ウクライナ迎撃戦闘2024年4月分
2024年4月にウクライナ空軍司令部が報告したロシア軍の長距離ミサイル・ドローン攻撃は合計で425発でした。これは先月の2024年3月と比べると約半分の攻撃規模に低下しています。※出典:ウクライナ空軍司令部
※追記:4月29日にオデーサへの弾道ミサイル攻撃が1発ありましたが(関連記事)、空軍司令部はこれを報告をしていません。これに限らず小規模な攻撃があった場合に追加報告をしない場合があるので、集計は全てのミサイル数を数えたものではないので注意。
ウクライナ迎撃戦闘の推移
- 2023年12月:776飛来609撃墜、阻止率78%
- 2024年01月:582飛来385撃墜、阻止率66%
- 2024年02月:475飛来332撃墜、阻止率70%
- 2024年03月:810飛来610撃墜、阻止率75%
- 2024年04月:425飛来316撃墜、阻止率74%
ウクライナ軍による迎撃は各月の阻止率の変動は迎撃困難な高速目標(弾道ミサイルなど)の飛来規模に起因していますが、低速目標(亜音速巡航ミサイルや自爆ドローン)に限定すると阻止率は80~90%と高い数字でずっと安定しています。高速の弾道ミサイルはパトリオットおよびSAMP/T以外では迎撃不能という問題は以前からの懸念点であり、最近新たに生じた問題ではありません。
迎撃ミサイルは枯渇していない
統計上はウクライナ軍の迎撃ミサイルが枯渇したような兆候は見受けられません。3月以降に電力施設への被害が相次いだのは、ロシア軍の目標選定が急に変化したことにウクライナ軍が対応できていなかった戦術的な原因である可能性が高いでしょう。これは防空システムの再配置である程度は対応が可能ですが、高速の弾道ミサイルを迎撃できるのはパトリオット(3基)とSAMP/T(1基)くらいしかなく、必要な配備数が根本的に足りない問題は継続したままです。
○2024年4月:425発(316撃墜、74%)
- 高速ミサイル:62発(2撃墜、3%)
- 低速ミサイル:71発(55撃墜、77%)
- 低速ドローン:292発(259撃墜、89%)
※高速ミサイルは弾道ミサイルや超音速巡航ミサイルなど。低速ミサイルは亜音速巡航ミサイル。低速ドローンはGPS誘導のプログラム飛行で長距離飛行できる仕様の自爆無人機を分類。
※Kh-59空対地ミサイル、Kh-31P対レーダーミサイル、Kh-35空対艦ミサイルは集計から除く。Kh-69空中発射巡航ミサイルは集計入り。
4月の飛来数は先月の3月と比較して、ミサイル飛来数は3分の2に減少、ドローン飛来数は半分に減少しています。4月の迎撃戦は低速目標(低速ミサイルと低速ドローン)に限ると363飛来314撃墜の阻止率87%で、3月分(低速目標阻止率85%)よりも阻止率の数字は上がっています。
○高速ミサイル:62発(2撃墜、3%)
- キンジャール空中発射弾道ミサイル:10発(0撃墜)
- イスカンデルM弾道ミサイル:10発(0撃墜)
- Kh-22空対艦ミサイル(対地転用):6飛来(2撃墜)
- S-300地対空ミサイル(対地転用):36飛来(0撃墜)
Kh-22超音速巡航ミサイルの撃墜報告
空軍発表ベースでは2022年に戦争が始まって以来初めて、超音速で飛翔するKh-22空対艦ミサイル(対地転用)の撃墜が報告されています。ただし参謀本部が2022年5月31日にKh-22巡航ミサイルの撃墜に成功と報告しているので、何故か空軍と参謀本部で発表が食い違っています。
弾道ミサイル系発射数の推移
- 2023年09月:2発(1撃墜)
- 2023年10月:7発(0撃墜)
- 2023年11月:5発(1撃墜)
- 2023年12月:37発(18撃墜) ※うちキンジャール×5(0)
- 2024年01月:57発(15撃墜) ※うちキンジャール×20(10)
- 2024年02月:13発(1撃墜)
- 2024年03月:29発(4撃墜) ※うちキンジャール×11(1)
- 2024年04月:20発(0撃墜) ※うちキンジャール×10(0)
※転用兵器であるKh-22対艦ミサイルとS-300地対空ミサイルを除外して、弾道ミサイルと極超音速兵器に絞った集計。
弾道ミサイル系は2023年12月~2024年2月まで北朝鮮製KN-23弾道ミサイルがおそらく50発以上の規模で混じっていますが、3月以降は報告が無く、ロシアが輸入した分は使い切っている模様です。
なお2月末に「イランがロシアに弾道ミサイル約400発供与」というロイター通信の報道がありましたが、しかしこれまでにウクライナの戦場でイラン製弾道ミサイルはまだ1発も確認されていません。
○低速ミサイル:71発(55撃墜、77%)
- Kh-101/Kh-555巡航ミサイル:33発(26撃墜、79%)
- カリブル巡航ミサイル:9発(7撃墜、78%)
- イスカンデルK巡航ミサイル:6発(1撃墜、17%)
