専門化と細分化の時代へ 進化する「ファミレス」の姿とは?
1970年代に生まれた「ファミレス」
日本国内におけるファミリーレストランの数はおよそ7,000店舗。『すかいらーく』『デニーズ』『ロイヤルホスト』など、誰もが一度は足を運んだことがあるだろう。日本にファミリーレストランが誕生したのは1970年のこと。ファミリーレストランの誕生によって、日本における本格的な外食産業時代が始まったと言っても良いだろう。
ファミリーレストランとは、その名の通り子供連れの家族でも楽しめるレストランのこと。1969年、横浜に創業した日本初の郊外型レストラン『ハングリータイガー』や、1970年に創業した日本初のファミリーレストラン『すかいらーく』などが参考にしたのが、車社会アメリカのロードサイド型のコーヒーショップ。日本の本格的なモータリゼーション時代を予見してのことだった。
家族という単位が緩やかな時代へ
ハンバーグやカレーなどの洋食から、天丼やうどん蕎麦などの和食、ラーメンや餃子などの中華まで、草創期のファミリーレストランのメニューは家族の皆が好きなものを頼めるように何でも揃っていた。それはかつてデパートの最上階で人気を集めていた「お好み食堂」に通じるものがあった。戦後高度成長期の日本において、家族が日曜日に揃って出かける場所と言えばデパートだった。
デパートは衣料品から食料品まで何でも揃う「百貨店」。かつては全国の主要都市には必ずあったデパートだが、近年では地方のみならず都内でも閉店が相次いでいる。中でも大正時代から続いた『松坂屋 銀座店』が2013年に閉店し、2017年再開発によって『GINZA SIX』となったのは記憶に新しい。
デパートにしてもお好み食堂にしても、一箇所で全てが揃うことが戦後の日本においては必要だった。それは家族単位による行動が基本だったからだ。しかし時代は変わり、家族という単位は緩やかなものになった。かつて「お茶の間」と言われた空間はなくなり、家族皆で一つのテレビを観ていた時代は終わり、各自が自分のテレビやスマートフォンなどで好きなものを観る時代になった。
街にはデパートの代わりに専門店が立ち並び、何でも食べられるお好み食堂や街の食堂ではなく、イタリアンやラーメン店などの専門店が好まれるようになった。それは家族単位での行動が少なくなった現代において自然な流れであり、必然的にファミリーレストランの存在意義も問われる時代となったのだ。
ファミレスの専門店化や細分化が加速している
今、ファミリーレストランの業界では「専門店化」「細分化」が急速に進みつつある。1968年に一軒のイタリア料理店として創業した『サイゼリヤ』は、国内に1,000店舗以上展開する業界2番手のナショナルレストランチェーンだが、イタリアンに特化した専門店として人気を集めている。
同じく1968年にハンバーガー店として創業した『びっくりドンキー』も「ハンバーグレストラン」を看板に掲げて、ハンバーグと野菜をパンで挟むハンバーガーを参考に、ハンバーグとサラダ、ご飯をワンディッシュで盛り付けるプレートを考案して人気を博している。
他にもゆであげ生パスタに特化した『ポポラマーマ』や、和風スパゲッティを提供する『洋麺屋 五右衛門』、焼き立てパンを提供するベーカリーレストラン『サンマルク』など、洋食から中華、和食まで何でも揃うオールドスタイルのファミリーレストランの時代から、専門性の高い業態のファミリーレストランの時代へと変化した。家族連れ客に人気の回転寿司なども、寿司に特化したファミリーレストランと捉えて良いだろう。
いち早く専門店化に着手した『すかいらーく』
オールドスタイルのファミリーレストランも、ただ手をこまねいていたわけではない。中でもいち早く専門店化へ舵を切ったのが、国内3,000店舗を有する業界最大手の『すかいらーく』だ。
1970年に日本初のファミリーレストランを開業し、多店舗展開をスタート。1980年代には早くもコーヒーショップとしての位置づけで『ジョナサン』を開業し、さらに中華料理専門のファミリーレストラン『バーミヤン』や、和食専門のファミリーレストラン『藍屋』『夢庵』などを次々と展開するなど、ファミリーレストランの専門店化をいち早く行ってきた会社でもある。
そして『すかいらーく』は既存店舗のリブランディングなどを積極的に行い、新たなブランドを投入して店舗に新しい価値観を与えているのが印象的だ。古くは主要ブランドの『すかいらーく』を低価格帯のファミリーレストラン『ガスト』にブランドチェンジし、国内で初めて単一ブランドで1,000店舗超えを達成した。
『ガスト』こそ、今でも料理のジャンルにとらわれないスタイルのファミリーレストランとして人気だが、近年ではパンケーキとコーヒーに特化した『むさしの森珈琲』や、ステーキとハンバーグの専門店『ステーキガスト』、さらにはハワイアンダイニングとして『La Ohana』を立ち上げるなど、時代の変化をキャッチして次々と料理のジャンルを細分化した専門店としてのファミリーレストランを積極的に展開している。
時代によって文化は変わる。飽食の時代と呼ばれて久しい昨今、消費者の食の選択肢も飛躍的に増えた。かつてはどんな街にもあった食堂などがファミリーレストランの登場によってなくなっていったように、ファミリーレストランもまた時代の変化によってその役割を終えようとしつつある。しかしながら、気軽に手軽に外食を楽しむというニーズは変わらずある中で、ファミリーレストランはより細分化、専門店化をしながら生き残りを探っていく。
※写真は筆者によるものです。
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