この夏に食べておきたいフランス料理5店はどこ? その理由と料理人のこだわり
夏でも食べたいフランス料理
気象庁が発表した2019年夏の予報によれば、沖縄を除いた地域では、気温がほぼ平年並みということです。
ただ、平年並みといっても、日本の夏は厳しいものがあり、食欲もかなり減退する人が多いのではないでしょうか。
世界三大料理のひとつであり、美食といえば、フランス料理が筆頭に挙げられますが、濃厚なソースで重たいと思われているので夏は敬遠されがちです。
しかし、そういった重厚な料理というイメージを覆して、夏でも食べに行きたくなるフランス料理もあるのです。
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夏でも食べたくなるフランス料理はどういったものなのか、その背景や料理人のこだわりと共に詳しく紹介していきます。
Sonore(ソノール)
星野リゾートといえば、どういったイメージを持っているでしょうか。
「星のや」「界」「リゾナーレ」といった多くのファンに支持され、メディアにも注目される宿泊施設を展開しており、代表の星野佳路氏にカリスマ性があるといったイメージを持っているかと思います。
1914年に長野県軽井沢で最初の旅館を開業してから、2019年で105年目を迎えますが、2017年に「星のやバリ」を開業、その後に新ブランド「OMO」や、20~30代のための滞在型ホテル「BEB5 軽井沢」を展開し、2019年6月30日には「星のやグーグァン」が開業するなど、ますますその勢いは増すばかりです。
リゾートホテルといえば、そのロケーションはもちろんのこと、施設のコンセプトや雰囲気、サービスやアクティビティがゲストを満足させるので、どちらかといえば、美食やガストロノミーにはあまり力を入れなくても影響はありませんでした。
しかし、ここにきて少し風向きが変わったように思います。
その理由は、2019年7月10日に、星野リゾートが展開する青森県十和田市の「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」が、宿泊客限定の本格的なフレンチレストラン「Sonore(ソノール)」をオープンするからです。
コース内容
奥入瀬渓流は十和田八幡平国立公園に属し、特別名勝かつ天然記念物に指定されるほどの景観美を誇る日本屈指の景勝地。その奥入瀬渓流沿いに建つ唯一のリゾートホテルが「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」です。
「Sonore」の特徴は、渓流を望むテラスで楽しむアペロ(食前酒と酒肴を楽しむこと)からスタートし、現代的なフランス料理と銘醸ワインを味わえることでしょう。
アペロは渓流沿いで楽しみますが、コース料理は屋内のダイニングで提供されるので、転卓による雰囲気の変化も楽しめます。ダイニングエリアは、奥入瀬渓流の自然をイメージし、岩や木をモチーフにした内装となっているので、全体的に統一感があるといってよいでしょう。
夏の時期には以下のコースが提供されています。
ディナーコース
- 鮪のオペラ仕立て 帆立貝のイカのムース
- フォアグラのポワレと林檎のロースト シードルソース
- 姫鱒のムニエル 山菜のバリグール風
- 仔鳩と鮑のトゥルト 鮑の肝のサルミソース
- ショコラの軽いムース 黒にんにくとプラムのコンポート
- パンペルデュと林檎のセジール 胡桃のラメル
※仕入れ状況により、提供内容が異なる
ポワレやムニエルなど伝統的なフランス料理の調理法を使いながら、素材を生かした料理を生み出しているといってよいでしょう。
この「Sonore」で料理長を務めているのは斉藤春樹氏。東京で修業後、フランスとスペインの星付きレストランで勤務した後、東京やフランスでシェフを務めた経歴の持ち主です。2012年に星野リゾートに入社し、星のや竹富島などでレストラン運営に携わり、2019年4月に「Sonore」料理長に就任しました。
注目料理
注目料理を挙げていきましょう。
「鮪のオペラ仕立て 帆立貝のイカのムース」は青森の海鮮を折り重ねたガトーオペラ仕立て。
下からホタテ貝とイカのムース、生のりのペースト、隠し味にまぐろの魚醤を使ったマグロのタルタルの3層になっており、手が込んでいます。魚介のコンソメにマグロ節で香りをつけたジュレとともに味の変化を楽しむことができるので、夏にぴったりの前菜です。
