コンビニ恵方巻きは食品ロス問題の象徴だ
恵方巻きで透けて見える食品ロス問題の真相
記事『コンビニ恵方巻き「大量廃棄」問題の解決が難しい事情』や、2019年1月11日の恵方巻きに関する記事へのコメントは、たくさんのアクセスがあり、多くの反響を呼んだ。
恵方巻きに関し、スーパーとコンビニでは大きな違いがある。スーパーでは、店内調理ができる店舗があり、在庫や客の入りを見ながら調整し、期限が迫れば見切り(値引き)販売をして売り切る努力をする。一方、コンビニでは、恵方巻きの店内調理は行わない。期限が迫っても見切り(値引き)する店舗は全国55,000店舗のうち、ほとんどない(映画「コンビニの秘密」によれば1%)。
コンビニエンスストアのオーナーから直接、ご連絡をいただき、記事に述べられている本部の回答と店舗の現状との乖離を教えてくれる声もあった。
農林水産省が「前年実績の企業を見習うよう」通知を出した が、大手小売は「前年実績を上回る目標」
2019年も、コンビニエンスストアやスーパーの店頭などでは、恵方巻きの予約販売のチラシが多く刷られている。
2019年1月農林水産省が小売業界に対し「需要に見合う数の販売を」と通知を出した。前年実績(前年と同じ数)で作って販売した、兵庫県のヤマダストアーをお手本として示している。
にもかかわらず、大手小売各社は「前年実績を上回る目標で販売する」とマスメディアの取材に答えている。
2017年の筆者の取材には、大手コンビニ3社およびスーパー1社の合計4社は「予約販売は食品ロス削減の目的ではない」と回答していた。
だが、2019年の農水省の通知後、一部の会社は食品ロス削減策として「予約販売を強化する」と回答している。
様々な恵方巻きの販売促進チラシやのぼりが店頭で散見され、1月から連日、店頭で、恵方巻きの当日販売が始まっている。
意図的に余らせて捨てる方が本当にいいのか?
食品ロスの問題を専門としている筆者が、メディアで取材に応じ、全国各地で講演し、食品ロスの記事を書くと、必ず耳に入ってくる意見がある。
「たくさん作って余れば捨てる方が、経済合理性がある」
「食品ロスを減らそうとすると経済がシュリンクする(縮む)」
といったものである。
確かに、日本の食品業界は、基本的に「欠品NG」だ。足りなくなると販売機会を失う。食品メーカーは欠品を起こすと小売から取引停止にされるリスクがあるため、多めに作ることを余儀なくされている。
果たして、ロスを減らそうとすると、必ず売り上げが縮小するのだろうか。余ることが事前に把握できるほど大量に販売することは、回り回って、消費者にも負荷をかける。
食品業界でロスが起こる要因のうちのいくつかと、ロスを減らしながら売り上げを保っている企業の事例を見てみたい。
食品ロス要因その1:工業生産
まず、店頭に並ぶ恵方巻の製造方法について現状を見てみよう。
恵方巻きには、手作業で手巻きするものと、生産拠点で大量に工業生産されるものとがある。
食品ロスの観点から言えば、コンビニチェーンなど向けに工業生産される恵方巻きが問題となる。つまり、食品を工業生産する場合、1回の製造工程ででき上がる量は膨大になる。その結果、どうしても大量のロスが生じてしまうのだ。
例えば、ある米飯を提供する企業では「必要量の10倍以上もの米飯が炊き上がってしまい、余ってしまう」という話を取材で聞いた。また、缶詰など長期保存がきく加工食品の試作でも、通常、数千から数万単位が(自動的に)でき上がるという。
食品ロス要因その2:チラシ 見栄えよく撮影されるため、何度も作り、撮影が済めば廃棄
次に、問題と思われるのは、チラシ制作終了後に廃棄される恵方巻きがバカにならないほど多いということだ。リサイクル工場には1月から恵方巻きが持ち込まれる。だが、コストをかけてリサイクルされるのはほんの一部で、多くはごみとして廃棄処分される。年間2兆円近くになるごみ処理費用は、我々の税金から捻出される。
消費者が手に取る色とりどりのチラシ。1店舗だけでもなん千万円のコストがかかる。複数店舗を持つ企業なら億単位だ。このコストも間接的には売値に転嫁される。
当然ながら、見栄えのよい写真を撮るためには、写真撮影用に試作しなければならない。撮影が終わったら、用済みだ。筆者が全国のスーパーマーケットの社員291名に聞いた結果では、「スーパーチラシ制作における商品撮影時に終了後廃棄」という現場の声が多くあった。
