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初日満席!学生映画が劇場公開に至るまでの道のりを振り返る~中川奈月監督『彼女はひとり』の場合【後編】

壬生智裕映画ライター
新宿K's cinemaの初日は満席スタートとなった(写真:筆者撮影)

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭、ちば映画祭、田辺・弁慶映画祭など、各地の映画祭などで上映されるたびに話題を集めてきた中川奈月監督の映画『彼女はひとり』が、10月23日(土)に新宿K's cinemaで初日を迎え、満席スタートを飾った。

映画の詳細については、以下の予告編をご覧いただきたい。

あらすじ:

高校生の澄子(福永朱梨)はある日橋から身を投げた。しかし、死ねずに生還する。父は引っ越そうと言うが自分の意思で残ることを選び、1年留年して学校に戻ってきた澄子は、同級生となった幼馴染の秀明(金井浩人)を執拗に脅迫し始める。身を投げる原因を作ったのは秀明であり、秀明が教師である波多野(美知枝)と密かに交際していると言う秘密を握っていたのだった。その行為は日々エスカレートしていくが、そこには過去の出来事、そして澄子の家族に関わる、もうひとりの幼馴染・聡子の幻影があった…。 ――公式HPより――

立教大学大学院の修了制作として撮影された学生映画がいかにして劇場公開を果たしたのか。本作を配給するムービー・アクト・プロジェクト(MAP)の熊谷睦子氏、そして中川監督にその道のりをあらためて聞いてみた。

なお、今回お届けするのはインタビューの後半部分と初日舞台あいさつの様子。今回のインタビューの前半部分はこちら(学生映画が劇場公開に至るまでの道のりを振り返る~中川奈月監督『彼女はひとり』の場合【前編】)で読むことができるので、興味のある方はぜひチェックしていただければ幸いだ。

なお、作品の制作過程などについては、以前行ったインタビュー記事を参照していただければと。

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(C)2018「彼女はひとり」
(C)2018「彼女はひとり」

■田辺・弁慶映画祭をはじめ、各地の映画祭で上映

※※学生映画が劇場公開に至るまでの道のりを振り返る~中川奈月監督『彼女はひとり』の場合【前編】より続く

――2019年11月には「田辺・弁慶映画祭」(以下、田辺)で上映されました。ここはまた、これまでとは違った映画祭だと思うのですが。

中川:そうですね。田辺にはプロデューサーの方とかもいらっしゃって、結構、映画業界の方が多く観てくださるという印象でしたね。「すごく面白かった」「一番映画らしかった」と言っていただきました。田辺に入選したクリエーターの方たちって、その次につながって活躍の場を広げている方がすごく多いなという印象があったので、田辺・弁慶に入選できたのはすごくうれしかったですね。

でも最初は俳優賞を取っただけじゃ、(映画祭の受賞作があらためて東京で上映される)テアトル新宿では上映してもらえないと思い込んでいて。授賞式が終わった後、ものすごく落ち込んじゃったんです。でもその後に行われた打ち上げの場所でテアトル新宿で上映できると聞かされて。それで安心したという。その時は上映以外に自分ができることがほんとになかったので。次に向けて頑張る目標ができたのは精神的にもよかったですね。

ーーその後はTAMA NEW WAVEですか?

中川:そうです。田辺が終わった次の週ぐらいにTAMA NEW WAVEの「ある視点」部門で上映しました。そしてそのあとに名古屋と神戸で上映しました。

ーー名古屋はどういう経緯で?

