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減らさない方が損!「食品ロスを減らすと経済が縮む?」中日新聞の良記事

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
東京都23区内、家庭ごみに入っていた賞味期限前・消費期限前の食品(筆者撮影)

2020年1月11日付の中日新聞に、減らさないのが「損」 食品ロスという社説が掲載された。よくぞおっしゃってくださった、という気持ちだ。

京都市内スーパー 1ヶ月間の実証実験では「食品ロス10%減、売り上げ5.7%増」

筆者は2018年5月22日に、京都市の実証実験のデータを元に「食品ロスを減らすと経済が縮む」は本当か スーパーで食品ロス10%削減、売り上げは対前年比5.7%増という記事を書いた。京都市が、市内のスーパーで1ヶ月間、賞味期限や消費期限ギリギリまで食品を販売する実証実験を行ったところ、食品ロスが10%減って売り上げが5.7%増加した、という結果が出たのだ。つまり、食品ロスを減らしながら売り上げを微増させたということだ。

その後も2018年10月に「食品ロスを減らすと経済が縮む」は本当か、2019年には本日2019年10月1日施行、日本初の食品ロスに関する法律「食品ロス削減推進法」に何を期待するかを書くなど、合計10以上の記事で、同様のことを主張してきた。

「食品ロスを減らすと経済が縮む」?

日頃、食品ロスを減らすための啓発活動をしていると、必ずといっていいほど「食品ロスを減らすと経済が縮むから減らさない方がいい」という意見が出る。「大量に作って余ったのを捨てる方が経済合理性がある」といった意見や「食品は大量生産・大量販売で低価格が実現できているので、少量にすると経済的に困窮している人が困る」などといった意見がある。

はたして本当にそうなのだろうか。

中日新聞の記事によると「スーパーと外食産業から出る事業系食品ロスのコストは年間7,500億円にも上る。廃棄費用も含め、結局は消費者負担」とある。

「宴会の作法や冷蔵庫の中のことまで、とやかく言うな」という反発の声もある。

 だが、考えてみれば、食品ロスとは、膨大な経済ロスではないのだろうか。

 みずほ総研の試算では、スーパーと外食産業から出る事業系食品ロスのコストは、年間約七千五百億円にも上るという。廃棄費用も含め、結局は消費者負担ということになる。

 同様に、各家庭の冷蔵庫や食品棚の「不良在庫」は、不要な出費。食品ロス対策は、環境にやさしいだけではなく、家計にもやさしい行動なのだ。

 減らさないのが損(ロス)ではないか。

出典:2020年1月11日付 中日新聞 社説(太字は筆者)

「大量生産・大量販売で低価格が実現できるから少量にすると経済的に困窮している人が困る」?

「食品は大量生産・大量販売で低価格が実現できているので、少量にすると経済的に困窮している人が困る」。

この質問は、講演の時に受けた。はたしてそうなのだろうか。

日本の食料品が先進諸国に比べて安過ぎることは、食の専門家から指摘されている。

食品の価格が高い先進国では、企業が余剰食品を安心して経済的困窮者にシェアできる法整備や制度が、日本よりも整っている。日本にはそれすらないから経済的に困窮している人が困っているのではないだろうか。

デンマークで賞味期限接近などの食品を安価で販売するスーパー「wefood」(wefood提供)
デンマークで賞味期限接近などの食品を安価で販売するスーパー「wefood」(wefood提供)

SDGs先進国のスウェーデンでは「経済・環境・社会の両立は当たり前」

2019年7月、世界SDGs達成度ランキングで毎年1位2位を競っているスウェーデンとデンマークへ取材に行った。

スウェーデンでは「経済」「環境」「社会」の3つの要素をバランスよく保っていくことが当然とのことだった。この3つの要素を保つことこそ「SDGs」が目指すところ、つまり「持続可能な開発」である。

SDGs(国連広報センターHP)
SDGs(国連広報センターHP)

そもそも経済活動は、地球にある資源をいただいていて、成り立っている。その地球環境を壊したら、経済活動自体が立ち行かなくなる。すでに「地球1つでは足りない」状況だ。経済の源になっている環境の保全配慮をせずして経済開発を推し進めること自体が矛盾している。

2016年にCNNが報じた通り、スウェーデン政府は修理にかかる税金を半分に減額する法案を提出した。このことについて、J-WaveのDJ、ジョン・カビラさんが金融市場・消費者担当大臣のボルンド氏に電話取材をした。ジョン・カビラさんが「売り上げ落ちるんじゃないですか?」といった質問をしたところ、ボルンド氏は「そんなことはない。自転車修理も繁盛して人材が足りないくらい。IKEA(イケア)などの小売店も、我々の提案を喜んで受け入れている」と答えている。

日本では、まだ食べられる食品(可食部)をリサイクルすることがとても多い。一方、スウェーデンでは、バナナの皮やコーヒーかすなど、食べられない部分(不可食部)をリサイクルしたグリーン電力100%でバスが街中を走っていた。

目に見えるものしか見ることができなくなってしまった

目に見えるものしか見ることができない傾向を感じる。前述の、日本の貧困もそうだ。見えない=存在しない と誤解する人もいる。

食品それ自体には水がないように見えても、製造される過程では、大量の水を使っている。たとえば牛肉であれば、1kgを作るのに、その20,000倍の水が必要だ。

SDGsの6番は「安全な水とトイレを世界中に」(国連広報センターHP)
SDGsの6番は「安全な水とトイレを世界中に」(国連広報センターHP)

1つの食品ができるまでには、何十人、何百人どころか、何千人、何万人の手が加えられていることもある。そう考えると、食品は、モノではなく、たくさんの人の命の結集である。

「減らさない方が損(ロス)」という中日新聞・社説の主張はもっともだと思う。

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本日2019年10月1日施行、日本初の食品ロスに関する法律「食品ロス削減推進法」に何を期待するか

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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