なぜコンビニ弁当は消費期限前なのにレジ通らなくて売ってくれない時があるの?残ってるこれが食べたいのに
コンビニでお弁当を買おうとして、一つだけ残っているカツ丼弁当を持ってレジへ行った。すると、レジの「ピッ!」というバーコードの読み取り機が通らない。「あれ?」と思うと、店員さんが「これは期限が切れているので売ることができません」と言う。「えっ?」と思って、表示を見てみると、消費期限は、切れるまで、まだ2時間も残っている。なんで?まだ期限切れてないじゃない!これが食べたいんだから、と食い下がっても、店員は「いえ、決まりですから」と、決して販売を許可しない。「売ることはできないんです」の一点張り・・・こんな経験をしたことはないだろうか。
その背景には、消費者に見えている「消費期限」や「賞味期限」のほかに存在する、食品業界の「期限」がある。
消費期限と賞味期限の違いとは?
まず、食べ物に表示されている、消費期限と、賞味期限の違いについて見てみよう。その2つですら、混同している人が、とても多い。
消費期限(しょうひきげん)(下のグラフの赤線)は、おおむね、5日以内の日持ちのものに表示される。「安全に食べられる期限」。たとえば弁当、おにぎり、サンドウィッチ、調理パン、総菜、生肉、鮮魚、生クリームのケーキなどに表示される。
賞味期限(しょうみきげん)(下のグラフの黄線)は、それ以外のものに表示される。微生物試験や理化学試験、官能検査などの試験の結果から「美味しく食べられる目安」を算出し、それに安全係数(0.8前後)を掛け算して短めに設定する。表示されているのは「美味しさの目安」であり、それを過ぎたからといって、すぐに食べられなくなるわけではない。
消費者にとっての期限表示は、現在、この「消費期限」と「賞味期限」の2つしかない。
賞味期限表示を省略できる食品もある。たとえば、砂糖や塩、アイス、ガムなど、劣化が非常に遅い食品は、賞味期限表示を省略できることになっている(ガムの中でも、特定保健用食品については、賞味期限表示することに決まっている)。
消費期限・賞味期限のずっと手前にある「販売期限」が来たら棚から撤去して廃棄
では、なぜ消費期限まで2時間もある弁当を、売ってもらえないのだろう?
それは、消費期限や賞味期限の手前には、「販売期限」が設定されていて、それを過ぎればもう売れないからだ。
「販売期限」は、法律ではない。が、食品業界の商慣習として、1990年代ごろに大手スーパーを皮切りに、全国で使われてきて、現在に至っている。
「販売期限」が来たら、小売(コンビニ・スーパー・百貨店など)は、食品を棚から撤去して、廃棄する。廃棄せずにメーカーに返品する場合もあるが、メーカーとしては、たとえ返品されたとしても、再度販売する(再販する)ことはほとんどない。輸送の途中での温度管理など、されていたとしても、メーカーの手元で管理していたわけではない以上、保証はできないからだ。
この「販売期限」は、消費期限表示の弁当などだけではなく、賞味期限表示がされた日持ちの長い食品にも適用されている。コンビニもスーパーも百貨店もそうだ。買い物途中に、店員さんが、棚から撤去する作業をしている様子を目にした人もあるだろう。筆者も先日、東京都内の百貨店で、若い女性の店員さんが、賞味期限チェックをし、棚からカゴへと大量に撤去する作業をしているのを見た。「もったいないですよね・・・まだ食べられるのにね。いいと思うんですけどね・・・」と、一緒にいた母にぐちをこぼすのを横で聞いていた。
さらに「販売期限」の手前に存在しメーカーに課せられる「納品期限」
食品業界にあるのは「販売期限」だけではない。
その、さらに手前には「納品期限」がある。これも法律ではなく、商慣習だ。
「納品期限」は、賞味期間全体を3分の1ずつ均等に分けた、製造日から数えて、最初の3分の1。メーカーは、ここまでに納品しなければならない。過ぎると、小売は納品を受け付けてくれない。「売る期間が短くなるから」だ。
「販売期限」は、納品期限の次の3分の1。製造日から数えて3分の2。ここを過ぎると、小売は、商品棚から商品を撤去する。消費者に、賞味期限が切れたものを販売しないようにというのが表向きの理由だ。
これら3分の1ルールにより、一年間に1200億円以上のロスが生じていると、かつて、流通経済研究所が発表している。
先進諸国は、日本の納品期限「3分の1」より、もっと長い。アメリカは2分の1。イタリアなどは3分の2。イギリスは4分の3。
ちなみに1年以上の賞味期間がある食品もたくさんある。ペットボトル飲料(例外もあり)や、レトルト食品、パスタやそうめんなどの乾麺、シリアル、缶詰など。缶詰に至っては3年間ある。なぜ、一律に「3分の1」なのか?
