鹿児島出身のM!LKリーダー吉田仁人が登壇!九州愛を大いに語る【第49回湯布院映画祭】
現存している映画祭の中ではもっとも古い歴史を持つ「第49回湯布院映画祭」が8月22日から25日にかけて、大分県由布市の「ゆふいんラックホール」で開催された。8月25日には蓮佛美沙子、伊藤万理華らが出演する映画『女優は泣かない』が上映され、有働佳史監督、吉田仁人(M!LK)、プロデューサーの木滝和幸氏が来場した。(本文中の敬称略)
同作は、CMディレクターであり、「働かざる者たち」「おしゃれの答えがわからない」「面白南極料理人」「賭けからはじまるサヨナラの恋」など数々のドラマ作品の脚本・監督を手がけてきた有働監督が、生まれ育った熊本・荒尾を舞台に長編映画初監督に挑んだヒューマンコメディー。スキャンダルで女優の仕事を失った梨枝(蓮佛)が、ドラマ部志望の若手ディレクター・咲(伊藤)と共に“女優が生まれ故郷の熊本で素顔を見せる” 密着ドキュメンタリー撮影に渋々挑むことになるが、全くソリの合わない2人はたびたび衝突。前途多難な撮影の行方は――という物語だ。
脚本完成に2年近くを費やし、2021年8月に一度クランクインするも、コロナ禍の影響で、2日目にして撮影が中断。その後、1年3カ月の時を経て、有働監督の自己資金をもとに2022年10月末に再クランクイン。企画立案から、完成まで6年という歳月をかけた、有働監督の熱き情熱の結晶となった一本だ。この日は主人公・梨枝の郷里に住む弟・園田勇治を演じる吉田仁人(M!LK)が来場。この日は若い女性ファンが大勢来場し、補助席の出る大盛況。その普段とは違った様子に湯布院の常連客も驚きを隠せない様子だった。
ただし湯布院映画祭の常連客にとってはM!LKと言われても馴染(なじ)みなかったようで、「最初はチャラい、ギンギラギンの兄ちゃんかと思った」と吉田へのざんげとともに、正直な意見が次々と飛び出して会場は大爆笑。その言葉には本人も思わず笑ってしまうなど、会場は和やかな雰囲気に包まれたが、本作で見せた“黒髪で真面目な風貌の心優しき弟”という役柄が、目の前にいる吉田と同一人物とは思わなかったようで、「こんな役ができるのか」とばかりに観客を魅了した様子。「ミュージシャンは廃業して俳優の方に力を入れたらどうか」と軽口をたたかれるひと幕もあった。
本作のキャスティングについて「熊本の話ということで、僕が選ばれた理由は隣の鹿児島出身だからなのかなと思っていたのですが、どうやら監督はもう少し僕のことを見てから、使おうと思ってくれたみたいで。みんなで本読みをしながら、もっとここはこうした方がいいという感じで話し合いながら。短いながらも濃く、しっかりとシーンを撮っていったような印象でした」と振り返った吉田。完成した作品を観て「音楽も相まって、すごくシリアスな部分もあれば、しっかりポップに、楽しくという雰囲気にもなっていて。撮っているときとは雰囲気が違っていたので、それが監督のイズムなのかなと思いました」と振り返った。
さらにこの作品に関して「アイドルが出ている、という色眼鏡で観られるのは作品に対しても害かなと思ったので。しっかり監督のいうことを聞きながら、いい感じに馴染(なじ)んで、作品に押していく流れになればいいなと思いました」。
そして作品に向き合う上でのこだわりについて質問されると、「役者ひとりにできることは、自分の役に向きあって、それをカメラ前で、他の役者さんと一緒につくっていくということなので。僕ができるこだわりというのは少ないんですけど、ただなるべく蓮佛さんとの対比が出るようにしたというか。こういう風に言おうとか、用意することはまったくなく。蓮佛さんが投げたものだけをスッと返そうと。それ以前に、蓮佛さんのことを撮影が始まる前から尊敬してましたし。そういう自分の姉に対するあこがれと、芸能人としても近くて遠い感じというか。弟としての複雑な感情とか。そういうことをいろいろと考えながら。とにかく蓮佛さんを見ながら撮影に挑んでました」(吉田)。
ちなみにそんな弟の描写について有働監督は「僕も弟がいるんですが、本当にちゃらんぽらんで、身長も180センチくらいあって。ムカつくんです(笑)。だからフィクションでは理想の弟というか、こういう弟がいたらいいなというところを投影して描きました。それと(梨枝が唯一できる料理が、父親から教えてもらった)チャーハンというのは、実際の自分の父親のエピソードです。うちのおやじはいい加減な人なので、(劇中で升毅演じる父親とは)真逆なんですけどね」と冗談めかして語った。
この日、九州から来場した観客からは、劇中に九州発祥のファミレス「ジョイフル」が登場することに歓喜の声がチラホラと。鹿児島出身の吉田も「ジョイフルおいしいですよね」と笑顔を見せると、「九州はふるさとということで、多少フィルターがかかっていると思うけど、本当にいいところ。どこに行ってもみんな優しいし、みんながそれぞれ頑張ってるし、誇れるものがあって。それを忘れないで頑張っているというのはカッコいいなと思うし。九州に来ると落ちつきますね。自分も東京にあこがれて出ていった身ではありますが、九州を出てあらためて、九州って良かったなと思いますね」と九州への思いをせつせつと語った。
そして今回タッグを組んだ有働監督について「監督は、作品とプライベートとのギャップがすごいですね。作品に携わっているときは『本当にすごいなこの人は』と思うんですが、口を開くと(本作を製作するために背負った)借金の話ばかりするんで。早く誰か肩代わりしてくれればいいのに」と冗談めかした吉田だが、「でも作品への愛と、追い込まれ具合がいい感じだなとは思っていますが。そうした人間的な部分が分厚いからこそ、作品のポップさに反映されているのかなと思うし。信頼している監督なので、有働監督からお声がかかれば、どこでも駆けつけようと思います!」とラブコールを送った。
そんなシンポジウムを終えた吉田は「僕も芸能活動をして11年くらいになりますが、こういった現場ははじめて。ものすごく新鮮かつ、こんな話ができる場所があるんだと。ひとつの作品を通じて、出た側(がわ)と観た側(がわ)というふたつの視点でいろいろと話し合えるのはものすごくいい時間だったなと思います。また湯布院に来られる機会がありましたら、また来たいなと思いました。いい時間でした」と充実した表情を見せた。