Yahoo!ニュース

ウクライナ迎撃戦闘2023-2024年冬季・3カ月間:巡航ミサイル減少と弾道ミサイル増加の傾向

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ空軍司令部より2024年2月11日のシャヘド自爆無人機×40の撃墜戦果

 2月29日となり、ウクライナ迎撃戦闘2023-2024年冬季が終わりました。昨年に続いて今年もウクライナはロシア軍の長距離ミサイル・ドローン攻撃を耐え凌ぐことに成功しています。

 1年前の2022-2023年冬季の迎撃戦闘では、ロシア軍の攻撃は発電所や変電所など電力インフラを集中的に狙ってきました。しかし2023-2024年冬季の迎撃戦闘では電力インフラの被害は少なくいくらかは攻撃されたものの、大規模な停電は発生しませんでした。

 なお当記事では弾道ミサイルや超音速巡航ミサイルなどを「高速ミサイル」、亜音速巡航ミサイルを「低速ミサイル」、プログラム飛行型自爆ドローンを「低速ドローン」の3種類に簡単に分けています。

○12月(776発)→ 1月(582発)→ 2月(457発)

筆者作成図、ウクライナ迎撃戦闘2023-2024年冬季・3カ月間
筆者作成図、ウクライナ迎撃戦闘2023-2024年冬季・3カ月間

※出典:ウクライナ空軍司令部
※Kh-31P対レーダーミサイルとKh-59空対地ミサイルは除外
※詳しい集計記録は記事の末尾で紹介

○ウクライナ迎撃戦闘2023-2024年冬季:3カ月間の全ての合計

  • 飛来した総数:1833発(1329撃墜、73%)
  • 高速ミサイル:243発(34撃墜、14%) ※ただし弾道ミサイルは半数以下
  • 低速ミサイル:279発(242撃墜、87%) ※ほぼKh-101巡航ミサイル
  • 低速ドローン:1311発(1053撃墜、80%) ※ほぼシャヘド136自爆無人機
  • 攻撃の機会数:70回(67日/91日)

○攻撃規模の縮小

 12月(776発)→ 1月(582発)→ 2月(457発)と発射数は漸減。冬季3カ月間の発射総数1815発の約7割を低速ドローンが占めていますが、ドローンは機体が小さく弾頭重量がミサイルの10分の1以下なので、投射量では全体の2割未満を占める程度です。

 低速ミサイルと低速ドローンは迎撃率8~9割で阻止されており、低速目標に限れば迎撃戦闘はウクライナ側が優位に進めています。NATOから対空ミサイルの供給が続く限り、このまま上手くやっていけるでしょう。

 高速ミサイルの迎撃については高性能な防空システムであるパトリオット(米製)やSAMP/T(仏伊製)が必要ですが、数が足りません。現状でウクライナ軍にはパトリオット×3個高射隊とSAMP/T×1個高射隊しか供与されておらず、未配備地域を高速ミサイルで狙われると対処できない問題があります。

○高速ミサイル迎撃の比較

筆者作成図、高速ミサイル編。未詳弾道ミサイルは暫定的に弾道ミサイルとしてカウント
筆者作成図、高速ミサイル編。未詳弾道ミサイルは暫定的に弾道ミサイルとしてカウント
  • キンジャール:イスカンデルM弾道ミサイル空中発射型。発射母機で判別可能
  • イスカンデルM:飛翔中はKN-23と判別困難
  • KN-23:火星-11カ。北朝鮮製でイスカンデルMに似るがやや大きい
  • KN-24:火星-11ナ。KN-23と部品の多くが共通のため残骸では判別困難
  • 未詳弾道ミサイル:イスカンデルMとS-300が判別できなかったケース
  • Kh-22:対艦ミサイル転用 ※対地攻撃時の命中精度が著しく悪い
  • S-300:対空ミサイル転用 ※射程が短く弾頭が軽い(弾道ミサイル基準)

 高速ミサイルの発射数は1月は増えましたが2月は急減しています。また2月は1発しか撃墜していないのですが、防空システムに新たな問題が生じたわけではなく、以下の理由が考えられます。