中川:立教大学で作られた作品で「サクリファイス」という壷井濯監督の映画があって。それが2020年のSKIPで作品賞を取ったんです。それを名古屋シネマテークで上映しようとなったときに、(指導教員の)篠崎先生が私の作品も一緒に上映しようと言ってくださって。2020年の4月に急きょシネマテークで上映をしていただくことになったんですが、コロナの影響もあって、数回上映しただけで上映できなくなって。また6月にやっていただけることになりました。神戸での上映も「サクリファイス」と抱き合わせで12月に上映していただいたのですが、その時もコロナの影響が強く、なかなか集客ができなくて。2021年にまた、芸大での作品も含めて特集をやらせて下さいとお話を頂きました。

■出会うべき人に出会ってきた

ーーそれで、2020年秋のテアトル新宿での、「田辺弁慶セレクション2020」につながるんですね

中川:そうです。ただこちらもコロナの影響でちょっと延びてしまったんです。

熊谷:6月の予定が11月になりました。

中川:ただ、結果的に深田晃司監督の『本気のしるし』の公開後になったんですよね。そのおかげで福永さんの名前が知られるようになって、見てくれる方もまた増えたというタイミングになったので、逆によかったのかなと思いました。

(C)2018「彼女はひとり」
(C)2018「彼女はひとり」

――その後にテアトル新宿の「田辺弁慶セレクション」の打ち上げがあり。そこで熊谷さんに出会い、劇場公開へとつながったわけですが、あらためて『彼女はひとり』の劇場公開まで、この5年間の道のりを振り返ってみてどうですか?

中川:時間って掛かるもんだなとは思いましたけど、でも出会いたい人には出会ってきたなという気持ちもあるので。掛かるべくして掛かった時間だとも思えます。先日、篠崎先生と一緒にインタビューを受けた時に思い出したんですけど。この作品は年代がたって変わっていくものじゃないから。内容としてはずっと普遍的なものだから、公開まで全然、時間がかかってもいいと思う、みたいなことを言われていたので。時間がかかっても大丈夫なんだと。だから落ち着くとこにきちんと落ち着いてくれてよかったですね。

――篠崎誠監督をはじめ、要所要所で、応援してくれる人たちに出会えたのは大きかったですね。

中川:そうですね。最初はまったく味方がいなかったので(笑)。それこそ『彼女はひとり』状態というか。スタッフの子たちも無理を言って手伝ってもらったという感じがあったので。映画ができあがったらもう私ひとりしか残ってないみたいな状態だった。なので、外側に味方を見つけていかないと、どうしても立てなかったというところはあります。だからいろいろな方たちに土台を作っていただくことができましたし、そのための年月だったかなと思います。

――応援してくれる人たちとは出会うべくして出会ったという感じはありますか?

中川:そうは思います。でも、作品をまず好きになってくれないといけないので。見つけてもらう場所を増やして。かつ好きになってもらえる作品をちゃんと作ってないと、という前提があるので。作品がちゃんと力を持っていたというのが大事なのかなと思います。

■いよいよ公開初日!満席の中で初日舞台あいさつ

5年という歳月を経て、ようやく劇場公開を実現させた本作。初日を迎えた10月23日、新宿K's cinemaでは、福永朱梨さん、美知枝さん、山中アラタさん、中村優里さん、中川奈月監督による初日舞台あいさつが行われた。ここからは少し趣を変えて、初日舞台あいさつの様子をレポートする。

初日舞台あいさつの様子。左から中川奈月監督、中村優里さん、福永朱梨さん、美知枝さん、山中アラタさん(写真:筆者撮影)
初日舞台あいさつの様子。左から中川奈月監督、中村優里さん、福永朱梨さん、美知枝さん、山中アラタさん(写真:筆者撮影)

 この日の新宿K's cinemaは満席スタート。映画を鑑賞したばかりの観客の前に立った中川監督は「今日はお集まりいただきましてありがとうございます。5年かけて、ここまで辿り着きまして。初日を満席で迎えられることができて本当に嬉しいです」とあいさつ。主人公・澄子を演じた福永さんも「本日はこんな状況の中、足を運んでいただいて本当にありがとうございます。満席で初日を迎えることができて本当に嬉しいです」と笑顔を見せた。

 司会者からこの物語を作った経緯について質問された中川監督は「感情をぶつけるような暴力的な女の子の話をずっと作りたいと思っていて。それが復讐という形で物語の軸になるようなものを作りたいと思っていたんですけど、それと同時に幽霊も出したい。その原動力に幽霊の存在があってほしいという思いから、こういうサスペンスも交えて、いろいろとこねくり回してこういう形になりました」と説明。

