「3組に1組どころじゃない」離婚大国・日本が、世界一離婚しない国に変わった理由
離婚にまつわる複数の指標
「3組に1組は離婚する」といわれる。
これは、離婚数を婚姻数で割った「特殊離婚率」という指標が、1998年以来20年以上一度も30%を下回っていないことからである。しかし、この「3組に1組は離婚する」を真っ向から否定する論者もいる。年間ごとの離婚数は決して、その年に婚姻した夫婦だけに限らないのだから、正しくないというわけだ。
離婚率の指標には、もうひとつ「人口千対離婚率(普通離婚率)」と呼ばれるものがある。これは、人口千人当たりに対する離婚数(パーセントではなくパーミルという単位)であり、国際的な比較の際にはこちらが使用される。
しかし、この人口千対離婚率は、そもそも分母が人口なので高齢者も含む。熟年離婚が増えているとはいえ、離婚は54歳までで90%を占めている。離婚をほとんどしない高齢夫婦を分母に入れたままの指標が正しく事実を反映しているとはいえない。また、別途、有配偶者だけを分母とする「有配偶離婚率」を正しい指標とすべきという論者もいるが、それもまた高齢者を含むので正しくない。
「3組に1組離婚」は正しい
結論からいえば、離婚に関しては特殊離婚率を見る方がよい。
特殊離婚率は、年間ごとでも見るが、毎年30%が離婚するという意味でとらえるより、結婚に対する離婚の比率を見るためのものである。
長期間の累計値で具体的に説明しよう。
1990年から2019年までの30年間の全年代を対象とした婚姻数累計は、2150万組、離婚数累計は693万組である。30年間の累計特殊離婚率は約32%となる。もちろん、この離婚数の中には、1990年以前に結婚した夫婦も含まれているが、30年間の累計においては誤差の範囲だ。つまり、この30年間で結婚した夫婦のうちの32%は離婚をしていることになる。まさしく「3組に1組は離婚」しているのだ。
特殊離婚率の数字は、「結婚が何組作られ、何組壊されているのか」を知る重要な指標なのである。
日本はもともと「離婚大国」だ
日本の離婚が増えたのは近年になってからだと思っている人が多い。昔の夫婦は、「添い遂げるもの」と考えているかもしれない。それは大きな勘違いである。
元々日本は離婚大国であった。
明治以降の長期の離婚率の推移をみればわかる通り、江戸時代から明治の初期にかけては、特殊離婚率は4割近くで、現代よりも多い。
ちなみに、人口千対離婚率でみても、1883年時点で3.38もあった。2019年実績である1.69のほぼ倍である。
人口千対離婚率は、江戸時代では4.80を記録した村もあり、2019年での世界一高い離婚率はチリの3.22なので、当時の日本の離婚率は世界一レベルだったかもしれない。
江戸時代、離婚が多かったことは、享保15年(1730年)の史料に「世上に再縁は多く御座候」という記述があったり、土佐藩には「7回離婚することは許さない」という禁止令があったことからも想像できる。むしろ6回までは許されたのだ。禁止令が出るという事は、実際にはそれ以上の離婚があったという証拠でもある。
明治民法が変えた結婚のカタチ
そんな当時、世界トップレベルの離婚を減少させたのが、1899年の明治民法である。これこそ、当時の武士の考え方を庶民に普及させるためのものであり、これにより結婚が「家制度」「家父長制度」に取り込まれることになった。もっとも大きな変更は、妻の財産権の剥奪である。
明治民法以前の庶民の夫婦は、ほとんどの夫婦が共稼ぎ(銘々稼ぎと言う)で、夫婦別財でもあり、夫といえども妻の財産である着物などを勝手に売ることはできなかった。
時代劇にあるような、博打にハマった夫が妻の着物を勝手に売るなど許されなかった。離婚が多かったのも、夫婦それぞれが経済的自立をしていたためでもある。
しかし、明治民法はその妻の財産権は家長である夫の所有に属するものとなり、経済的自立と自由を奪われた妻にとって離婚は生きる術を失うような位置づけとなった。実際、明治民法以降に離婚率は10%台に激減し、それが1998年に30%オーバーとなるまで、低離婚率の期間が続くことになる。
つまり、離婚が少なったのは、明治民法以降せいぜい100年の歴史にすぎない。
明治政府がそのような政策をとった背景は、ある意味では、富国強兵をにらんだ結婚保護政策の一環でもあり、まさにここから日本の皆婚時代と多産化が始まったといえるわけだ。
もともとの日本人の庶民における夫婦のあり方や結婚の原風景は違う。そして、江戸時代の結婚のカタチの中に現代の未婚化、晩婚化、離婚増などの現象に通じるものが数多く発見できる。それについてはまた後日。
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