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相次ぐ食品の産地偽装 熊本のアサリ産地偽装はなぜ起こってしまったのか?

山路力也フードジャーナリスト
収穫量と流通量があまりにも乖離している国産アサリの現状。(写真:アフロ)

熊本県産のアサリの8割が中国産?

 昨年より食品の不当な産地表示の問題が相次いでいる。2021年12月にはあん製造メーカーが、カナダ産9割及び北海道産1割の小豆を原料として使用していたにもかかわらず、商品表面に「北海道産小豆100%使用」と事実と異なる表示をして販売し、農林水産省より再発防止の指示が出された。また、中国産ウナギを国産と偽り販売しているケースが、2021年12月に岐阜県、2022年1月には奈良県で発覚している。

 そして今回はアサリである。金子原二郎農林水産相は2月1日の閣議後記者会見で、熊本県産アサリで産地偽装の疑いが判明したと明らかにした。複数県の小売店で実態調査したところ、年間漁獲量を大幅に上回る量が販売され、科学分析した結果「調査で買い上げたアサリのほとんどに外国産アサリが混入している可能性が高い」と認定した。

 農林水産省の調査によると、昨年10~12月に全国のスーパーなどで販売されたアサリの8割が熊本県産として売られていたと推定。調査期間3か月における推計販売量は2485トンと、2020年の熊本県の漁獲量21トンの実に約120倍にも上った。漁業関係者によれば、この悪しき習慣は数十年前から続いていたという。

「長いところルール」の悪用か

 「食品表示法」において水産物の原産地については、国産品の場合は「水域」または「地域名」を表示し、輸入品の場合は「原産国名」を表示することになっている。また2か所以上の養殖場で養殖した場合は、最も養殖期間が長い養殖場が属する都道府県を原産地として表示するということになっている。これは水産物の多くが育成環境が重要とされているためで、いわゆる「長いところルール」と呼ばれている。

 貝類の場合、輸入された貝類を出荷されるまで保管する「蓄養」という作業がある。輸入後の「立て込み」(長時間輸送で弱ったアサリを回復させる)や出荷調整のために国内で一時的に浜に置くということになるが、この場合貝類の原産地は輸出国が産地となる。一時的に輸入したアサリを浜に放流しただけで、産地が国産となるわけではない。逆に中国産のアサリであっても、熊本で育った期間が中国よりも長ければ「熊本県産」と表記することが出来る。

 今回の場合は蓄養期間が短かったアサリを熊本県産として出荷しただけではなく、そもそも熊本すら経由せずにラベルだけを貼り替えたケースもあるというから悪質極まりない。さらにその販売量から考えても一業者だけの偽装とは考えにくく、不特定多数の業者において恒常的に偽装が行われていたと考えるのが自然だろう。

アサリ以外の熊本県産食材への風評被害も

消費者は食の安全を求めている。
消費者は食の安全を求めている。写真:イメージマート

 昨今、消費者の多くは食の安全に対して意識が高く、アサリに限らず国産品を求める傾向にある。中国産アサリに至っては、過去に何度も除草剤「プロメトリン」が検出される事例が起こっている。中国の養殖場では藻の繁殖防止のため除草剤を海に撒く工程があるのだという。

 今回の事件によって、アサリ以外の熊本県産食材に対しての風評被害が起こっている。熊本から出荷したハマグリが大量に返品されたり、有明海産のシバエビの取引価格も下落するなど、その被害の範囲は甚大だ。

 これに対して、蒲島郁夫熊本県知事は刑事告訴も視野に入れた厳しい対応を明言。農林水産省と消費者庁に対して産地偽装対策の緊急要望を行うと発表した。また、熊本県漁連は2月8日からおよそ2か月間、県内の37漁協に対しアサリ捕獲禁止の通達を出した。

トレーサビリティの早期導入と産地表示のルール変更を

 今後このようなことが起こらないために、まずは原産地や生育地を含む流通の可視化が重要だ。その手段の一つとして「トレーサビリティシステム」の導入が考えられる。「トレーサビリティシステム」とは生産履歴や流通、加工履歴などを確認出来る仕組みで、農作物や畜肉などでは導入が進んでいるが、水産物のトレーサビリティに関しては、現在一部のブランド魚や養殖魚および貝毒による被害回避のために独自に行われているものの、法的義務もなく導入が進んでいないのが現状だ。

 魚と違って二枚貝は個体の移動が少なく、本来は原産地で生育されていくものだが、稚貝を移動して別の場所で養殖されるマガキやホタテなどでは、トレーサビリティシステム構築におけるガイドラインが策定されている。養殖によって生育されるマガキやホタテと違って、アサリは基本的には天然であるが、同様に生育環境や流通経路をしっかりとトレースする必要があるだろう。そもそも、中国産のアサリも全てが中国産とは限らない。中にはロシアや北朝鮮で採取されたアサリが、三角貿易によって中国産として流通しているケースもあるのだ。

 また、現行の産地表示のルールも分かりやすく変更すべきだろう。やはり中国産のアサリが熊本で長く置かれていたら熊本産になるというのは、消費者感覚からすればかなり違和感がある。しかしながら、貝類は大量の水を吸収してその中に漂うプランクトンを濾過し吸収するため、生息する水域の環境が大事であり、原産地よりも生育地がどこであるかも食の安全性を高める上では重要な観点だ。そうなると「原産地」「育成地」の併記が一番分かりやすい。それと同時に、トレースを含めたこれらの作業には、様々なコストがかかることも考慮に入れなければならない。

 今回のアサリ産地偽装問題は、ある意味で構造的に起こり得る問題であったと言えなくもない。消費者は見た目だけで産地を識別することは不可能に近く、そのためにも確実で分かりやすい仕組みが求められる。また、この問題は消費者のある種「盲信的な国産品至上主義」が生み出したと言えなくもない。国産であっても杜撰な環境で生育されたものもあるし、外国産であっても安心安全なものもある。そのためにも採取生育環境や加工環境などをしっかりと可視化することが、消費者の意識を高める上でも、真面目に取り組んでいる生産者を守る上でも重要なのだ。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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