  1. パトリオット未配備地域が狙われた
  2. 北朝鮮製KN-23の精度が悪い ※「24発中2発のみ正確だった」:ロイター

 高速ミサイルを迎撃できる防空システムは限られるので、高性能なパトリオット防空システムの未配備地域が狙われた場合は対処が困難という問題はずっと続いていますが、2月の迎撃数の急減はそもそも敵ミサイルが的外れの方向に飛んで行ったので脅威と見做されず、迎撃しなかっただけの可能性が高そうです。

 なお冬季全期間を通じて本物の弾道ミサイルではない転用兵器であるKh-22とS-300が1発も迎撃されていないのは、特にKh-22は精度が悪いことが大きく、S-300は対地攻撃兵器としては射程が短いのでハルキウなど前線に近い都市への攻撃に使われている(つまりパトリオットが配備されていない場所が狙われている)といった理由が考えられます。

 次に高速ミサイルの中でも特に重要な弾道ミサイル(キンジャール、イスカンデルM、KN-23)について絞り込んで発射傾向を見てみます。冬季3カ月間だけでは傾向が少し分かり難いので、その前の秋季3カ月間の発射数を含めた半年間(6カ月分)の傾向を詳しく見てみましょう。

○弾道ミサイルのみ、2023年9月~2024年2月の半年分

 2023年09月:2発(1撃墜)

  • 09月06日:イスカンデルM×1発(1撃墜)
  • 09月19日:イスカンデルM×1発(0)

 2023年10月:7発(0撃墜)

  • 10月16日:イスカンデルM×1発(0)
  • 10月19日:イスカンデルM×5発(0)
  • 10月27日:イスカンデルM×1発(0)

 2023年11月:5発以上(1撃墜)

  • 11月06日:未詳弾道ミサイル ※数不明
  • 11月06日:イスカンデルM ※数不明
  • 11月11日:イスカンデルMまたはS-400×1発(1撃墜)
  • 11月14日:イスカンデルM×1発(0)
  • 11月28日:イスカンデルM×1発(0)

 2023年12月:37発(18撃墜)

  • 12月11日:未詳弾道ミサイル×8発(8撃墜)
  • 12月13日:未詳弾道ミサイル×10発(10撃墜)
  • 12月29日:キンジャール×5発(0)、未詳弾道ミサイル×14発(0)

 2024年01月:57発(15撃墜)

  • 01月02日:キンジャール×10発(10撃墜)、未詳弾道ミサイル×12発(0)
  • 01月08日:キンジャール×4発(0)、イスカンデルM×6発(0)
  • 01月13日:キンジャール×6発(0)
  • 01月23日:イスカンデルM×12発(5撃墜)
  • 01月27日:イスカンデルM×1発(0)
  • 01月28日:イスカンデルM×2発(0)
  • 01月29日:イスカンデルM×1発(0)
  • 01月31日:イスカンデルM×3発(0)

 2024年02月:13発(1撃墜)

  • 02月07日:イスカンデルⅯ×3発(0)
  • 02月15日:イスカンデルⅯ/KN-23×6発(1撃墜)
  • 02月24日:イスカンデルM×2発(0)
  • 02月26日:イスカンデルM×1発(0)
  • 02月27日:イスカンデルⅯ/KN-23×1発(0)

※転用兵器のKh-22対艦ミサイルとS-300対空ミサイルは除外。2023年9月と11月に3回発射されたP-800オーニクス対艦ミサイルも除外。

※未詳弾道ミサイルはS-300が混じっている可能性があるので(ウクライナ軍が正確に判別できず報告)、実際の本物の弾道ミサイル数はこれより少ない。

ロシアのイスカンデルM弾道ミサイルは推定で月産6発

 更に遡ると、2023年6~8月の夏季ではロシア軍の弾道ミサイル発射は合計30発(うちキンジャール20発)でした。そして2023年9~11月の秋季では9発(キンジャール無し)なので、2023年の夏と秋の半年間のロシア軍のキンジャールとイスカンデルMを合わせた使用数は月あたり6.5発でした。これは英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)による2023年初頭の推定「月産6発」とも近い数字です。

At the beginning of 2023, for instance, Russian production of Iskandr 9M723 ballistic missiles was six per month, with available missile stocks of 50 munitions.
「例えば2023年初頭、ロシアのイスカンデル9M723弾道ミサイルの生産は月産6発で、利用可能なミサイル在庫は50発だった。」