飲食店の一例で考えれば、「失敗作」の廃棄がある。「野菜の切り方を間違えた」「オムライスの卵が綺麗に仕上がらなかった」「客の注文したものと違うものを作ってしまった」など。チラシ制作においては何よりも“見栄え”が重視される。チラシに掲載されるまでには、綺麗に仕上がらなかった恵方巻きもあるだろう。
食品ロス要因その3:食品メーカーがコンビニで使う商談サンプル
試作されるサンプルは、チラシの撮影だけでない。食品メーカーがスーパーマーケットやコンビニエンスストアに商品を入れてもらうための商談では、新商品のサンプルを持ち込む。毎年、春や秋に全国で行われることの多い新商品発表会や食品展示会では、試食やサンプルが配られ、余ったら廃棄することが多い。
2月3日の「節分の日」に全国で一斉販売される恵方巻きを例に考えれば、「サンプル」として役目を終えた恵方巻き、「失敗作」に終わった恵方巻きが廃棄される量は膨大なものになるだろう。
食品ロス要因その4:連日の食品検査 食べられるのに残りは全部廃棄
加えて、食品企業の多くは、毎日、製造される食品の検査を行っている。製造ラインから抜き取り、製品の一部を使って官能検査などを行ない、残りは廃棄することが多い。この食品検査後に廃棄される商品も全国規模で考えれば、見過ごせない量であろう。
もっとも、検査品の残りについては、ある企業のように、冷凍してフードバンクに寄付するケースもわずかながらある(フードバンクとは、賞味期限接近など、商品としては流通できないが十分に食べられる食品を引き取り、食品を必要とする組織や個人へ届ける活動、もしくはその活動を行う組織を指す)。
食品ロス要因その5:商慣習「3分の1ルール」賞味期限・消費期限より手前で廃棄
食品業界には、いくつもの商慣行がある。その1つが「3分の1ルール」と言われるものだ。
3分の1ルールとは、賞味期間全体を3つの期間に均等に分割し、製造から最初の3分の1が「納品期限」。納品期限からさらに3分の1で「販売期限」。販売期限が来たものは棚から撤去される。このルールを運用すると、まだまだ食べられる商品であっても廃棄される食品が増えてしまう。
コンビニで、弁当やおにぎりを買おうとして、まだ消費期限まで時間があるのにレジを通らなかった経験や、店員から売ってもらえなかった経験を持つ人もいるかもしれない。それは、消費期限や賞味期限の手前にある「販売期限」が過ぎたためだ。企業によって設定時間は異なるが、弁当やおにぎり、サンドウィッチなどは、消費期限の2時間前から3時間前に設定されている。賞味期限の長い加工食品は、賞味期限の数ヶ月前に販売期限が切れる。
在庫が回転しない、あまり売れない日持ちする飲食品については、メーカーに返品されるケースもある。が、メーカーに返品されても、温度管理が保証されていないものを再度販売することはできない。多くは、棚から撤去されれば廃棄されてしまう。
このルールを緩和してロスを減らすため、2012年10月から、農林水産省や流通経済研究所と共に、食品業界は「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」を作り、横断的に活動してきた。だが、全国的には十分ではないため、経済産業省と農林水産省が共同で小売業界に対し、通知を出している。
一部の小売店(スーパー・コンビニ)では、棚から撤去したものを前述したフードバンクに寄付する取り組みがあるが、全国的に見ればまだまだ少数だ。
そもそも「納品期限」自体に間に合わず、そのまま廃棄されてしまう事態も珍しくはない。
筆者も、納品期限に間に合わず、売れなくなり、24個入り20ケースの食品を“サンプル”として引き取ったことがある。輸入食品なので、船で運んでいるうち、海外と比べて短く厳格な日本の納品期限に間に合わなかったのだ。
食品ロス要因その6:前日納品の賞味期限より一日でも古いものは納品NGの「日付後退品」
また、前日に納品した商品の賞味期限より、当日、納品しようとする商品の賞味期限が、1日でも古くなっていれば、たとえ賞味期間が1年以上ある商品であっても、小売店に納品することができない。これを「日付の逆転」問題と呼ぶ(あるいは日付後退品問題)。これにより、10トン以上の商品が宙に浮いてしまい、ある食品メーカーから相談を受けたこともあった。
このように、コンビニの恵方巻きに限らず、食品や飲料は、消費者の目に見えている以外のところでも、ロスが発生している。
食品ロスを減らして売り上げを上げている事例
では、売り上げを上げるためには、コンビニ恵方巻きのように、「欠品ご法度」で山のように準備し、余れば捨てるしかないのだろうか?