- Kh-69/Kh-59空対地ミサイル:23発(21撃墜、91%)
※低速ミサイルとはここでは亜音速巡航ミサイルを分類。
※Kh-69空対地ミサイルは4月19日にウクライナ空軍司令部の報告に初登場(ただし図表のミサイルのシルエットはKh-59の形状)。Kh-59は射程が短く長距離攻撃とは言えなかったので筆者は除外してきましたが、Kh-69は射程が長く300~400kmと推定されるので今後は集計に入れます。
※Kh-101/Kh-555は空中発射型(戦略爆撃機)
※Kh-69/Kh-59は空中発射型(戦術戦闘機)
※カリブルは艦船発射型
※イスカンデルKは陸上発射型(カリブルの改造型、発射機はイスカンデルM弾道ミサイルと共通)
- 4月06日:Kh-101×2(2)、カリブル×1(1)
- 4月10日:イスカンデルK×2(0)
- 4月11日:Kh-101×20(16)
- 4月19日:Kh-101×2(2)、イスカンデルK×2(0)、Kh-69×12(11)
- 4月20日:Kh-69×2(2)
- 4月27日:Kh-101×9(6)、カリブル×8(6)、イスカンデルK×2(1)、Kh-69×9(8)
カリブル艦船発射巡航ミサイルの纏まった数の投入再開
4月27日にカリブル艦船発射巡航ミサイル8発の記録があります。カリブルの纏まった数の投入は2023年9月25日の12発以来の7カ月ぶりで、発射母艦はセヴァストポリ港ではなくノヴォロシスク港で再装填作業をしている可能性があります。
Kh-69空中発射巡航ミサイルの纏まった数の投入開始
Kh-69空中発射巡航ミサイルはKh-59空対地ミサイルの改良型ですが、形状がステルス効果を狙った四角形断面となり、エンジンは内蔵式でKh-59のようなポッド搭載式ではなくなり、射程も大幅に伸びて、誘導方式も変更されており、完全に別物となっています。性能は西側のストームシャドウ巡航ミサイルに匹敵するかそれ以上で、ロシア空軍最新鋭の亜音速巡航ミサイルです。
Kh-69のロシア-ウクライナ戦争での投入は少なくとも2024年2月から始まっており、特徴的な四角形断面のミサイルの残骸の破片は何度も発見報告されてきましたが、4月19日に初めてウクライナ空軍司令部は報告に記載しました。ただし現状ではKh-69はKh-59と纏めて一緒に報告されていますが、本来は別々に報告すべきでしょう。
Kh-101とKh-555ならば同じ開発会社の同系統の巡航ミサイルとして「Kh-101/Kh-555」と扱ってもよいですが、Kh-69とKh-59ではミサイルとしての性格も性能も完全に別物なので、「Kh-69/Kh-59」や「Kh-59/Kh-69」という表記はかなり無理があります。
参考:Kh-59空対地ミサイル 射程40km(Kh-59Mは110km)
参考:Kh-69空中発射巡航ミサイル 射程300~400km ※推定
亜音速巡航ミサイル発射数の推移
- 2023年09月:90発(78撃墜、87%)
- 2023年10月:5発(4撃墜、80%)
- 2023年11月:4発(4撃墜、100%)
- 2023年12月:109発(101撃墜、93%)
- 2024年01月:124発(102撃墜、82%)
- 2024年02月:46発(39撃墜、85%)
- 2024年03月:116発(95撃墜、82%)
- 2024年04月:71発(55撃墜、77%)
4月は新顔のKh-69の23発を含んだ上で、先月の3月よりも亜音速巡航ミサイルの発射数は減少しています。
○低速ドローン:292発(259撃墜、89%)
- シャヘド136自爆無人機:287発(258撃墜、90%)
- 機種不明無人機:5発(1撃墜、20%) ※4月28日に記録
4月のシャヘド136自爆無人機の飛来数287発は先月の3月と比べて半減しています。最近数カ月間の傾向としては、シャヘド136を多く発射した月の翌月と翌々月は発射数が低下していることが分かります。
シャヘド136発射数の推移
- 2023年09月:503発(396撃墜、79%) ※多い
- 2023年10月:285発(229撃墜、80%)
- 2023年11月:380発(303撃墜、80%)
- 2023年12月:598発(490撃墜、82%) ※多い
- 2024年01月:334発(271撃墜、81%)
- 2024年02月:361発(276撃墜、76%)
- 2024年03月:596発(511撃墜、86%) ※多い
- 2024年04月:287発(258撃墜、90%)
ただしイランから輸入しているシャヘド136の発射数は、3月に確認されたロシア国内でのライセンス生産工場の稼働開始で調達体制が変わって来るので、今後は傾向が変化する可能性があります。
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