出典:英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)
※イスカンデルMの弾道ミサイルの兵器番号が9M723。

12月以降に突然増えたイスカンデルMの正体は北朝鮮製KN-23

 つまり2023年12月以降の冬季3ヵ月間の突然に増えた発射数82発のイスカンデルM(未詳弾道ミサイル含む、キンジャール無し)と報告されているものは、北朝鮮製KN-23が大量に混じっている可能性が非常に高いでしょう。秋季にやや弾道ミサイルの発射を控えた程度では説明がつかない数が飛来しています。

 2024年2月のウクライナ当局の調査ではKN-23は少なくとも24発以上ですが、イスカンデルMの生産能力「月産6発」という推定からは、おそらくもっと遥かに多い数が輸入品のKN-23である可能性が高そうです。ウクライナ軍の調査ではKN-23の使用は12月29日以降とされていますが、12月11日と12月13日の未詳弾道ミサイルも正体はKN-23なのかもしれません。おそらくはイスカンデルMと報告されたものも含めて合計で50発以上、もっと多い数がKN-23だったのでしょう。

 また最近の秋と冬の半年間でキンジャールの発射は12月29日~1月13日の2週間の間に集中的に行われた4回25発だけですが、キンジャールの使える在庫のほとんどを投入した全力攻撃だった可能性が高くなります。

○低速ミサイル迎撃の比較

 ロシア軍は亜音速巡航ミサイルを冬季3カ月間(91日)で8回攻撃し279発を発射しています。1年前の2022-2023冬季ミサイル攻撃では主力だった巡航ミサイルでしたが、2023-2024年冬季は年末年始(12月29日と1月2日)の2回の大規模攻撃が目立つ程度で、それ以外は低調なものに終わっています。

 それでは亜音速巡航ミサイルの発射傾向の分析についても、冬季3カ月間だけではなく、その直前の秋の3月間の発射数を含めた半年間(6カ月間)の傾向を見てみます。

○亜音速巡航ミサイルのみ、2023年9月~2024年2月の半年分

 2023年09月:90発(78撃墜、87%)

  • 09月01日:カリブル×2発(1撃墜)
  • 09月06日:Kh-101×7発(7撃墜)
  • 09月17日:Kh-101×9発(6撃墜)
  • 09月18日:Kh-101×17発(17撃墜)
  • 09月21日:Kh-101×43発(36撃墜) 
  • 09月25日:カリブル×12発(11撃墜)

 2023年10月:5発(4撃墜、80%)

  • 10月03日:イスカンデルK×1発(1撃墜)
  • 10月28日:イスカンデルK×4発(3撃墜)

 2023年11月:4発(4撃墜、100%)

  • 11月04日:イスカンデルK×3発(3撃墜)
  • 11月21日:イスカンデルK×1発(1撃墜)

 2023年12月:109発(101撃墜、93%)

  • 12月08日:Kh-101×19発(14撃墜)
  • 12月29日:Kh-101×90発(87撃墜)

 2024年01月:124発(102撃墜、82%)

  • 01月02日:Kh-101×70発(59撃墜)、カリブル×3発(3撃墜)
  • 01月08日:Kh-101×24発(18撃墜)
  • 01月13日:Kh-101×12発(7撃墜)
  • 01月23日:Kh-101×15発(15撃墜)

 2024年02月:46発(39撃墜、85%)

  • 02月07日:Kh-101×29発(26撃墜)、カリブル×3発(3撃墜)
  • 02月15日:Kh-101×12発(8撃墜)、カリブル×2発(2撃墜)

※Kh-101巡航ミサイルは空中発射型、カリブル巡航ミサイルは艦船発射型。

※イスカンデルKはカリブル巡航ミサイルの派生で地上発射型(ただし公式にはそのような説明はない)。イスカンデルM弾道ミサイルと発射機が共通。

 ロシア軍はKh-101巡航ミサイルを2023年9月21日の発射を最後に暫く発射しなかった期間が約2カ月半の77日もあり、12月8日に発射を再開しています。この間に生産して貯め込んだ分と冬季3カ月間の生産補充分を合わせて攻撃を行いましたが、攻撃は意外なほどに少なく終わりました。事実上5カ月半分の生産期間があるのに279発しか発射していません。

