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ラーメンが一杯290円? このままでは博多ラーメンの文化が途絶えてしまう!

山路力也フードジャーナリスト
ラーメンをおやつとして捉えるのか食事として捉えるのか。

一杯500円以下も存在する福岡の豚骨ラーメン

替え玉発祥の老舗『元祖長浜屋』は一杯550円。
替え玉発祥の老舗『元祖長浜屋』は一杯550円。

 日本三大ご当地ラーメンの一つでもあり、今や世界にもその名が知られる「博多ラーメン」。地元民はもちろん観光客やインバウンドも、豚骨ラーメンを求めて足を運ぶ。「博多ラーメン」は「水炊き」や「もつ鍋」と並ぶ、福岡を代表するご当地グルメの一つと言って良いだろう。

 それなのに福岡の豚骨ラーメンは全国的にみても、福岡市内で他のラーメンと比較しても安い。ラーメン一杯700円台は高めの方で、500円台〜600円台のラーメンがゴロゴロと存在する。チェーン店の中には企業努力によって300円台や290円という価格をつけている店すらある。替え玉発祥の人気店『元祖長浜屋』も一杯550円の安さだ。

豚骨ラーメンが価格が上がりにくい原因とは

「非豚骨」と呼ばれるラーメンの中には1,000円超えのものもちらほら。
「非豚骨」と呼ばれるラーメンの中には1,000円超えのものもちらほら。

 戦後の屋台から始まった福岡のラーメンは、安くて手軽にサッと楽しめる言わば「おやつ」感覚の食べ物だった。具材はシンプルでスープも軽いので現代のラーメンよりも原価がかからない。さらに家族経営で人件費もかけず、自分の土地に店を構えている店も多く地代家賃もかからない店が多い。結果としてラーメンの価格は安いものというイメージが定着して、同調圧力的に価格が抑えられてきた。

 一方、醤油ラーメンやつけ麺など、最近福岡で増えている豚骨以外のラーメンは具材も豊富で一杯800円〜900円の価格が当たり前。中には1,000円を超えるものもある。そしてそれを福岡市民も当たり前のように受け入れている。福岡では長い間「ラーメン=豚骨ラーメン」という図式が定着していたため、豚骨ラーメン以外のラーメンはある意味で別の料理として捉えられているのだ。

人それぞれに行きつけの店がある弊害

福岡の人には子供の頃から通っている行きつけのラーメン店がある。
福岡の人には子供の頃から通っている行きつけのラーメン店がある。

 福岡の人には誰もが行きつけのラーメン店がある。子供の頃から親に連れられて大人になっても通い続けているような、ソウルフードのような存在の店だ。福岡には戦後から続く老舗ラーメン店も数多くあり、今も昔も変わらぬ人気を保ち続けている。ラーメンを食べるならココ、と決めている人も少なくない。そしてそれらの店はだいたい価格が安い。

 そんな福岡で新たに豚骨ラーメンで勝負しようとすると、安くて通い慣れている行きつけの店がライバルになってしまう。それよりもライバルが少なく価格も取りやすい「非豚骨」で勝負するのは当然の流れだろう。ここ数年、福岡では豚骨ラーメン店の開店数よりも醤油ラーメンなど豚骨以外のラーメン店の開店数の方が上回っている。

今の豚骨ラーメンはコストがかかる

豚骨以外のラーメンが増えつつある福岡。
豚骨以外のラーメンが増えつつある福岡。

 福岡で豚骨ラーメンの新規出店が少ないもう一つの理由は、価格は他のラーメンより安いのに、原価は他のラーメンよりも高くかかるため。スープもライトで具材も少ないノスタルジックな設計の豚骨ラーメンであれば原価もある程度抑えられるだろうが、現代の豚骨ラーメンはスープを取るのに大量の骨を使い長時間炊くものが多く、それに伴い光熱費や人件費が高くなる。今の時代に合ったスペックの豚骨ラーメンは700円などの売価では利益が出ないのだ。

 そもそも今の時代のラーメンという料理は、かけている原価や手間がオーバースペック気味で、売価とのバランスが悪い。その上、福岡の豚骨ラーメンは売価が上げにくいため、他のラーメン以上にそのバランスが悪くなる。それよりも売価の縛りが少ない醤油ラーメンやつけ麺で商売をしようと考える人が多いのも自然なことだ。

 さらに豚骨ラーメンには「臭い」が出るというイメージが強いため、テナントなど新たに物件を借りて出店するのにもハードルが高い。適正な利益が得られる価格で売ることも大事だが、豚骨ラーメンに対する強い思いや愛情がなければ、なかなか新たに豚骨ラーメン店を開店しようとは思わないだろう。

福岡の豚骨文化を継承していくために

ブランディングによって一杯1,000円の豚骨ラーメン店も生まれつつある。
ブランディングによって一杯1,000円の豚骨ラーメン店も生まれつつある。

 福岡には『一風堂』や『一蘭』など全国や海外にも展開する企業がある一方で、個人経営によるラーメン店もたくさんあり、それらが一体となって豚骨ラーメンの文化を醸成してきた。今のままでは福岡で新たに豚骨ラーメンにチャレンジする人は増えず、福岡の豚骨ラーメン文化が継承されなくなる危惧がある。

 安くて美味しい従来の博多ラーメンに対し、価格で勝負するのは無理があるので品質で対抗するしかない。その一つは従来の「おやつ」感覚の豚骨ラーメンとの差別化を明確にすること。コストも手間もかけたハイスペックな豚骨ラーメンを出し、ブランディングを高めたり付加価値をしっかりとアピールすれば、適正な利益が得られる価格をつけることが出来るだろう。実際、福岡でも一杯1,000円の豚骨ラーメンが出始めている。

次の時代を創る豚骨ラーメン店が生まれなければ

ネオノスタルジックなラーメンを再構築するのも重要だ。
ネオノスタルジックなラーメンを再構築するのも重要だ。

 もう一つこれまでの博多ラーメンのような安い価格は維持しつつも、その範囲内で最大限美味しいラーメンを追求する道もある。オーバースペックにならないように、700円台でしっかりと利益が出るような原価にして、システムによって人件費も抑える。さらに老舗の暖簾に負けないためのブランディングやストーリーも不可欠になるだろう。

 これまでの博多ラーメン文化を作り上げてきた先人達の功績は偉大だ。しかしながら新たな豚骨ラーメン店が次々と生まれていかなければ、博多ラーメンの未来は暗い。いくら醤油ラーメンやつけ麺の店が増えようとも、福岡の人にとってラーメンと言えば豚骨。これからも博多ラーメンの歴史が途絶えぬように、次の時代を創る豚骨ラーメン店の誕生を願ってやまない。

※写真は筆者の撮影によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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