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元盗塁王で日本一監督・西村徳文氏の愛弟子は149キロの投球をする“快足野手”濱 将乃介(NOL福井)

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
149キロを投げる野手、濱将乃介(写真提供:日本海オセアンリーグ)

■投手顔負けのピッチングを披露

 149キロ!!!

 バックスクリーンのビジョンに表示された球速に誰もが目を見張った。投じたのは福井ネクサスエレファンツ濱 将乃介。内外野を守る“野手”である。

 7月19日、日本海オセアンリーグNOL)は初めてのオールスターゲーム(注1)を開催し、試合前イベントの一つとしてスピードガンコンテストを行った。「140キロ出たらいいな」との軽い気持ちでチーム代表として志願出場した濱選手は、そこでなんと146キロを計測した。

 すると滋賀GOブラックス柳川洋平監督から「(試合で)ピッチャーやるか」と打診され、球宴を盛り上げようと喜んで引き受けた。高校1年時以来だから、実に6年ぶりだ。

ワインドアップのフォームを披露(写真提供:日本海オセアンリーグ)
ワインドアップのフォームを披露(写真提供:日本海オセアンリーグ)

 八回裏2死で登板すると、ワインドアップの美しいフォームから投じたその初球が、なんと149キロを叩き出した!「1人だけなんで、全力で投げた」と言うが、この日登板した“本職”のどの投手よりも速かったのだから恐れ入る。コントロールもいい。

 チームの先輩である秋吉亮投手(東京ヤクルトスワローズ北海道日本ハムファイターズ福井ネクサスエレファンツ福岡ソフトバンクホークス)も「初球に149出されたら、ピッチャーはやる気なくなるよな(笑)」と目を丸くしていた。

 その後、九回表に味方が逆転したことで裏も発生したため、期せずして続投することとなり、結局1回と1/3を1安打、無失点。白星もつくという、上々の“投手デビュー”だった。

 なんという肩、なんという身体能力、そしてなんという強運なのか。

ベンチに帰ると秋吉亮投手から声をかけられる(写真提供:日本海オセアンリーグ)
ベンチに帰ると秋吉亮投手から声をかけられる(写真提供:日本海オセアンリーグ)

■華のあるプレーヤー

 ここぞというときに、必ず“魅せる”男だ。

 独立リーガーにとって最も大事な舞台であるNPBファームとの試合(注2)でも、必ず何か“爪痕”を残す。

 横浜DeNAベイスターズ戦では臨時代走で出て二盗、三盗の連続盗塁で足をアピールし、千葉ロッテマリーンズ戦、阪神タイガース戦でも肩と打撃で注目を集めた。

 そして中日ドラゴンズとの2連戦でも、超速球派・ジャリエル・ロドリゲス投手の初球150キロをみごとにとらえてライト線に運んだほか、ホームランでパワーも披露した。

 「いいとこを見せようとしたら固まると思うんで、いつもどおり思いきって集中してやっている。自分のもってるものを最大限に発揮しようと思って、一生懸命やっている」。

 それがなかなか難しいものだが、大一番でやってのけるのが濱選手だ。

 さらに節目にも強い。NOL通算1000安打目、同500打点目ともに濱選手がかっさらっている。しかも1000安打目はリーグ初のランニングホームラン、500打点目もリーグ初の先頭打者弾というオマケ付きだった。

があるのだ。自然と見る者の目を惹きつける。しかし、単に見た目の華やかさだけではない。その陰で、どれほどの汗を流してきたことか。そこには「今年、なんとしてもNPBに行きたい」という熱い思いが迸っているのだ。

対阪神タイガース戦(写真提供:日本海オセアンリーグ)
対阪神タイガース戦(写真提供:日本海オセアンリーグ)

■運命的な出会い

 高校を卒業して4年目。昨年までは3年間、四国アイランドリーグplus高知ファイティングドッグスでプレーしていた。

 しかし1年目、2年目はNPB球団から調査書すら届かず、3年目の昨年は67試合に出場して安打数73、打点40はリーグ2位、5本塁打はリーグ3位と成績を残し、ようやく調査書を手にすることはできた。が、指名はなかった。