ロシアの亜音速巡航ミサイルは推定で月産数十発

 なお亜音速巡航ミサイルの発射数について更に遡ると、2023年6月~8月の夏季では合計371発でした。つまりロシア軍は秋季に亜音速巡航ミサイルの発射を控えて在庫を貯めていた筈なのに、冬季は夏季よりも発射数が減っています。

  • 06月~08月夏季:371発(うちカリブル系122発)
  • 09月~11月秋季:99発(うちカリブル系23発)
  • 12月~02月冬季:279発(うちカリブル系8発)

 これは夏までに使い過ぎて利用可能なミサイル在庫が心許なくなった上に、ミサイル生産に手間取っている可能性があります。亜音速巡航ミサイルは弾道ミサイルよりも製造が容易で大量生産に向いていますが、現在のロシア軍の亜音速巡航ミサイルの月間生産能力は推定で数十発程度になるでしょう。

 また1年前の冬季ミサイル攻撃ではKh-101と共に主力の座にあったカリブル巡航ミサイル(艦船発射型)ですが、最近では二桁の数の発射は2023年9月25日の12発が最後で、以降は散発的に数発ずつ発射する小規模なものとなっています。現在はKh-101が発射された亜音速巡航ミサイルのほとんど全てを占めています。

 これは黒海でロシア海軍の戦闘艦にカリブルの再装填を行える拠点のクリミア半島のセヴァストポリ港がウクライナ軍の巡航ミサイル「ストームシャドウ」の攻撃を受けるようになり、ロシア海軍黒海艦隊主力がロシア本土のノヴォロシスク港に退避したことが大きいのかもしれません。

  • 2023年09月13日:揚陸艦「ミンスク」撃破 セヴァストポリ港
  • 2023年09月13日:潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌ」撃破 セヴァストポリ港
  • 2023年09月22日:セヴァストポリの黒海艦隊司令部が破壊される

 能力的にはカリブル系は艦船に頼ることなく地上発射も可能です。イスカンデルK以外にもカリブルK(輸出名クラブK)と呼ばれるコンテナ発射型が開発済みなので、地上発射機をトレーラーに載せて運用することも可能なのですが、ロシア軍はわざわざ新たな発射システムを量産してカリブルの攻撃を継続するよりは、既存の爆撃機から発射可能なKh-101の生産と運用に注力するようになったと考えられます。

○低速ドローン迎撃の比較

 ロシア軍は低速ドローン(ここではプログラム飛行型長距離自爆無人機)を冬季3カ月間(91日)で1293発を発射しています。これは1年前の冬季攻撃の同じ期間よりもかなり多いのですが、NATOからウクライナに防空システムが多数供与された現在では80%以上が撃墜されており効果は上がっていません。ただし数が多いので迎撃ミサイルを無駄に消耗させる効果は見込めます。

 数だけを見ると低速ドローンがミサイルを大きく凌いで主力になったと錯覚しますが、低速ドローンは機体が小さく弾頭重量がミサイルの10分の1以下なので、投射量という面でいえばミサイルの補助的な立ち位置のままです。

 また発射傾向を見ると意外なことに低速ドローンは低速ミサイルの囮役としてはあまり期待されていないのか、冬季の低速ミサイル8回の攻撃機会に同時に低速ドローンを使用したのは4回で、連携した攻撃は重視されていません。基本的にミサイルとドローンは別々に攻撃を行っており、同じ目標に移動速度の異なる別種の攻撃兵器を同時に着弾させる飽和攻撃狙いの細かい発射タイミングの調整は行われていないようです。

低速ミサイルと低速ドローンの迎撃率の差について

 低速ドローン(時速200~300km)は低速ミサイル(時速800~900km)よりも更に遅いので迎撃されやすい筈なのですが、実際の迎撃率では低速ドローンは低速ミサイルよりも若干ですが迎撃率が低く突破率が高くなっています。これには2つの理由が考えられます。