筆者が西日本の小売店の幹部に直接聞いたときには「個別対応は難しいから」という回答だった。
前述の弁当やおにぎりやサンドウィッチなどは、正確に3分の1ではない。また、企業によって、何時間前に設定されているかは、微妙に違っており、取材によれば、あるコンビニでは3時間前、別のコンビニでは2時間前という結果だった。
2012年10月から農林水産省や食品業界で食品ロス削減に向けた3分の1ルールの緩和
食品ロスを生み出す商慣習は、実は3分の1ルールだけではない。欠品NG、前日納品したものより1日たりとも古いものの納品NG(日付の逆転、日付後退品)、不当な返品、コンビニ会計、など。
3分の1ルールを緩和し、食品ロスを削減しようという動きは、2012年10月より、農林水産省、流通経済研究所、食品業界(製配販、業界団体の代表企業)がワーキングチームで取り組んできた。菓子や飲料などについては、3分の1ルールの納品期限を2分の1に延ばすことで、およそ87億円の食品ロスが削減できるという実証実験の結果を受け、大手小売業は菓子・飲料の納品期限を延長する動きを見せてきた。
2019年4月12日の、農林水産省の発表を見ると、どの小売がどのような対応をしてきたのかがリスト化されている。見てみれば、賞味期限の長い加工食品への対応がほとんどだ。デイリー食品と言われる弁当類などは対象ではない。
食品ロス量はここ数年、微増・微減のみに留まる
2019年4月16日付のニッポン消費者新聞が報じている通り、ここ数年、日本の食品ロス量は、微増・微減を繰り返しており、大きな動きはない。2011年度まではピンポイントの数値ではなく、幅表示だった。
もっとも、2019年4月12日に農林水産省と環境省が発表した推計値は平成28年度(2016年度)のもので、今やっている取り組みが、すぐに推計値に反映されるわけではない。3年ほど経って発表される数値に反映されてくるので、今の数値イコール、今やっていることの成果、というわけではない。
自然災害発生時は「販売期限」が足かせになり大量の食品廃棄が起こりうることを認識し臨機応変な対応を望む
2018年7月に発生した西日本豪雨では、道路が寸断され、トラックが運ぼうと努力するにも長時間を要し、被災地のコンビニには「販売期限」の切れる1時間前に弁当類が到着せざるを得なかった。その結果、被災地のコンビニでは、泣く泣く大量の食料を廃棄せざるを得ない結果になった。
これからも自然災害は起こりうる。おそらく、何度も繰り返し。そのたびに、律儀に「販売期限」を守るのだろうか。食料の不足する非常時くらい、せめて「消費期限」ギリギリまで販売できないか。まだ十分食べられるとわかっているのに、なぜそれを捨てるのか。
京都市と市内スーパーが消費期限・賞味期限ギリギリまで販売した結果、食品ロスが10%減った
京都市と京都市内のスーパーは、販売期限で棚から撤去せず、消費期限や賞味期限ギリギリまで売ったらどうか、という社会実験を行った。
その結果、対前年比で食品ロスが10%削減した。売り上げも5.7%上がった。売り上げ増の要因は、一つには特定できないが、店にとっても喜ばしい結果になった。
廃棄される食べ物は、われわれが店頭で目にしている食べ物だけではない。店へ納品する弁当やおにぎりなどの製造業者の工場でも、それは大量に起きているのだ。
1990年代に大手スーパーが設定した「3分の1ルール」。もうそれは「平成の遺物」とみなし、新元号の「令和」に変わる5月からは食べ物を捨てないで済む方向へ、斬新に変えてみてはどうだろうか。
店側は、消費者の苦情を、過剰に恐れて対応している部分もある。2019年4月17日からの百貨店の催事では、「パンが焦げている」という声を受け、一時期販売を取りやめるということもあった。
消費者は、たまたま商品棚に食品がないからといって、困るものでなければ店に苦情を言わず、むしろ「売り切る努力をしている店」として評価して、買い物を通して応援してあげたい。大量にあることを評価するのでなく、適量を売ることを評価する消費者が増えれば、3分の1ルールも商品棚の風景も、変わると思う。