 そこで、このままではNPB入りは厳しいと考え、「次は大学4年の年。何か変えないとダメだ」と退団を決意した。縁あってエレファンツに入団することとなったが、退団する時点では行く当てもなかったというから、少々無謀なところがある。

 しかし、その無謀さが運命を引き寄せた。自身が考えていたことと合致する“大きな出会い”に恵まれたのだ。その相手とは、ネクサスエレファンツ会長兼GMの西村徳文氏(ロッテオリオンズ千葉ロッテマリーンズオリックス・バファローズ)である。

 西村氏は現役時代、「走る将軍」との異名で盗塁王に輝くこと4年連続、首位打者はじめ数々の賞を獲得した名選手で、監督としてはマリーンズを日本一に導き、バファローズでも辣腕を振るった球界のレジェンドだ。

 濱選手は高知では1年目からレギュラーを張り、打撃と守備には定評があった。しかし、それでもドラフトの指名はない。そこで考えたのだ、自分に足りないものを。

 熟考した末に出した答えが「」だった。50m走5秒9の俊足なのに、高知では盗塁の数が3年間で19しかなかった(盗塁死は同10で盗塁成功率は.655)。足を磨かねばならない、足をアピールすることがNPBに繋がる―。そう考え至ったのだ。

西村徳文氏直伝のスチール(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)
西村徳文氏直伝のスチール(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)

■盗塁の極意を一から叩き込まれる

 そんな矢先に出会えた西村氏には、2月の自主トレから積極的に教えを乞うた。

 「毎日毎日、西村さんから『もっとこうしたほうがいい』『今日はよかった』と言われながら、日々の課題を持って練習してきた」。

 練習を見てもらい、質問をぶつけ、試行錯誤を繰り返した。

 「盗塁ってスタートだけじゃない。スタートがよくても、中間走が遅かったりスライディングが弱かったりしたらアウトになる」と、まずは盗塁の基本である3S(スタート、スピード、スライディング)を叩き込まれた。

 さらに足の運び方、使い方、スタートの切り方、リードの構え、体重のかけ方など、細部にわたってレクチャーされた。

 重要視したのは「無駄を省くこと」だという。塁間を歪むことなく最短で走る。そのためにグラウンドに白線を引き、そのライン上を何度も走っては自身の足跡を見て、無駄なく走れているかをチェックする。ビデオももちろん活用する。

 「西村さんに教えてもらうまでは、やっぱり無駄な動きが多かった。自分ではいいスタートを切ったと思ってもアウトになることがあったけど、最近はそれが少なくなって、いい盗塁につながっているかなと思う」。

 自身の感覚と結果に誤差がなくなってきているのだ。

 さらに盗塁のタイミングも、より考えるようになった。

 「なんでもかんでも走るんじゃなく、変化球を投げるやろなっていうタイミングとか、自分で読むようにしている。ピッチャーのクセも研究して頭に入れているし、片岡易之)さんや本多雄一)さん、周東佑京)さんたちの動画を見て勉強もしている」。

 歴代盗塁王から盗めるものは少なくない。

 そんな中で、彼らの動画を見て気づいたことがあるという。スライディングの距離や強さ、足の運び方だ。

 「とくに僕らのリーグはリクエストがないんで、どれだけセーフに見せるかだと思う。審判さんも人間なんで。だからスライディングを強く、失速せずに近くでとか、走っているときに二遊間の動きを見て、ベースに入る野手の逆のほうにスライディングするようにとか」。

 タイミングはセーフなのにアウトに見せてしまっては、もったいない。瞬時にさまざまなところを見て考えて、強度も含め最も効率いいスライディングをするように工夫している。

セーフに見せることも重要(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)
セーフに見せることも重要(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)

■師匠からの課題は「盗塁成功率.750以上」

 西村氏の教えは効果テキメンだった。濱選手自身もスポンジのように貪欲に吸収し、その盗塁技術はどんどん上昇していった。まず開幕戦の2打席目で初安打を放つと、すかさず走って初盗塁を記録した。

