【インディーズの現場】『本気のしるし』みっちゃんがまた観客をざわつかせる!初主演作を映画館で上映
本年度カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション2020に選出された深田晃司監督の『本気のしるし』で、森崎ウィン演じる主人公を翻弄する同僚みっちゃんを演じた女優・福永朱梨。物語中盤で、主人公の態度にやさぐれた彼女が、いきなり髪をピンクに染めて登場したその姿は、観客に強烈な印象を残した。
そんな彼女の初主演映画『彼女はひとり』が、テアトル新宿で現在開催中の「田辺・弁慶映画祭セレクション2020」内のプログラムとして11月29日よりレイトショー上映される。この映画の主人公・澄子が繰り出すセリフ、行動は非常に強烈で、観客をざわつかせることは必至だ。
『彼女はひとり』は、立教大学大学院にて篠崎誠監督に師事した新鋭・中川奈月監督の長編デビュー作。撮影を担当したのは、『トウキョウソナタ』『岸辺の旅』など黒沢清監督作品に多数参加するベテラン芦澤明子。本作は2019年11月に行われた「第13回田辺・弁慶映画祭」で俳優賞(福永朱梨)を獲得したほか、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018国際コンペティション」でSKIPシティアワードを受賞している。
今回の映画上映に合わせて、中川奈月監督と主演の福永朱梨に直撃。前後編2回に分けて彼女たちの話をお届けする。今回の前編は女優・福永朱梨にスポットを当てた内容。後編は中川奈月監督にスポットを当てた内容となる。合わせて読んでいただけたら幸いだ。
後編はこちらより:黒沢清監督も震撼!ダークで狂気的な学園ドラマを解き放つ新鋭・中川奈月監督に聞く
■これはとんでもない作品だと思いました
――この作品の脚本を読んだときの感想は?
福永:オーディションの資料として脚本が公開されていたんですけど、事務所の社長と、これはとんでもない作品だねと言いあっていたんです(笑)。これは絶対にやろう、オーディションを受けようと。自分自身にそんなダークな部分があるという実感はなかったんですけど、この作品で澄子を演じることで、この子をどうにか守ってあげたいという気持ちになって。絶対にこの役をやりたいと思いました。だから受かった時は本当にうれしかったですね。
――その時はどういう心づもりでオーディションに向き合ったのでしょうか?
福永:完全に映画の中の澄子の感じで行きました。一回も笑わずに。ヤバいヤツが来たと思われたかもしれません(笑)。
中川監督:わたしもオーディションは初めてだったんですけど、入ってくる時はだいたい、その人のままで来るじゃないですか。でも彼女の場合、部屋に入ってきた時からすごい雰囲気で来て。めちゃめちゃうまいけどヤバい人だなと思って(笑)。どうしよう、この人とやっていけるかなという緊張感はあったんですけど、二回目に会った時にめちゃくちゃ笑顔で(笑)。あれ? この間と全然違うといった感じでしたね。そういう風にやってくれていたんだなというのは、後で知りました。
――その時にはもう福永さんに決めていた?
中川監督:そうですね。澄子は福永さんでいこうと決めていました。
――その後の、役作りで思い出すことはありますか?
福永:リハーサルを何日かやりましたよね。
中川監督:3日間くらいやりました。秀明役の金井浩人くんと、こんな感じでどうかと、擦り合わせをやりました。
福永:でも、脚本から想像していた部分がけっこうマッチしていたので。これはこうじゃないですかといったぶつかり合いはなかったですね。
――それはやはり共感できる部分もあったから?
福永:そうですね。オーディションの段階から、絶対に自分がやるぞという心意気でやっていたので。決まる前から準備ができていたというか。そういう感じはありましたね。
■役作りで澄子の日記を書いていました
――撮影に入る前の役作りで、澄子の日記を書いていたと聞きましたが。具体的にどんな日記を?
福永:橋から飛び降りる前の幸せだった頃の澄子の記憶。お父さんとお母さんとのこと。幼馴染の秀明たちと仲が良かった頃のこと。お父さんがいつから道を外したのか。澄子はそれをいつ知ったのか。どういう状態で聞かされたのか。そういう映画の背景となることを呪いの日記のように書いていました。
――けっこう分量はあったんですか?
福永:台本の裏の白いページのところにバーッと書いていったような感じだったので。ただ監督には見せたことはないです。シャーペンで書いてたんで、ここ(手の横の部分)が真っ黒になった記憶があります。書いて、それを自分の中に落とし込んでいくような作業をいっぱいやりました。
中川監督:撮影自体4年半前くらいだったんですけど、日記のことはわたしも最近知ったんですよ。
――それで見えてきた澄子像はありましたか?
福永:多分この子はこう思っていて、という書き方ではなく。自分が澄子として日記を書いていたので。澄子の意見として、自然に言葉が出てくるようになる感覚もありました。本編では心の底から笑っている幸せな澄子がいなかった。だから日記の中で幸せだった頃の記憶を膨らませていって、今の状態がより憎らしくなる、という所はありました。
■「みっちゃんですよね」と声をかけられました
――いくつかの映画祭での上映を経て、今回いよいよテアトル新宿で上映されることになりました。
福永:自分にとっては初主演・初長編の映画なので。しかもわたし自身、テアトル新宿さんに通っていたので。この前も映画を観に行ったら、自分の大きいポスターも貼ってありましたし、予告編も上映されていて。本当に上映されるんだと思って、すごいドキドキしてます。
――世間では『本気のしるし』公開後あたりから認知されるようになったのでは?
福永:そうですね。『本気のしるし』で知ってくださった方が、『彼女はひとり』も観に行くよと言ってくださったりして。オーディションを受けに行った時もある俳優さんから「みっちゃんですよね」と言われて。「はい、みっちゃんです」と答えると「観てました」と言っていただいたんです。わたしもその俳優さんはいつも観ていた方だったので、「わたしもいつも観ています」というやりとりがありました。ちょっと恥ずかしかったですけどうれしかったですね。
■映画の面白さにハマってくれる人が増えたら
――女優としての将来像は?
福永:私はもともとシネコンでかかるようなメジャーな映画を年に2、3本くらいしか観てこなかった人なので。私きっかけでもいいですし、作品きっかけでもいいんですけど、映画の面白さにハマってくれる人が増えたらいいな。そのきっかけになれたらいいなという思いはずっとあります。
――映画が好きになったきっかけはあったんですか?
福永:高校生の頃に、広島で東京の芸能事務所の方とお会いする機会があって。その頃は地元の雑誌のモデルをやっていたんですけど、女優になりたいのか、モデルになりたいのかと訊かれて、映画もあまり観てこなかったし、お芝居もやったことがないから分からないですと答えたら、これを観てみなさいというリストを渡されて。そこにはアカデミー賞をとったものから、インド映画から、いろんな作品がありました。それから毎日レンタルDVD屋さんに行って、気になるタイトルの作品をガーッと観ていくようになって。そこで「なんだこれは」と衝撃を受けて。わたしも出てみたいと思ったのがきっかけですね。
――そこで女優・福永朱梨が誕生したということですね。では最後にメッセージをお願いします。
福永:とにかくたくさんの方に観ていただきたいというのが一番なので。これをきっかけにいろんな映画を楽しんでいただけたらうれしいですし、特集では『彼女はひとり』以外の中川監督の作品も一緒に上映されるので。中川監督の沼にどっぷりとつかっていただけたらと思っております。