「フォアグラのポワレと林檎のロースト シードルソース」はフォアグラとのポワレと青森県で有名な姫りんごを合わせた一皿。
奥の姫りんごはクルミ、松の実、カレンツなどと一緒に蒸し焼きにし、上にはシナモンのチュイールを飾ったシンプルなフォアグラを添えています。
青森名産の南部せんべいをパウダーにし、パリパリとした食感のフォアグラポワレを添え、小気味よいテクスチャが感じられるので食が進むことでしょう。
背景
「Sonore」では斉藤氏がこれぞと自信をもつコース1種類だけが提供されています。
東京のファインダイニングでは決して珍しいことではありませんが、リゾートホテルでここまで思い切るのは珍しいことです。これは美食を追求しようとする斉藤氏の気持ちの現れであるといってよいでしょう。
では、美食を追い求める斉藤氏にとって、夏のフレンチにはどのような思い入れがあるのでしょうか。
斉藤氏は「夏といえば、冷製スープをアミューズや前菜で提供していた。素材の持ち味を生かしたシンプルな調理法で、夏に合うさっぱりとした味のガスパチョやトウモロコシの冷製スープをよく作った」と答え、「青森県には甘味があって食味に優れた『嶽きみ』というトウモロコシがある。これを用いてスープなどを作るのが楽しみだ」と展望を述べます。
これから
「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」は、豊かな自然の美しさで心を癒やし、寛いでもらえるようにと「渓流スローライフ」をコンセプトに掲げています。
「Sonore」とはフランス語で「朗々と響かせて」という意味の音楽用語であり、渓流の瀬音や品格ある料理、希少なワインが心身に朗々と響き渡るという意味が込められているのです。
渓流の音を聞きながらアペロを楽しみ、ダイニングへと転卓して今度はもっとリラックスして本格的なフランス料理とワインを楽しむのは、まさに「渓流スローライフ」に相応しい体験であるといってよいでしょう。
リゾートホテルである「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」で、これからどのようなガストロノミーが紡がれていくのか、オープンしたこの夏から注目したいです。
フレンチごはん 西麻布GINA(ジーナ)
箸は非常に便利なテーブルウェアです。つまんだり、挟んだり、運んだり、切ったり、割いたり、すくったりと多くの機能を有しています。
フランス料理はナイフとフォークを使わなければならないから苦手だという人は少なくありません。そういった方でも肩肘張らずに本格的なフランス料理を楽しめるのが「お箸で食べるフレンチごはん」をコンセプトにした「フレンチごはん 西麻布GINA(ジーナ)」です。
旬の和食材や出汁を素材として、フレンチの技法で調理しており、箸で食べやすい料理を提供しています。
四季を感じる食材を贅沢に使った「シェフのおまかせコース」はもちろんのこと、21時からは「大人のお好みアラカルト」タイムとしてアラカルトメニューを提供しており、料理とワインを気軽に楽しめます。
そしてこの「フレンチごはん 西麻布GINA」では、初夏でも食べたくなるような、瑞々しい野菜と華やかな見た目で食欲をかき立てられる「美しいサラダ」を含んだコースが提供されているのです。
コース内容
この夏のコース内容はこちら。
シェフのおまかせコース
- 魚介のパナッシェ 旨味トマトジュレ 蓮の葉を器にして
- 美しいサラダ ~花火をイメージして~
- 鮎のデクリネゾン
- 伊佐木の炭火焼き 青柚子薫るマリニエールソース
- 佐賀牛ランプ肉のグリル クミンとココナッツのソース
- TKR
※メニューは変更になることがある
※「美しいサラダ」を希望する場合には予約時に伝える必要あり
シェフの末棟孝氏は都内レストランとホテル「ミラコスタ」でフレンチの研鑽を積み、2015年12月にシェフに就任しました。フレンチに和の技法を取り入れて、箸で気軽に食べられる料理を生み出しています。
注目料理
特に注目したいメニューといえばやはり、「フレンチごはん 西麻布GINA」のスペシャリテでもある「美しいサラダ」。夏ということで「花火をイメージして」を副題とし、約20種類もの野菜で夜空に舞う花火を描いた一皿に仕上げています。