  1. ミサイルは重防御目標に、ドローンは軽防御目標に振り分けている?
  2. ドローンは電子妨害に弱く、迎撃する前に無力化された数が多い可能性

 つまりドローンの性能が高いから突破率が高いのではなく、防御の薄い目標を攻撃するように振り分けられているので、結果的に突破率が高くなっただけの可能性があります。

 ミサイルとドローンでは弾頭重量で10倍以上の差があるので、例えば発電所の建屋を破壊しようとするならドローンでは威力不足でミサイルを投入しなければならないのですが、数が少なく重要な発電所は重点的に防御されています。一方で施設が剥き出しでドローンでも破壊可能な変電所は数が多く、防御が薄く分散しているという違いです。

 そしてプログラム飛行型の長距離飛行を行う自爆ドローンはGNSS誘導(全地球航法衛星システム、GPSやグロナスなど)なのですが、電子攻撃(この場合はスプーフィングと呼ばれるGNSSの偽信号による妨害技術)に弱い特徴があります。これに対し低速の巡航ミサイルはGNSS以外の誘導方式の機材(情景照合装置DSMAC、地形等高線照合装置TERCOMなど)を搭載している高価なタイプならば、電子妨害が効かない特徴があります。

 最近のウクライナ軍は電子攻撃による長距離ドローンの無力化を何度か報告しています。つまり迎撃する前に電子戦で目標を無力化した数が多い場合、飛来数に対する迎撃数は少なくなってしまい、見掛け上の迎撃率の数字が悪くなってしまいます。しかしこの場合は実際の迎撃率はもっと高いということになります。

 長距離自爆ドローンは巡航ミサイルよりも安く数が調達できることが優位点なので、高価な誘導方式の機材を複数種類も搭載する余裕がありません。積もうとすれば大きくなり高価になり、それならミサイルとほとんど変わりが無くなってしまいます。

 なおドローンについても最近の半年間(6カ月間)の傾向を見てみます。

○シャヘド自爆ドローン、2023年9月~2024年2月の半年分

  • 2023年09月:503発(396撃墜、79%)
  • 2023年10月:285発(229撃墜、80%)
  • 2023年11月:380発(303撃墜、80%)
  • 2023年12月:598発(490撃墜、82%)
  • 2024年01月:334発(271撃墜、81%)
  • 2024年02月:361発(276撃墜、76%)

 300~600発くらいの間で増減はありますが、シャヘド自爆ドローンはイランからの供給であり、今後も月間数百発規模のまま投入され続けるでしょう。ただし近い将来にロシア国内でのライセンス生産を行う予定となっているので、量産体制次第では供給の増減の変化があるかもしれません。

 ミサイルよりも生産が容易なドローンの大量投入は続きそうですが、迎撃率は80%前後で安定しており、仮に1カ月間に500発を発射しても突破できるのは100発だけです。シャヘドの弾頭重量を推定で30kgとすると100発分は3トンであり、戦闘機1機が1回で運搬できる爆弾の合計重量に相当するものでしかありません。シャヘド自爆ドローンによる長距離攻撃では戦局を変える力は無いでしょう。

○まとめ

 ロシア軍は昨年の2022-2023年の冬に続き、2023-2024年の冬のミサイルによる戦略爆撃に失敗しました。昨年と比べてドローンは増えましたがミサイルは減っており、電力施設が攻撃で破壊された事例は少なく、大規模な停電は発生していません。既にミサイルによる長距離攻撃の戦略的な目的はインフラの破壊ではなく、嫌がらせになったと見做せます。

【ミサイル戦略爆撃の失敗の歴史】

  • 第二次世界大戦末期:ロンドン都市攻撃(弾道ミサイル、巡航ミサイル)
  • 第二次世界大戦末期:アントワープ都市攻撃(弾道ミサイル、巡航ミサイル)
  • イラン・イラク戦争:「都市の戦争」(弾道ミサイル)
  • 湾岸戦争:イスラエル都市攻撃(弾道ミサイル)
  • ロシア-ウクライナ戦争:インフラ攻撃(弾道ミサイル、巡航ミサイル、自爆ドローン)

 ミサイルはペイロード(弾頭重量)が少なく、高価なので数が用意できず、ミサイルのみを用いた戦略爆撃で成功した事例が世界的に見ても過去にも一例もありません。戦略爆撃は大型爆撃機に大量の爆弾を搭載して爆撃しても成功例は少ない戦法です。ましてや投射量の少ない通常弾頭のミサイルによる攻撃では、国家を屈服させることはできません。

