ウクライナ軍がKh-22巡航ミサイルの撃墜に成功
5月31日、ウクライナ軍参謀本部はロシア軍のミサイル2発の迎撃に成功したとして、片方の戦果の証拠として撃墜後のミサイル残骸の写真を公開しました。驚くべきことにそれはKh-22巡航ミサイルのエンジン部分でした。
Kh-22巡航ミサイルはTu-22M3爆撃機から発射される重量6トン近い大型の空対艦ミサイルで、対艦攻撃だけでなく限定的な対地攻撃能力もあります(ただし対地攻撃での命中精度は著しく悪い)。液体燃料式ロケットエンジンを搭載し、巡航ミサイルというよりはむしろ弾道ミサイルに主翼を付けた滑空ミサイルと呼ぶべき構成の兵器です。最大速度はマッハ5弱で、これを撃墜するにはS-300などの大型の防空システムが必要になります。
黒い球形の部品は圧縮ガスのボンベです。考えられる用途としては二通りがあります。
- 液体燃料の推進剤および酸化剤をエンジン燃焼室に送る加圧用ガス。
- 操舵翼の作動用ガス。
文字が掠れていて見え難いですが、一番上には「СЖАТЫЙ АЗОТ(圧縮窒素)」とロシア語が書かれているのが読み取れます。
また「22.05.1991」はおそらく製造年月日の数字で、その左側の文字はДата(日付)の筆記体です。1991年5月22日に製造された部品と分かります。Kh-22は1962年に運用開始された古い設計のミサイルで、1991年の製造時期のものは2016年に採用された改良型Kh-32ではないことになります。
外部参考記事:Крылатая ракета Х-22 (комплекс К-22) | Ракетная техника ※Kh-22の詳細な内部図解があり、球形の部品が2種類あることが分かる。
Шары-баллоны с воздухом и агрегаты системы наддува баков (空気の球形ボンベとタンク加圧システム装置)
Шары-баллоны с азотом (窒素の球形ボンベ)
※片方は空気とあるが、両方とも窒素ガスの可能性がある。
Kh-22巡航ミサイルのR-201-300液体燃料式ロケットエンジンは2種類の燃焼室を持ちます。先ず大きな主燃焼室を初期加速に用いて、その後に小さな巡航用燃焼室に切り替えます。
もし弾道ミサイルならば巡航用燃焼室という考え方は採用されないので(弾道ミサイルは初期加速で燃料を一気に使い切って砲弾のように飛んで行く)、Kh-22巡航ミサイルが非空気吸入式のロケットエンジンであっても大気圏内での巡航を意識した設計であることが分かります。
巡航用燃焼室は小さいので燃焼時間が主燃焼室よりも長くなりますが、それでもロケットエンジンである以上は燃焼は早期に終了してしまうので、あとは滑空飛行を行います。
この巡航用燃焼室を持つタイプの液体燃料式ロケットエンジンのミサイルは種類が少なく、現在も現役の実戦用ミサイルではKh-22(および改良型のKh-32)くらいしか残っていません。