野菜ごとに茹で時間や味付けを最適化しており、夏野菜それぞれの個性を最大限に活かしていることが最大の特徴です。健康的でおいしく、見た目にも美しい芸術的な夏の風物詩であるといってよいでしょう。
「佐賀牛ランプ肉のグリル クミンとココナッツのソース」は、グリルしてあるので非常に香ばしく、夏らしいスパイシーなソースを合わせています。ココナッツミルクを入れてマイルドにし、クミンを加えて少しエスニックなニュアンスを漂わせています。
背景
昨年の夏メニューとの違いは何でしょうか。
末棟氏は「調理法として、炭火焼きを肉と魚料理に用いている。今年は備長炭を使用し、より炭の香りをまとわせ、かつ、肉と魚にストレスをかけず火を入れているので、しっとりジューシーな味わいを楽しめる」と答えます。
夏ならではの工夫として「暑い中お越しくださるゲストのために、1品目はほんの少し塩を効かせ、見た目にも涼しさを表現した一皿をご用意している。店内で暑さが少し和らいだ頃、3皿目にはホッとする温前菜をご提供している」と説明します。
夏の思い出について尋ねると「夏休み期間中には、東京へ旅行している地方の方にもたくさんお越しいただき、郷土料理や食材について教えていただいた。そこからインスピレーションを受けて作り出した料理もあり、例えば沖縄のソーキそばをフレンチ風に解釈した料理を提供したこともあった」とゲストからの刺激を挙げます。
これから
「フレンチごはん 西麻布GINA」は箸で肩肘張らずに食べられることをコンセプトにしており、ヘルシーで目を引く「美しいサラダ」やトリュフかけリゾットこと「TKR」など、他では見かけられないシグネチャーディッシュを体験できます。
暖炉を備え、二重扉となっている完全防音の個室は接待や記念日に便利であったり、余裕のあるカウンター席は一人でふらりと気軽に利用しやすかったりと、西麻布の隠れ家フレンチらしい要素を持ち合わせています。
軽やかなフレンチがもてはやされるようになってから久しいですが、「美しいサラダ」のように、ここまで見た目にこだわり、たっぷりと野菜を使った一皿はなかなかありません。
今は花火をイメージした「美しいサラダ」が提供されていますが、次はどのような「美しいサラダ」が創り出されるのか、今夏が終わる前から来年の夏が楽しみです。
エスコフィエ
現代フランス料理の礎を築いたのは、フランス料理の皇帝と称されたオーギュスト・エスコフィエといって間違いないでしょう。
その偉人の名を冠した「エスコフィエ・フランス料理コンクール」は「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」および「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」と共に、日本では三大フランス料理コンクールとして知られています。
実はこのオーギュスト・エスコフィエにゆかりの深いレストランがあるのです。
それは、オーギュスト・エスコフィエの調理法を忠実に守り、長きに渡って多くのゲストに愛されてきた、1950年創業の銀座「エスコフィエ」です。
創業者の師匠がサリー・ワイル氏、サリー・ワイル氏の師匠がエスコフィエ氏であることから「エスコフィエ」と命名され、30年以上前にエスコフィエ氏の曾孫が来店して食事した際に許諾を得たといいます。
「エスコフィエ」には長い歴史があり、伝統的な本格フランス料理を提供していますが、今年は夏に相応しいヘルシーなコースを提供しているのです。
コース内容
そのヘルシーなコースとは、2019年6月10日から7月31日(予定)のランチタイムに1日限定10食で提供されている「抗酸化野菜×発酵ランチコース」です。
野菜ソムリエ第一号であり、株式会社銀座エスコフィエ代表取締役を務めるKAORU氏が監修し、キッコーマンこころダイニングとコラボレーションした料理を楽しめます。
<発酵食品で夏も元気>(yomiDr)にも紹介されているように、発酵によって食材の栄養がより豊富になったり、発酵食品に夏バテや熱中症の予防に効果ある成分が入っていたりするので、発酵ランチは夏に相応しいといえるでしょう。
コース内容は次の通りです。
抗酸化野菜×発酵ランチコース
- 帆立貝と鮮魚のマリネ サラダ仕立て バルサミコとしょうゆもろみのヴィネグレットソース