冒頭に問うた「食品ロスを減らすと売り上げは下がるのか」という問題について改めて考えてみたい。以下、各企業の事例を紹介する。
事例その1:売り上げを1.5倍に伸ばしロスを減らした元気寿司
2017年9月29日、あきんどスシローとの経営統合の協議開始について発表した元気寿司。回転寿司チェーンだが「回さない」タイプの店舗を2017年5月時点で全国86店舗まで増やした(2017年5月10日付朝日新聞の記事より)。従来型の「回す」型から「回さない」型に改装した店舗では売上高がおよそ1.5倍に増えた。食品ロスも削減でき、2017年5月時点での売上高は、前年比8・1%増の349億円。増収増益を達成している。
事例その2:ロスを減らし10年間で売上高5倍の相模屋食料
日本気象協会との連携で気象データを活用し、豆腐のロスを年間30%も削減している、相模屋食料株式会社。日本最大の豆腐製造工場である第三工場を群馬県に擁している。豆腐は、デイリー・日販品(にっぱいひん)などと呼ばれ、スーパーでもロスになりやすい商品だが、10年で売上高5倍、毎年、売上高を伸ばしてきている。
事例その3:ロスを減らし働き方改革も達成した「佰食屋」
飲食業や不動産事業を営む株式会社minittsは、京都市内に「一日百食限定」の店「佰(ひゃく)食屋」を3店舗構えている。牛ステーキ丼、すき焼き、牛寿司の3店舗。売り切れ御免。午後3時頃に閉店し、従業員が賄いのご飯を食べ、翌日の仕込みをして終業。ひとり親家庭の親や、家族の介護をしている人、障害のある人も働くことができている。年商億単位だ。代表の中村朱美さん自身、娘さんと、脳に障害のある息子さんの、2人のお子さんを抱えながら経営者として働き続けており、2018年12月には、日本経済新聞社「日経WOMAN」のウーマン・オブ・ザ・イヤー2019で大賞を受賞した。
事例その4:捨てないパン屋「ブーランジェリー・ドリアン」
広島市内のパン屋「ブーランジェリー・ドリアン」は、かつては8人を雇用し、数十種類のパンを作り、毎日、大量のパンを焼き、たくさん捨てていた。ある時モンゴル人の友人から「パン捨てるのはおかしい」「安売りすれば?誰かにあげれば?」と言われた。
「いやできない」「できる」の言い合いになったが、友人の方が正しいと感じた。2013年、オーストリアのパン屋で研修したら、朝8時に行き、昼には仕事が終わった。労働時間4時間。でも日本のどのパンより美味しい。自分は18時間も寝ずに働き、できるパンはこれより不味い。
帰国後、パンを4種類に絞った。夫婦で働き、種類・製法・販売方法・営業時間は楽な方法で。でも材料はベストのものを使った。結果的に、夫婦2名での売り上げは、8人体制の時と同じ、年商2,500万円。かつては借金を抱えたパン屋だったが、再建した。休みは8人体制の時より増え、パンは売れ残らなくなった。2015年秋から2019年1月まで、パンを1個も捨てていないという。
ロスを減らしても経済はシュリンクしない
次に、「食品ロスを減らそうとすると経済がシュリンク(縮小)してしまう」という指摘について、海外の事例を見てみよう。
スウェーデンは修理にかかる付加価値税を半減
2016年、スウェーデン議会に、修理にかかる税金を半減させる法案が提出された。金融市場・消費者担当大臣のボルンド氏が、J-WaveのDJ、ジョン・カビラ氏の電話取材を受けた。ジョン・カビラ氏は「売り上げ落ちるんじゃないですか?」といった質問をしたところ、ボルンド氏は「そんなことはない。自転車修理も繁盛して人材が足りないくらい。小売店も我々の提案を喜んで受け入れている」と答えた。
書籍『食品ロスの経済学』の著者で、愛知工業大学経営学部経営学科教授の小林富雄氏は、こう語る。
「CVS(コンビニエンスストア)では、1店舗あたりの食品ロスは減少しているが、特に都市部では店舗過剰(Overstore)が顕著であるため、チェーン全体での削減はさほど進んでいない。それが解消されない限り、加盟店は顧客流出を恐れ、過剰仕入れは止められない。特に恵方巻などの季節品は、短期間での顧客争奪戦になりがちで、廃棄リスクが、より高くなる」
SDGs(持続可能な開発目標)を取り入れる先進的な企業
2030年までに世界の食料廃棄を半減させる、など、2030年までに達成すべき17の目標「SDGs(エスディージーズ:Social Development Goals:持続可能な開発目標)」が、2015年9月、国連サミットで決定した。日本国内の限られた先進的な企業は、すでに自社の経営計画や経営理念の中にSDGsを取り込み始めている。
2019年1月、あるコンビニ店舗で「恵方巻きの販売数を例年の10分の1に減らす」と宣言
わずかな望みもある。2019年1月、あるコンビニエンスストアの店舗では、恵方巻きの販売数を「例年の10分の1に減らす」と、売り場に張り紙を出した。
もしかしたら、全国の他のコンビニ店舗でも、このような取り組みがある、かもしれない。
以上、恵方巻きが毎年捨てられる問題を機に、食品ロスを減らしながら経済活動を継続していくことについて具体例を挙げて解説してみた。
捨てる食品の量が多ければ多いほど、われわれ消費者が被るコストも増える。この機会に自分ごととして考えてみてほしい。
コンビニ恵方巻は食品廃棄問題の「象徴」だ(ダイヤモンドオンライン)2018.2.2 を一部修正、加筆
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