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『食べログ』独禁法違反 巨大化し過ぎたグルメサイトの弊害と課題

山路力也フードジャーナリスト
月間1億人の利用者がある巨大グルメサイト『食べログ』(画像:食べログHP)

『食べログ』に独占禁止法違反の判決

 大手グルメサイト『食べログ』(運営:株式会社カカクコム)で、アルゴリズムを不当に変更されて評価点を下げられたとして、焼肉チェーン運営会社『韓流村』が、『株式会社カカクコム』に対して約6億3900万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は16日、3840万円の賠償を命じた。

 判決では、アルゴリズムを運営側が一方的に変更することは「優越的地位の乱用」を禁じた独占禁止法に違反すると指摘がされている。『食べログ』運営会社の『株式会社カカクコム』は、この判決を不服として同日東京高裁に控訴を提起した。

 公正取引委員会は提訴前の2020年3月に、グルメサイトにおける取引実態調査の報告書を公表しており、その報告書では掲載する店舗の採点や表示順位に関して「ルールの透明性を確保することが望ましい」との見解を示し、店に対して不当な不利益を与えた場合には「独禁法違反」となる恐れがあると指摘していたが、今回はその指摘の通りの判決が出たこととなる。

 今回の裁判で画期的だった点は2点ある。一つは『食べログ』の運用レギュレーション(アルゴリズム改変)に対して「独禁法違反」が認定されたこと。もう一つは裁判の過程において、これまで非公開であった『食べログ』のアルゴリズムが開示されたこと。また、同様のグルメサイトなどへの警鐘を含めた司法の判断がされたとも言えるだろう。

月間1億人が利用する巨大グルメサイト

もはや生活インフラの一つとなりつつある『食べログ』(画像:食べログHP)
もはや生活インフラの一つとなりつつある『食べログ』(画像:食べログHP)

 『食べログ』は2005年3月に開設されたレストラン検索、予約サイト。2020年1月現在の掲載店舗数は約82万件、口コミ投稿数は約4,110万件。月間の利用者数は1億1580万人、月間総PVは16億3,450万PVにのぼる(参考資料:株式会社カカクコム)。言うまでもなく、日本最大のグルメサイトだ。

 多くのユーザーによるレビューが集まり、ランキングをつけるスタイルは飲食店を探す上で利便性があると同時に、これまでに様々なトラブルも生んでいる。業者による「やらせ投稿」や、有力レビュワーに金銭的な報酬を与えて高評価を得たり、店側が掲載を望まないにもかかわらず掲載されたとして訴訟が起きたりと、その公平性などに対して何度も問題が生じており、それに対して『食べログ』が運用の見直しやルール改定をしてきた経緯がある。

 『食べログ』は言うまでもなく、民間企業による営利目的のサービスだ。『食べログ』の収益源となるのは、「店舗有料掲載費」「予約送客手数料」「ユーザー月額課金」「広告」の4つ。その中で主力となっているのは「食べログPR」と呼ばれる店舗向けの有料サービスで、月額1万円から10万円まで4つのプランがある。

 さらに予約送客時には客1人あたりランチで100円、ディナーで200円の手数料を得る。ユーザー月額課金は、月額315円でクーポンなども得られる「食べログ プレミアムサービス」と呼ばれるサービス。これらを合わせた2021年度第3四半期累計の売上収益は126億2600万円となっている(参考資料:株式会社カカクコム 2022年3月期第3四半期決算説明資料)。

飲食店からサービス利用料を得ているサイト

2007年から始まった年間表彰制度は、毎年注目を集めている(画像:食べログHP)
2007年から始まった年間表彰制度は、毎年注目を集めている(画像:食べログHP)

 上述したように、『食べログ』は飲食店から掲載費を得て掲載してサイトを構成するグルメ情報サイトである。その点においては『ぐるなび』『HOT PEPPER グルメ』などの他社サイトと変わらない。異なる点はユーザーのレビューと採点から生じる「ランキング」のウェイトが占める大きさにある。

 『食べログ』に掲載されている80万件以上の店舗に対して、4,000万件以上のレビューと点数が掲載されており、そこから生まれる「評価」(点数、ランキング)が、ユーザーにとって飲食店を選ぶ指針になっている現状がある。この膨大なデータベースは貴重な「集合知」「情報源」であることは間違いないが、そのランキングの対象となる飲食店の中に、掲載費を得ている「クライアント」が混在していることが些かややこしい。

 掲載店の多くは『食べログ』とは掲載契約を結んでおらず、いわば「勝手に掲載」され「勝手に評価」されている。全ての掲載店がそうであれば、ある種の公平性は担保されているが、『食べログ』はあくまでも飲食店から掲載費を得て成立するサイトであり、掲載費を支払えば、店舗ページに大きな写真や細かな紹介文を掲載出来たり、検索結果で上位に掲載されるようになる。

有料会員店舗と非会員店舗の混在が混乱を招く

有料会員の店が点数やランキングで優遇されることはない(画像:食べログHP)
有料会員の店が点数やランキングで優遇されることはない(画像:食べログHP)

 当然『食べログ』としても、有料会員店舗と非会員店舗が検索結果で混在しないように、検索結果タブにおいて「標準(PR店舗優先順)」というアナウンスを出しているが、店舗個別ページにはPR店舗である表記はされていない。PR店舗はデザインが若干異なったり、予約機能などもついているため、しっかりと見れば見分けはつくが、ユーザーからすれば分かりづらい部分がある。

 『食べログ』は点数、ランキングとの関連性について「ユーザーから投稿された主観的な評価・口コミをもとに算出した点数によるものであり、店舗会員向けサービスの利用有無が点数やランキングに影響することは一切ありません」とアナウンスしているが、一民間企業による営利目的のサービスであるのだから、本来であれば有料会員にとって優遇措置があっても良いはずだ。

 しかし『食べログ』は、点数とランキングに対してはあくまでも有料会員店舗と非会員店舗を同列に扱っている。月間利用者数が1億人以上と巨大になり、その点数やランキングが店舗の集客に対して強い影響力を持ってしまったため、営利目的のサービスであるはずの『食べログ』が、社会の「インフラ」のような存在になってしまった。

 そのため、一グルメサイトの点数やランキングの「アルゴリズム」改変が、「優越的地位の乱用」による独占禁止法違反と判断されてしまった。本来、企業秘密であるはずの部分が裁判上で開示されたのも、その影響力の大きさを物語っている。

 飲食店には効果的に集客が出来るツールとして、利用客は自分好みの店を見つけるツールとして、『食べログ』は飲食店にとっても、利用客にとっても有益なサービスであることは間違いない。だからこそ短期間でこれほどまで大きなグルメサイトに成長したのだろう。一民間企業の営利事業と、社会的インフラ機能の両立。巨大化し過ぎてしまったグルメサイトが、この問題を今後どう解決していくか注目していきたい。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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