- 真鯛のムニエル もろみ花椒風味 季節の抗酸化野菜とサクサクしょうゆアーモンドのバターソース
- 鴨のロティ 白ごまもろみとオレンジのソース 香り豊かなヤングコーンを添えて
- しょうゆの実シフォンケーキ(シェフの特製デザートは日替わり)
- パン
- カフェ
料理はどれも王道のフランス料理ですが、「しょうゆもろみ」などの発酵調味料が使われており、発酵が自然に取り入れられています。
注目料理
料理長を務めるのは東正俊氏。霞ヶ関レストラン「キャッスル」で荒田勇作氏からフランス料理のいろはを学び、都内数店で修行を重ねてきました。1998年に銀座「エスコフィエ」の支店レストランである「カーヴ・エスコフィエ」の料理長となり、2015年から銀座「エスコフィエ」料理長を務めています。
特にこだわりのメニューに関しては「抗酸化ランチらしい彩りが美しいのは前菜。緑や赤、黄、オレンジなど色合いの重なりを楽しんでいただける」と答えます。
「真鯛のムニエルはパリッと焼いた皮とアーモンドのカリカリの食感、パリパリとカリカリのふたつの音を同時に楽しみながらいただける音のコラボレーションでもある」と、テクスチャにもこだわったといいます。
「フレンチの定番でもある鴨に、今でしか味わえない皮とひげ付きのヤングコーンを添えることで、豊かな大地と生産者の方へ思いを馳せることができる。色、音、食材のストーリーなど、様々な楽しみを盛り込んだ特別なコース」と自信をみせます。
背景
「抗酸化野菜×発酵ランチコース」が始まったきっかけに関して、代表を務めるKAORU氏は「野菜ジャーナリストとして食文化を次世代へ継承することに心血を注いでいる。従来の伝統的なフレンチの形を守りつつ、アンチエイジングや健康に気をつける中で、抗酸化ランチが2019年3月にスタートした」と説明します。
ランチ限定であることに関しては「若い世代に親しみを持ってもらうため、手頃な値段で始めた。近隣のオフィスワーカーや銀座にお越しいただいた女性をターゲットにしているため、ランチタイム限定にしている」と理由を述べます。
これから
発酵と抗酸化をコンセプトにしたフランス料理のコースとは非常に珍しいものです。銀座「エスコフィエ」という老舗であれば、なおのことでしょう。
老舗ながらの縛りがある中で、こういった女性のための企画が持ち上がるのも、第一号の野菜ソムリエとなり、健康と美を研究しているKAORU氏ならではの発想ではないでしょうか。
最近では若い方のフレンチ離れが進んでいるといいますが、発酵や抗酸化を取り入れたフレンチは若い女性にも興味をもたれるはずなので、引き続き期待したいです。
アムール
「唯一無二を求め、誠実な冒険心で挑戦し続けるジャパニーズフレンチ」を理念に掲げ、日本のフランス料理を表現することにこだわった一軒家レストランがあります。
それは、食材のほとんどを日本産にこだわり、四季折々の日本の食材を使用している恵比寿の「アムール」です。
「アムール」は「ミシュランガイド東京 2019」で7年連続1つ星として掲載されている実力派のフランス料理店。
エグゼクティブシェフを務める後藤祐輔氏はフランス料理人である父親の影響で、幼少期よりフランスを身近に感じ、多くのレストランを巡っているうちに、自身も人々に感動を与える料理を作りたいと思うようになったという生粋の料理人です。
ミシュランガイド3つ星であったストラスブール「オ・クロコディル」で修行した後に帰国し、銀座「レカン」で十時亨氏に4年間師事してから、再度フランスへと渡りました。星付きレストランで研鑽を積んでから日本へと戻り、ミシュランガイド3つ星に輝く「カンテサンス」、宇都宮「オトワレストラン」といった名店で腕を磨きました。
そして2012年にオープンした「アムール」(当初は西麻布、2016年から現在の恵比寿へ移転)でエグゼクティブシェフに就任し、僅か半年でミシュランガイド1つ星として掲載されたという実績を誇ります。
この後藤氏による日本の夏を存分に感じられる料理が楽しめるのです。
コース内容
メニューには開業当初から食材しか記載されておらず、後藤氏のインスピレーションからコースが組み立てられています。
初夏2019
- そら豆の収穫
- じゅん菜・栄螺・ういきょう
- 穴子・加賀太きゅうり・有明海苔
- とうもろこし・炙り雲丹
- 燻製卵・ダチョウ
- 鮎
- 甘鯛・海老・豆
- 若桜鹿・森の木の実
- メロン・新生姜
