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Alexaの音声を聞いてテキスト化する時給1300円のスタッフに応募してみた

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
Amazon Alexaチームの募集サイト 出典:Amazon

KNNポール神田です。

□アマゾン・ドット・コムのスマートスピーカー「エコー」に搭載された人工知能(AI)「アレクサ」の性能を向上させるために、世界で数千人のアマゾン従業員が働いている。このチームは、エコー所有者の家やオフィスで録音された音声を聞く。録音内容は文字に起こされ注釈を付けられてソフトウエアにフィードバックされる。人間の発話に対するアレクサの理解能力を高めコマンドに対する反応を向上させる取り組みの一環だ。

□経験から学ぶ多くのソフトウエアツールと同様、アレクサの学習にも人間が携わっている。

□プログラムについて公に話すことを禁止する秘密保持契約に署名した人々によると、このチームは、ボストンからコスタリカ、インド、ルーマニアに至る各地で働くコントラクターとアマゾンの正社員で構成されている。

出典:「Alexa」の録音内容、数千人のアマゾン従業員が聞いている

Alexaの精度をあげるために母国語の人が録音データを、聞き取り正確な言葉としてテキスト化する。それを学習させている。しかし、『面白い内容は従業員で共有』となるとかなり問題である。

□仕事内容は、Alexaに入力された音声をヘッドセットで聞いてテキスト化し、タグ付けやデータの意味づけなどを行うというもの。ネイティブに近い日本語能力や国語力が必要だ。在宅勤務で、給与は時給1300円。実働8時間のシフト制になっている(1日8時間・月20日間勤務で月額換算20万8000円~)。

出典:Alexaの音声を聞いてテキスト化するスタッフ、日本のAmazonも募集中 在宅勤務、時給1300円

筆者は、ITで興味のあることは、なんでも、すぐに実践したくなるタイプだ。すでに『UBER EATS』のドライバーもやっている。さっそく、AmazonのAIスピーカーの求人に応募してみた…。

リクナビNEXTからアマゾンジャパンに応募してみた 出典:リクナビNEXT
リクナビNEXTからアマゾンジャパンに応募してみた 出典:リクナビNEXT

https://next.rikunabi.com/end_detail/cmi2835639050/nx1_rq0017424262/?fr=cp_s01810&leadtc=sgen_old_cst

https://jobtalk.jp/jobs/p1983217

※現在は応募はできなくなっている

■応募と同時に、はじまるamazonの入社試験

今回の応募は、パートタイムではなく、フルタイムの応募なので、現実的に働けるかどうかは微妙だ…。しかし、そんなことは採用される前に心配することはない。まずは、応募してみて、どういうプロセスで採用されるのかを知るだけでも、人事や総務の学習データを蓄積することができる。どうやってビデオ面接するのかとかも興味がある。

さっそく、必要な項目のフォームを登録していく…。かなりいろいろとあるが、履歴書などを送る必要もないようだ。完全な能力重視なのだろう。

しばらく進むと、試験時間が45分ほどかかるが、今から受けるかと突然聞かれた。

筆者は経営者でもあるので、ここで考えこむような社員は絶対に採用しない…。もちろん、45分かかるけれども、就活モードにシフトチェンジして望むことにした。そう、人生は短い、後回しにしてはいけない。

■NDAで本当に大事な事は一切書けないが、Amazonの入社試験で学んだ重要なこと

一番、驚いた事はすべて自動化でおこなわれる入社試験だ。オンラインでしかも自宅でいつでも、入社試験を受けられる。深夜でも可能だ。しかも、就労条件は、出社の必要もなく、自宅でNDA(秘密保持契約Non-disclosure agreement)を守りながら働けるのだ。これはいろんな意味での労働スタイルの革新でもある。世界のどこにいようが、インターネットさえあれば働けるのだ。タイムカードも不要だ。がんばっているフリもしなくていい。残業もない。課題をこなせるかこなせないかだけだ。

■Amazonのリーダーシップ・プリンシプルを共有できるかどうか?

試験の前に、厳重にブラウザのタブや他のアプリケーションを消せと言われる。そう、つまりカンニングやコピーをさせないためだ。そして、Amazonのリーダーシップ・ステートメントのビデオを見る。

ジェフ・ベゾスの『リーダーシッププリンシプル』

https://www.amazon.jobs/jp/principles

一般にも公開されている映像がある…。

日本語字幕付きでAmazonのカルチャーに100%アグリーできるかという質問だ。

そう、何よりもAmazonで働くということは、世界を変えることなんだという壮大な『大義』がある。そのために目先の小さな仕事にも『大義』を持って取り組むという思想はとてもうまい。日本の企業でそんなカルチャーからはいる入社試験はまずないのではないだろうか?

絵に書いたような社訓をいくら斉唱したところで、何も変化は生まれない。やはり会社は共同の幻想を抱かせてナンボだ。

■Amazon Work Styles Assessment というAmazon 独特の文化

『私たちはお客様のことで頭がいっぱいです。私たちの行動、目標、プロジェクト、プログラム、発明は、始めから終わりまでお客様のことを一番に考えています。』

アマゾンのカルチャー 出典:Amazon
アマゾンのカルチャー 出典:Amazon

https://www.amazon.jobs/jp/landing_pages/about-amazon

ああ、やばい…完全に洗脳されていく…。

■『アマゾニアン(Amazonの社員)』の適正検査

ここまでは、Amazonという社風というか文化のイニシエーションでここからはよくある適正検査が始まる…。これは大変だ…。5段階で自分はあてはまるかあてはまらないか…というやつ…。これを試験会場ではない、リラックスしている自宅でやるというのはとても苦痛だ。

■秘密の試験が45分

さて、本質はここからのAmazon Alexaの業務に直結するスキルテスト。内容は、一切外部にもらさないことに、コミットしているので書けないが、Amazon AlexaのAIを改善するために、ネイティブな人間が、その裏側でどういう作業が求められているのかということがよくわかった。

途中で何度も挫折しかかりそうになる…。いや、機械にこきつかわれる人間はこんな気持になるのだ。実際に終えてみると45分を目安にといわれたが、56分もかかった。しかも、フルに頭をつかっているにもかかわらずだ。久しぶりに働いたという感覚だ。とてつもなく疲れた…。しかし、万一採用されると、この仕事を毎日8時間、やりつづけるのか…。時給にして1,300円分の試験という無償の労働。これはコンビニの深夜バイトのほうが絶対にお得だ…。

■さて、採用か不採用か…

数日後、メールでAmazonから合否が届いた…。

kanda, toshiaki 様

お世話になっております。

アマゾンジャパン合同会社 採用事務局でございます。

この度は弊社にご応募いただき誠にありがとうございました。

社内にて慎重に検討させていただきました結果、今回ご応募いただきました Data Associate- Japanese(契約社員) 職では残念ながら採用を見送らせていただくことになりました。

ご希望に添えず誠に恐縮ですが、何卒ご容赦頂きますようお願い申し上げます。

末筆ではございますが今後のご活躍、ご健勝をお祈り申し上げますとともに、多数の企業の中から弊社にご応募いただきましたことを、心より感謝申し上げます。

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アマゾンジャパン合同会社 採用事務局

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ありがとうございました!実は、すこしホッとした…。

募集からの即日の試験、Amazonのプリンシプルのスマートさ。顧客第一主義、また一段とAmazonのことが好きになってしまった。

Alexaの秘密の試験は嫌いでも、そのおかげでAlexaが賢くなっていくためには、重要な仕事なんだと痛感した。

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ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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