Yahoo!ニュース

日本には「男が結婚しにくいところ」が圧倒的に多い/都道府県別結婚適齢期年齢婚姻率の明確な男女差

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

婚姻率とは?

一般に婚姻率といわれているものは人口千対婚姻率である。

人口千対計算なので単位としてはパーミル(‰)を使う。2018-2022年の日本の平均婚姻率は4.4であるが、人口千人あたり4.4組が結婚しているということだ。

この人口千対による指標は、普通離婚率も粗出生率、粗死亡率も同様である。すべて全人口に対して、どれだけ婚姻、離婚、出生、死亡があったかを横並びでみるためである。

ところが、これは分母が総人口であるために、人口構造の変化によっても影響を受ける。

たとえば、婚姻率が低下したといっても、それは婚姻にもはや関係のない高齢者人口が増えれば自動的に減ってしまうものである。

離婚率も同様である。人口千対離婚率(普通離婚率)が1.5だからといって決して千人に1.5組しか離婚していないわけではない。もはや離婚とは無縁の高齢夫婦や、すでに離婚以前に配偶者と死別した高齢者が増えれば、計算上この人口千対離婚率は減ってしまう。

よって、本来の離婚率をみるのであれば、婚姻数に対してどれくらい離婚数があったかという特殊離婚率の方が妥当なのである。「3組に1組離婚する」というのはこの特殊離婚率計算式によるものである。

参照→「3組に1組どころじゃない」離婚大国・日本が、世界一離婚しない国に変わった理由

同様に、高齢人口が増える現代においては、婚姻率も、実態を把握するためには、高齢人口を除外した15-49歳婚姻率(総婚姻数を15-49歳の人口で割ったもの)で見るべきである。でないと、正確な婚姻力はわからない。が、国の統計にはその指標はないため手作業で計算するしかない。

厳密を期すのであれば、分子の婚姻数も15-49歳対象の婚姻数で計算すべきだが、50歳以上の婚姻数は全体からすれば微々たるもので無視しても支障はない。

婚姻率は男女で違う

さらに、婚姻は基本男女一人ずつで行うものであるから、婚姻率は男女統一で構わないと考えがちだが、男女で分母となる人口が違う。そもそも生まれてくる男女性比が違うため、15-49歳においては必ず男性が多くなる(全人口対象にすれば寿命の長い女性が多くなるため男女比は逆転する)

参照→未婚男性の「男余り430万人」の実態~もはや若者ではなくおじさん余りへ

つまり、婚姻数は同じでも、男女の婚姻率は変わるのである。

これを都道府県別に男女それぞれの15-49歳人口を分母に計算し、男女の15-49歳婚姻率の差分をマップに落とし込んだものが以下である。

各都道府県において、男女のどちらが結婚しやすいか(婚姻率が高い)がわかる。

赤くなればなるほど、婚姻率は男<女で、女性の方が結婚しやすいエリア、反対に青い方は男性の方が結婚しやすいエリアということになる。

東日本と西日本とでくっきり分かれる。

特に、福島、茨城、栃木の3県は女性に比べて10%も婚姻率が低い。これは、それだけ当該年齢の男性人口が多い「男余り」だからである。

東日本の「男余り」現象

「男余り」となってしまう原因は、若い女性が県外に流出することと、茨城、栃木などは製造業関連の工場も多く、そこでの雇用もあり、地元生まれ地元育ちの男性も残るし、周辺からも流入するためだ。が、女性には働き場がなく、近場の東京へ出ていくというパターンが見られる。愛知も同様である。

東日本の各県が真っ赤になるのは、過去記事でも紹介した通り、「東日本の若い女性は20代で東京に行く」からである。

参照→各都道府県別20代男女の東京流出率でわかる「関西男と東北女の行く道」

参照→「男ばかり集まる大阪」「九州中から女が集まる福岡」20代若者移動の男女差

結果、東日本の各県は、物理的に若い女性がいなくなり、男たちが結婚相手を探すのに苦労することになるのである。

東日本中から女性を集める東京が「女余り」にならないのは、女性流入と同等に若い男性も流入してくるためで、東京も15-49歳絶対人口は男の方が多い。

一方、男の婚姻率が高いのは、関西と九州である。

大阪や福岡なども周辺エリアから女性が流入してくるが、兵庫や奈良は、流出が女性より男性の方が多いという別の事情がある。福岡以外の九州各県は、男女とも多少流出はするが地元に残る割合が高い

かくして、関西と九州は、東日本各県のように少なくとも「女性の絶対人数が足りないために結婚相手がいない」ということは生ぜず、東日本と比べれば「男が結婚しやすいエリア」となる。

男の婚姻率がポイント

興味深いのは、婚姻率が「男>女」であればあるほど、全体の婚姻率があがるという相関が見られることである。相関係数は0.4378でやや強い相関が見られる。

本来、マッチングという点でいえば、男女の人口差がなければないほど婚姻率もあがると思われるが、だとすれば横軸±0の地点で婚姻率がもっとも高まるはずである。しかし、そうはなっていない。

むしろ、男の婚姻率の上昇こそが全体の婚姻率の底上げにつながるという見方ができる。逆にいえば、婚姻数が激減しているのは、男の婚姻率が上昇しないがために、それにつられて女の婚姻率も停滞しているのではないか。

地元が好きで残った若者へのお膳立て

出生数は婚姻数に依存することは明らかで、少子化を是正するためには婚姻の減少を食い止めることが第一優先課題となるが、とはいえ、婚姻は基本的に各エリアで完結するものであり、各エリアの事情にあわせた対応が必要になる。

前掲の相関グラフの左下部分のエリアは、若い女性の流出に伴う男女人口差により、男女の婚姻率の乖離が起きている。

これを解決するために。若い20代女性の流出を食い止めるという方策を論じる向きもあるが、そんな江戸時代の箱根の関所のような「出女」の取り締まりをしてうまくいくとは思えない。

「出て行かないようにする」のではなく「残った若者に何ができるか」が重要である。それをしないから「出て行く」のだ。

写真:アフロ

そもそも人口差だけが婚姻減の原因ではない。

茨城・栃木などは長年「男余り」だが、「男余りだから婚姻率が低い」のではなく、「婚姻率が低いから結果として男余りになっている」という見方もできるのだ。

もちろん、第一義として地元に魅力的な職場を創出することも大事だが、それはそれとして、今の環境をまず把握した上で、地方は東京や大阪とは明らかに人口密度や生活環境が違うという点を考慮する必要がある。普通に生活していてなかなか他者と偶然の出会いをする機会がない。出会うにもお膳立てがいるのである。

国から補助金もらってバラマキしたり、マッチングアプリ業者と提携すれば解決などという単純な問題ではない。むしろもっとアナログな「地元が好きで残った若者」に適した方法を各地方独自で導き出す必要があると思われる。

子育て支援なども結構だが、そもそも出会いがなければ何も生まれないのである。

個人的に懸念しているのは、前掲相関グラフの左下ゾーンに、地方ではない首都圏の埼玉・千葉・神奈川が揃って入っていることである。人口ボリュームの多いこの3県の婚姻が大幅に減ることは国全体にとっても大きなマイナスとなる。

-

※記事内グラフの商用無断転載は固くお断りします。

※記事の引用は歓迎しますが、筆者名と出典記載(当記事URLなど)をお願いします。

※記事の内容を引用する場合は、引用のルールに則って適切な範囲内で行ってください。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

荒川和久の最近の記事