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斉藤由貴主演映画『香港パラダイス』の裏側を監督、キャメラマンが語る【第49回湯布院映画祭】

壬生智裕映画ライター
湯布院映画祭『香港パラダイス』上映会場入口のポスター(写真:筆者撮影)

 現存している映画祭の中ではもっとも古い歴史を持つ「第49回湯布院映画祭」が8月22日から25日にかけて、大分県由布市の「ゆふいんラックホール」で開催され、金子修介監督、斉藤由貴主演の映画『香港パラダイス』が上映され、金子監督、撮影監督の高間賢治氏が上映後のトークショーに来場した。

 今年の映画祭の特集上映「なんてったってアイドル映画」内の1本として上映された同作。1990年に公開された映画となり、斉藤由貴、大沢誉志幸、相原勇、井森美幸、グロリア・イップ、段田安則、我王銀次、伊原剛志、淡路恵子、内藤陳、天本英世、大竹まこと、阿藤海、小野みゆき、小林薫というキャスティングとなる。

 本作の主人公はパリにあこがれるツアーコンダクターの真美子(斉藤由貴)。彼と別れガックリきているところで、添乗を命じられたのは、一度も行ったことがない香港。気を取り直して張り切る彼女だったが、香港を舞台とした秘宝「キング&クイーン」をめぐる争奪戦に巻き込まれる……。

 映画を鑑賞したのは、完成した当時以来だと語る高間氏は「久しぶりに観て。こんなシーンを撮っていたっけ? と思うようなシーンもあった」と笑いつつも、「今観るとかなり大がかりな仕掛けをやってましたね」と懐かしそうにコメント。金子監督も、劇中で争奪戦が繰り広げられる香港の秘宝「キング&クイーン」について、「あれをつくったのは、アカデミー賞をとった辻さん(カズ・ヒロ)ですよ」と明かし、会場を驚かせた。

 本作の撮影は4週間で、日本で2週間、香港で2週間というスケジュールだった。日本の撮影では雪が降ったりと天気が悪く、シーンのつながりなどの関係で悩まされることが多かったという。「アクション映画だからキツい現場だったとは思うんですけど、とにかく寒かったですね。東京が寒かったんで、香港はあったかかいだろうと思って楽しみにしていたら、香港も雨ばっかり。真っ先に買いに行ったのが長靴でした」(高間氏)

トークショーの様子(左:金子監督、右:撮影の高間氏)(写真:筆者撮影)
トークショーの様子(左:金子監督、右:撮影の高間氏)(写真:筆者撮影)

 本作の物語について金子監督は「最初に斉藤由貴さんで映画をやるということは決まっていたんですが、最初のプロットは、香港に行くツアーコンダクターが犯罪に巻き込まれるアクションコメディというくらいしか決まっていなかった。そこから脚本の高橋正康さんと、長谷川隆くんと3人で頭をひねりながら。(途中で真美子が)記憶喪失になるのは、当時好きだったゴールディ・ホーンの『潮風のいたずら』から。それともうひとつ、小説家が犯罪に巻き込まれてしまう、『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』なども参考にして、いろいろとアイデアを出してつくっていったお話ですね。アイデアをひねり出すのは苦しかったですね。1日にひとつギャグが出るかどうかという感じでした」と振り返る。

 本作について「これはアイドル映画というよりは、アクション映画として始まったんです。だからアクション映画の王道を行くようにということでいろいろと考えたし、役者が魅力的に見えなきゃいけないということで。どんな時も、顔がきれいに見えるということは心がけました」と振り返った高間氏。金子監督も「『1999年の夏休み』をお願いした時に、あれは少年を演じる少女でしたが、彼女たちをすごくきれいに撮ってくれるなと思いましたね。それで『山田村ワルツ』『ラスト・キャバレー』と続いて。やはり女性をきれいに撮ってくれるということで、続いて中山美穂さん、宮沢りえさんが出演する『どっちにするの。』をお願いして。その次が『香港パラダイス』でした」と続けた。

 さらに高間氏は「映画の内容に沿っていけば、アクション映画はアクション映画らしく、スリリングに。アイドル映画ならば可愛らしく撮るということにはなりますが、根本的には、その映画を楽しませるということだから。お客さんの立場に立って。お客さんがこういうものを観たいなら、このサイズで観たいだろうということで、カメラアングルや、ライティングを考えるということ。観客が最終的に観て、面白がったり悲しがったりするから、ストーリーテリングというか、物語にのっけていくのがカメラマンの役割なので。うまくいけば、最終的にはカメラってどこにあったのと思ってくれればいい。だから映画を観て、カメラ良かったですねと言われるのはあまりうれしくない。カメラの存在がバレてしまうというのは、映画に没頭できなかったということだから。その責任の一端はカメラマンにもあります」と撮影のポリシーを語るひと幕も。

 その後も「小林薫さんと、斉藤由貴さんが論争しているシーンがありましたが、手前のふたりが暗くて、奥が明るいのは、高間さん的なカメラだなと思いながら。手前が暗くなるのって、それまでの日本映画では嫌がられたから。やはり手前を明るくしなきゃいけなかったから。人物が暗くなってもいい、というのはリアルなライティングだなと思って。モダンな感じがするなと感じた」等々、高間氏に全幅の信頼を寄せている様子の金子監督。最後に「湯布院映画祭で『香港パラダイス』が上映できて良かったです!」と笑顔を見せた。

『香港パラダイス』のポスター(写真:筆者撮影)
『香港パラダイス』のポスター(写真:筆者撮影)

映画ライター

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。コロナ前は年間数百本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、特に国内映画祭、映画館などに力を入れていた。2018年には、プロデューサーとして参加したドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(長谷川亮監督)が第71回カンヌ国際映画祭をはじめ、国内外の映画祭で上映された。近年の仕事として、「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022カタログ」『君は放課後インソムニア』『ハピネス』のパンフレットなど。

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