- マンゴー・パッション・ココナッツ
- 余韻
ソラマメ、ジュンサイ、サザエ、アナゴ、海苔、ウニ、アユなど、食材だけを見てみれば、日本料理のように思えます。
しかし、ジャパニーズフレンチをコンセプトにしているだけあって、日本の食材をふんだんに用いながらも、しっかりとしたフランス料理を紡ぎ出しているのです。
注目料理
特に注目したい料理を紹介します。
「穴子・加賀太きゅうり・有明海苔」は縦長の陶器の上に米粉のクレープが敷かれ、その上に江戸前アナゴの炭火焼き、加賀太キュウリのピクルス、有明海苔が載せられています。これを自分で巻いて食べるというアクションによって、旬の食材をより肌身で感じられるという穴子巻です。
「燻製卵・ダチョウ」は鹿児島県産のダチョウのタルタルに、ホワイトアスパラガスの炭火焼き、黒トリュフのスライスという面白い取り合わせ。燻製した鶏卵をかけて味わいがまろやかになりますが、忍ばされた野ワサビでピリリとしたアクセントがあり、メリハリが感じられます。
「鮎」は、アユを骨も肝もまるごと使ったスープで非常に濃厚。稚アユはフリットにして、緑が美しい大葉クリームの上に。日本における夏の先駆けであるアユを、モダンフレンチのデクリネゾンで表現した一品です。
「若桜鹿・森の木の実」は食味に定評のある鳥取県の若桜鹿のロースを藁焼きにしてからロースト。鹿肉と相性のよいソース・ポワブラードを合わせ、旬のアスパラソバージュを添えています。森の木の実であるクルミ、ブルーベリー、マルベリーはコンフィチュール状にして、変化を楽しめるようになっています。
背景
後藤氏のインスピレーションから紡がれた素晴らしい料理が提供されていますが、やはりこだわっているのは、アナゴやアユといった日本ならではの夏の食材を使用していることです。
昨年の夏メニューと比べて何が違うか尋ねると「毎年ブラッシュアップしているが、今年はより産地にこだわり、自分自身で足を運んで探し求めた食材を使用している」と後藤氏は答えます。
工夫していることについては「暑い季節は、重たいイメージのあるフレンチは敬遠されがちだが、軽やかに活力がわいてくるような料理を目指している」と述べます。
これから
後藤氏にとって夏の思い出は「フランス・プロヴァンス地方で働いていたレストラン『クリスチャンエティエンヌ』が印象に残っている。真夏の太陽の恵みをふんだんに取り入れた食材の軽やかで気持ちの良いフレンチであった」と修行時代を振り返ります。
フランスの名だたるレストランで研鑽を積んできた後藤氏が、ジャパニーズフレンチを標榜することによって、日本の食材の素晴らしさが国内外に向けて改めて認識されることは間違いありません。
「アムール」で体験できる夏の軽快なジャパニーズフレンチに注目です。
ピエール・ガニェール
存命するミシュランガイド3つ星シェフを挙げろといわれたら、多くの食通がピエール・ガニェール氏の名を声に出すのではないでしょうか。
ガニェール氏は「厨房のピカソ」の異名をとる料理人であり、最新の「ミシュランガイド フランス 2019」でも3つ星として掲載されています。世界9カ国で23店舗を展開し、世界各地の食通たちから評価を得ているのです。
そのピエール・ガニェール氏がプロデュースする日本で唯一のレストランといえば、ANAインターコンチネンタルホテル東京36階にある「ピエール・ガニェール」。ガニェール氏のもとで16年師事し、氏から絶大な信頼を寄せられる赤坂洋介氏がエグゼクティブシェフを務めており、2010年のオープンからずっとミシュランガイドで2つ星を獲得しています。
そして、例年同様に2019年も、6月5日から9月1日にかけて「オマール・ブルー特別コース」が提供されているのです。
フランス・ブルターニュ産のオマールブルーは、夏の最高級食材としてフランスの食通に愛されており、その素晴らしい食味を求めて多くの人がレストランに訪れます。
コース内容
日本でオマールブルー尽くしのコースを食べられるレストランはなかなかありませんが、そのコース内容は以下の通りです。
オマール・ブルー特別コース
- オマールブルー / アオリ烏賊 / 枝豆 オイスターリーフとオシェトラキャビアと共に
- ティミット胡椒の香るオマールブルーのメダイヨン ミュスカワインとライムのジュレ 白桃とロケットサラダの新芽
- オマールブルーをファルスした花ズッキーニのクリスティアン ピキオスのコンディモンとエゴマ