 一方の福永さんは、疎外感や怒りを原動力に復讐を誓うという役柄について「外に怒りを発散したり、他人にぶつけるということは、わたしは他人事とは思えなくて。やはりどんな人の中にも怒りや、滞っているものが心の中にあって。それを澄子は外に出していただけだったと思ったので。あまり違う世界の人だとはいう風には感じなかったです」という。そしてそんな彼女を澄子役に抜てきした理由について中川監督は「(オーディションの時は)部屋に入ってきた時からすごくまがまがしくて。この(舞台あいさつの場に立っている)ような明るいイメージではまったくなかった。彼女の顔というか存在感に、過去の暗さというか、ものすごく憎しみにあふれたものを感じました。しゃべらない時の立ち姿でも、彼女に過去が見える状態を感じたから」と明かした。

劇場の様子(写真:筆者撮影)
劇場の様子(写真:筆者撮影)

 劇中で少女の幻影として登場する中村さんは「台本を読んでも、もちろんせりふがないので、はじめはどうしたらいいのかなとすごく悩んだんですけど、でも何回も台本を読んでいるうちに”見えない者が見えるシーンがある”、そのことだけでパワーがあるんだなということに気付いて。そこからは楽になりましたね」と述懐。また一見、真面目に見えながらも、その影で生徒と関係を持ってしまう教師を演じた美知枝さんは「教師としての正義感を持っているけど、それと同時にどうしても理性では抑えきれない、生徒に恋をしてしまうという罪悪感との狭間で葛藤しているということを感じたので、そこを表現できるように、1個1個、行動やセリフを自分の中に積み上げて、役作りをしていったという感じです」と振り返った。

 一方、澄子の父・隆を演じた山中さんは台本を読んだ時を「監督は柔らかい女性なのに、こんなことを書くなんて、大丈夫かなと思いました」と冗談めかしつつも、「僕は台本を読んでいても、現場で生まれるものが大事だと思っていて。それで(福永)朱梨ちゃんと接してみた時に、すでに彼女の中で澄子が完成されていて。この子は大丈夫なのかと思った。芝居が終わると、明るくてかわいい普通の女の子なんですけど、現場ではほとんどしゃべらないというか、そこにいるけど邪魔しちゃいけないようなものを持っていて。そういった張り詰めた緊張感がいい効果を生んだんじゃないか」と振り返る。対する福永さんも「山中さんは、とあるシーンを除いてほとんど目を合わせてくれないんですよ。わたしは鋭く見つめていたのに。親子で会話するシーンでは目も合わせてくれなくて。それが余計に澄子の中の怒りを増幅させてくれたので、ありがたかった」と感謝の思いを述べた。

初日舞台あいさつの様子(写真:筆者撮影)
初日舞台あいさつの様子(写真:筆者撮影)

 そして最後のメッセージを求められた福永さんが「本当に映画を映画館で観るというのは特別な体験だと思っていて。映画の時間を調べて予約をして、電車の時間を調べて、劇場に来ていただいて。本当にこの映画のために時間を作っていただいてありがとうございます。ぜひ皆さまの感想をつぶやいていただければ」と呼びかけると、中川監督も「公開前から試写をやらせていただいて。たくさんの方から熱いコメントや、Twitterでもつぶやいていただいたりして。いろんな方に波及していったんだなと思ったんですけど、初日までにも本当にたくさんの方に予約していただいて。本当にうれしいです。作品を楽しんでいただけたらうれしいですし、面白かったら、ぜひTwitterで口コミなどをしていただけたらと思います」とコメント。舞台あいさつは、盛況のうちに幕を下ろした。

映画ライター

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。コロナ前は年間数百本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、特に国内映画祭、映画館などに力を入れていた。2018年には、プロデューサーとして参加したドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(長谷川亮監督)が第71回カンヌ国際映画祭をはじめ、国内外の映画祭で上映された。近年の仕事として、「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022カタログ」『君は放課後インソムニア』『ハピネス』のパンフレットなど。

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