ちてしまい、訊き直すという場面もあった。
それでも、両親はじめ支えてくれた周りの人たちへの感謝の気持ちは、冒頭でしっかり伝えることは忘れなかった。
また、「心の中では1巡目から『呼ばれろ、呼ばれろ』と思っていた」と言ってのけるあたりは、さすが濱選手らしい。
「5巡目で呼ばれてよかった」と続け、ここでニコッと笑顔を見せた。
“ハマショー節”が炸裂したのは、中日ドラゴンズにどのようなイメージを抱いているのかと質問したときのことだ。
「(東海大甲府)高校の先輩である高橋周平さんもいますし、昔から歴史のある球団だと思いますし、いい選手もいますし…なんとしてもやってやるという気持ちです」と、返答に窮したのか、“着地点”がおかしい。
ここはさらに突っ込んで硬さをほぐそうと「チームカラーとして、どんなふうに映っていますか」と質問を重ねると、返ってきた答えに爆笑が沸き起こった。
「チームカラーは青色ですね!」
出た!ドヤ顔での超天然発言!!人の予想をはるかに超えてくる。後で真意を尋ねると、「素でミスッたっすね」と笑い飛ばした。
あれ?こういう発言をしがちな選手いたよなぁと頭を巡らせると・・・糸井嘉男選手(今年引退)だ!濱選手がずっと目標に掲げている選手ではないか。やはり同じニオイがするぞ。
「それ、いろいろな人から言われましたね(笑)」と、多くの人から同じ指摘を受けたと、照れくさそうに明かす。
こういうところが憎めなくて、人から可愛がられる。それは対NPBスカウトにおいても同じで、常に好印象を与えていた。シーズン中はスカウトが視察に来ると喜んで挨拶に駆け寄り、張りきってプレーして必ず好結果を出していた。
おそらく初めて濱選手の取材に来たであろうメディア陣も、同様の好印象を受けたに違いない。プロのアスリートとして大事なことだ。
■ドラゴンズブルーに染まる
不退転の決意で福井に来て、ガムシャラに駆け抜けたシーズンだった。決して手を抜くことなく、常に全力で野球と向き合ってきた。「なんとしてもNPBに行く」という意気込みは誰にも負けなかった。ギラギラと熱い思いをたぎらせ、泥臭くグラウンドを駆け回った。
とはいっても、濱選手に悲壮感は微塵もなかった。いつも楽しそう…いや、目いっぱい野球を楽しんでいた。「楽しんでやるから結果も出る」という持論を、しっかり体現して見せてくれた。
いよいよ念願だった「プロ野球選手」としての人生が始まる。独立リーグも「プロ野球」という位置づけではあるものの、ほとんどの選手にとってその認識は低く、やはりNPBに入ってこそプロ野球選手なんだという気構えでいる。濱選手も同様で、とうとう「プロ野球選手」になれたのだ。
「春のキャンプからしっかり結果を残して、少しでも早くレギュラーを獲れるようにやっていきたい」との誓いを立てる。会見中にはこの「レギュラーを獲る」という言葉を何度も何度も繰り返していた。
そうなのだ。独立リーグからNPBに入る選手は年々増えているが、1軍での活躍はわずかだ。さらには「レギュラーを獲った」といえる選手となると、何人いるだろうか。走攻守三拍子そろった濱選手なら、きっと成し遂げるに違いない。
日本海オセアンリーグから、そして福井ネクサスエレファンツから、ともにNPBへの第1号としての期待を背負い、濱将乃介はスタートラインに立った。
これから“チームカラー”であるドラゴンズブルーに、どっぷりと染まる。
(表記のない写真の提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)
【濱 将乃介(はま しょうのすけ)】
2000年5月3日生/大阪府
右投左打/181cm・81kg
東海大甲府高校―高知ファイティングドッグス(四国IL)
【濱 将乃介*今季成績】
58試合 打数213 安打67 二塁打16 三塁打5 本塁打6 打点36
四球43 死球5 三振25 併殺打1 盗塁37 盗塁成功率.771
打率.315 出塁率.439 長打率.521 OPS.960
*タイトル…最多盗塁、年間MVP