- オーストラリア産黒トリュフの香るオマールブルーのムースリーヌ カリフラワーのグラタンと共に
- オマールブルーのグリエ 赤ビーツ風味 インゲン豆 / ミニ人参 / チェリートマトと共に
- 生姜の香る赤ポルト酒を絡めたオマールブルーのポワレ ジロール茸のフリカッセとリドヴォー
- ピエール・ガニェール特選デザート
最初のアミューズ・ブーシュから冷前菜、温前菜、メインディッシュもオマールブルーが用いられており、まさにオマールブルーを堪能できるコースになっているといってよいでしょう。
注目料理
どの料理にもオマールブルーが使われていますが、特に注目したいものを紹介します。
「 オマールブルー / アオリ烏賊 / 枝豆 オイスターリーフとオシェトラキャビアと共に」はふんだんな海の幸をカクテルグラスで提供した潮が香る前菜。
「オマールブルーをファルスした花ズッキーニのクリスティアン ピキオスのコンディモンとエゴマ」は旬の花ズッキーニにオマールブルーのツメの身を合わせてベニエにした、想像力に富んだ一品です。
「オーストラリア産黒トリュフの香るオマールブルーのムースリーヌ カリフラワーのグラタンと共に」はオマールブルーのなめらかなムースリーヌの味わいが黒トリュフの芳醇な香りとよく合っています。
「 オマールブルーのグリエ 赤ビーツ風味 インゲン豆 / ミニ人参 / チェリートマトと共に」はグリルしてあるのでオマールブルーの香りが広がり、甘味のあるビーツのソースとの相性は抜群によいです。
メインディッシュに相当する「生姜の香る赤ポルト酒を絡めたオマールブルーのポワレ ジロール茸のフリカッセとリドヴォー」はふっくらと仕上げており、仔牛のリドヴォーの脂によって力強さも加わっています。
背景
こだわりのメニューについて尋ねると赤坂氏は「オマールブルーをテーマにして、全体の流れを重視して作り上げているので、どれか一品を挙げるのは難しい。フレッシュ感から始まり、徐々に濃厚な味へと変化していくので、全てにこだわっている」と自信をもって答えます。
昨年の夏メニューとの違いに関しては「フレッシュ感とスパイス使いなど、メリハリあるパンチをより意識した。ひとつのコースでオマールブルーを昨年は1尾使っていたが、今年は1尾半も使っているので、より堪能していただけるのではないか」と、非常に高価なオマールブルーを惜しげもなく用いているといいます。
夏ならではのこだわりとして「日差しに負けない夏野菜を種類豊富に使用し、濃厚な味わいのオマールブルーに存在感のある夏野菜やスパイスを組み合わせている。例えば、メニューには記載していないが、万願寺唐辛子などたくさんの野菜が使われている」と説明します。
これから
夏の思い出を尋ねると「フランスでは、夏はレストランがバケーションで長く休業することが多いため、南仏リゾートで味わうバカンス料理が印象に残っている」と振り返ります。
さらには、夏のフレンチとして「海の果物」を意味する「フリュイ・ド・メール」、「ラタトゥイユ」や「ブイヤベース」をはじめ、ニースの郷土料理である「ソッカ」、バーベキュー料理「グリエ」など肩を張らない料理を挙げます。
赤坂氏の夏の思い出は大変素晴らしいものですが、おそらく「ピエール・ガニェール」を訪れるゲストにとっては、夏のフレンチの思い出として、他では体験できない赤坂氏の「オマール・ブルー特別コース」を挙げるのではないかと、私は思うのです。
夏のフレンチ
暑い夏にも訪れてみたくなるフランス料理とその背景を紹介してきました。
「Sonore」は星野リゾートが美食に力を入れた本格フランス料理であり、渓流でアペリティフからダイニングへの流れによって、涼しげで希少な体験を紡ぎ出しています。
「フレンチごはん 西麻布GINA」はたくさんの野菜を用いた栄養満点でその名の通りの「美しいサラダ」を生み出しており、「エスコフィエ」は老舗ながらも、女性に嬉しい夏に負けない「抗酸化野菜×発酵ランチコース」を提供しています。
「アムール」はジャパニーズフレンチとして日本の夏の食材をモダンフレンチにうまく融合させており、「ピエール・ガニェール」は他ではなかなか味わえない旬のオマールブルー尽くしの料理を創り出しています。
フレンチは冬においしいのはもちろんのこと、夏も十分に魅力的なので、是非とも訪れてみるとよいのではないでしょうか。