 現状でロシア軍の低速ミサイルと低速ドローンに対するウクライナ軍の迎撃率は約80%を維持しており、迎撃戦ではウクライナ軍が優位に進めています。そこでロシア軍は迎撃が困難な高速ミサイル(特に弾道ミサイル)を補充すべく北朝鮮から纏まった数のKN-23弾道ミサイルを購入しましたが(推定で数十発規模)、現在までにKN-23は異常なまでの命中精度の悪さ(24発中まともに目標に命中したのは2発のみ)が露呈しています。これでは市街地への無差別爆撃には使えても、電力施設や軍事施設への精密攻撃には使えません。

 ロシア軍の戦術用途の弾道ミサイルは開戦初期に使い切って既に在庫がろくに残っておらず、生産能力はRUSIの推定で月産6発程度、仮に2倍に増産できても大した数にはなりません。北朝鮮から購入しても性能が大きく劣るとなると、残る手段はイランからの購入ですが、現在までに報道はあるものの、実際にはまだイラン製弾道ミサイルのロシア軍による使用は確認されていません。

 イラン製の弾道ミサイルでロシアへ輸出されるとしたらファテフ-110系の短距離弾道ミサイルとなるでしょう。イランのファテフ-110はミサイルの大きさや全長と直径の比率が北朝鮮のKN-25(600mm超大型ロケット弾)によく似ており、細長いのが特徴です。

 もし本当にロシアがイラン製の弾道ミサイルを大量購入してウクライナで使用し始めたら、ウクライナ軍の防空部隊は苦しい戦いを強いられることになります。最有力の対抗手段は弾道ミサイル防衛システムであるパトリオット防空システムになりますが、まだウクライナ軍には3個高射隊分しか配備されていません。

○記事末資料:ウクライナ迎撃戦闘2023-2024年冬季2月分

ウクライナ空軍司令部より2024年2月1日のシャヘド自爆無人機の撃墜戦果
ウクライナ空軍司令部より2024年2月1日のシャヘド自爆無人機の撃墜戦果

2024年2月:475発(332撃墜、70%) 出典:ウクライナ空軍司令部

※()内は撃墜数。太字は弾道ミサイルと亜音速巡航ミサイル。Kh-59空対地ミサイル、Kh-31P対レーダーミサイルは除外した集計。

  • 02月01日:シャヘド×4(2)
  • 02月02日:シャヘド×24(11) ※未迎撃のうち7機以上が目標到達せず
  • 02月03日:シャヘド×14(9) 
  • 02月07日:イスカンデルⅯ×3(0)、Kh-22×4(0)、S-300×5(0)、Kh-101×29(26)カリブル×3(3)、シャヘド×20(15)
  • 02月08日:シャヘド×17(11)
  • 02月09日:シャヘド×16(10)
  • 02月10日:シャヘド×31(23)
  • 02月11日:シャヘド×45(40)
  • 02月12日:シャヘド×17(14)、S-300×2(0)
  • 02月13日:シャヘド×23(16)
  • 02月15日:イスカンデルⅯ/KN-23×6(1)、S-300×2(0)、Kh-101×12(8)、カリブル×2(2)
  • 02月18日:Kh-22×3(0)、S-300×6(0)、シャヘド×14(12)
  • 02月19日:シャヘド×4(4)
  • 02月20日:シャヘド×23(23)、S-300×2(0)
  • 02月21日:Kh-22×4(0)、S-300×1(0)、シャヘド×19(13) ※未迎撃の6機のシャヘドの幾つかは目標到達せず
  • 02月22日:シャヘド×10(8) 
  • 02月23日:Kh-22×2(0)、S-300×3(0)シャヘド×31(23) 
  • 02月24日:イスカンデルM×2(0)、シャヘド×12(12)  
  • 02月25日:シャヘド×18(16)
  • 02月26日:イスカンデルM×1(0)、S-300×2(0)、シャヘド×14(9)
  • 02月27日:イスカンデルⅯ/KN-23×1(0)、シャヘド×13(11)
  • 02月28日:シャヘド×10(10)、S-300×1(0) 

※2023年12月と2024年1月の詳しい集計記録は「ウクライナ迎撃戦闘2023-2024年冬季・2カ月目」の記事末を参照。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

JSFの最近の記事