 「今まで教わったことないことを一から教えてくださった西村さんのおかげ。去年までと全然違う」と、4月6コ、5月8コ、6月7コ…と積み重ねていった。

 「盗塁で大事なことは、スタートを切る勇気だと思う。どれだけ思いきっていけるか。牽制で刺されるのもセカンドでアウトになるのも同じ1つのアウト。それならセカンドでアウトになれって、西村さんにも言われている」。

 勇気をもって思いきりスタートする。師匠からは「盗塁成功率は最低.750」と高いハードルを課されている。

 4月は.750、5月は.889と課題をしっかりクリアしてきた。しかし6月後半から7月前半にかけての10試合、盗塁を決められないことが続いたため(その間、盗塁死が4)、7月前半までの通算成功率は.724まで落ち込んだ。

 「足にスランプはない」というのは走れない人間の言うことで、実際、足を武器にしている選手に聞くと「スランプはある」と口を揃える。濱選手も陥ったと明かす。

 「走りたい、走りたいっていう気持ちが強すぎたんやと思う。それが空回りしていた」。

 そこで自身の動画を見返して、アウトになった要因を自分なりに分析した。そして7月後半は再び勇気を取り戻し、また思いきりよくスタートが切れるようになり、4コの盗塁を記録した。

 7月を終えての通算成功率は.758で、なんとか最低ラインを超えた。数にして25は堂々のリーグトップだ。ここからさらに加速していくつもりだ。

数はもちろん、成功率も重視する(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)
数はもちろん、成功率も重視する(写真提供:福井ネクサスエレファンツボランティアスタッフ)

■今年、絶対にNPBに行く!

 「なにがなんでも今年、NPBに行く」と誓う中、149キロを出したことで投手との“二刀流”もと色気を出しているかと思いきや「ピッチャーは楽しかったし、興味はあるけど、そんなことしてる余裕はないんです!」とキッパリと否定する。

 そうなのだ。そんな寄り道をしている時間はない。「僕は今年、絶対にNPBに行くので」と重ねて強調する。濱選手の本気度がひしひしと伝わってくる。

 「NPBに行きたい」と、ほとんどの独立リーガーは口にする。しかし、その本気度には大きな温度差がある。濱選手の本気度は今、沸点に達している。

 この煮えたぎった思いを、濱 将乃介は必ずや結実させるに違いない。

ドラフト時にもガッツポーズが見られるか…(写真提供:日本海オセアンリーグ)
ドラフト時にもガッツポーズが見られるか…(写真提供:日本海オセアンリーグ)

(注1)

日本海オセアンリーグのオールスターゲームはファン投票によって選出された選手たちが、NOL―EAST(富山GRNサンダーバーズ石川ミリオンスターズ)とNOL―WEST(福井ネクサスエレファンツ滋賀GOブラックス)の東西に分かれて対戦し、3―4でNOL―WESTが勝利した。

(注2)

NOL4球団から選抜された選手で1チームを結成して、NPBのファームチームに挑む。

5月に横浜DeNAベイスターズと2試合、6月に千葉ロッテマリーンズと1試合、7月には阪神タイガースと1試合、中日ドラゴンズと2試合を遂行した。

【濱 将乃介(はま しょうのすけ)】

2000年5月3日(22歳)

181cm・81kg/右・左

東海大甲府―高知ファイティングドッグス(四国IL)

大阪府大阪市/O型

【濱 将乃介*今季成績】

試合数37 打席数169 打数138 安打41 二塁打10 三塁打2 本塁打4

打点24 得点33① 三振20 四球26① 死球4 盗塁25① 盗塁成功率.758

打率.297 出塁率.423 長打率.486 OPS.909

(7月31日現在)

*①はリーグ1位

【濱将乃介*関連記事】

阪神タイガース・ファームとの練習試合

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独立リーグの野手ではナンバーワン

*中日ドラゴンズからドラフト5位指名

元盗塁王の教えでNPBでも盗塁王を獲る

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フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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