秋吉亮、NPB復帰!「諦めなければ夢はかなう」 ソフトバンクでの秋吉&又吉の“吉吉リレー”実現なるか
■「野球の神様」が微笑んだ
やはり、野球の神様はいるんだ。そう思えてならない。
7月16日、福岡ソフトバンクホークスが秋吉亮(東京ヤクルトスワローズ―北海道日本ハムファイターズ―福井ネクサスエレファンツ)の獲得を発表した。
昨オフ、ファイターズからノンテンダーを通告され、自由契約となった秋吉投手を獲得しようというNPB球団は現れなかった。
まだまだやれる―。そんな手応えとともに、NPBに返り咲くための場所として秋吉投手が選んだのは、できたばかりの独立リーグ「日本海オセアンリーグ」に所属する、これまた新生「福井ネクサスエレファンツ」だった。
開幕当初は諸事情で苦しんだが徐々に本来の力を取り戻し、格の違いを見せつけてきた。5月には7試合、9・2/3回に登板して1失点。防御率0.93、奪三振率19.55の好成績で月間MVPも獲得した。(詳細記事⇒NPB復帰へ向けて万全)
それでも、従来のストレートとスライダーのコンビネーションというピッチングスタイルに満足せず、新球フォークを習得するなどの試行錯誤も続けてきた。どこまでも向上しようという貪欲さ、自分自身へのあくなき挑戦は、常に忘れることはなかった。
さらに自分のことだけに留まらない。NPBを目指す若き独立リーガーたちに懇切丁寧にアドバイスしてきた。「コーチ」の肩書は付かないが、後輩たちへは目配り気配りを欠かさなかった。
しかも自チームのみならず、他チームの選手たちにも、だ。こぞって教えを乞いにくる他チームの投手たちにも、変わらず応えてきた。
チーム事情から監督代行を務めたこともあった。“秋吉監督”の指揮でイキイキと躍動する選手たちの姿は、秋吉投手の将来の指導者像を彷彿とさせた。(詳細記事⇒“監督代行代行”での初采配で勝利)
また、野球教室などにも精力的に取り組んだり、球団にもさまざまなアイディアを提案したりするなど、自身にできることは率先して行ってきた。
根っから人が好く、周りのスタッフへの気遣いも怠らない。接した誰もがその人柄を讃える。
“都落ち”しても、秋吉投手に悲壮感は微塵もなかった。決して恵まれているとはいえない独立リーグの環境にも愚痴ひとつこぼさず、慣れない一人暮らしも器用にこなしていた。いつも現状の中でできることを探し、むしろ楽しむ余裕すら感じさせていた。
こうしたことが、野球の神様の心を揺さぶったのだろう。実力はもちろんだが、それだけでない“なにか”がそこにはある。ホークスも緊急事態にならなければ、補強に動くこともなかっただろうから。
やはり、野球の神様は見てくれているのだ。
■日本海オセアンリーグのオールスターでセレモニー
ホークスから秋吉投手入団の発表があった日、日本海オセアンリーグでは初のオールスターゲーム(富山アルペンスタジアム)が開催されていた。試合開始前に秋吉投手を送るセレモニーが行われ、マイクの前でスピーチした秋吉投手はファンから温かい拍手を受けた。(スピーチ全文は後述)
当初は登板予定だったがマウンドは後輩たちに譲り、自身はネット配信で解説をしたり、ランナーコーチに立ったりベンチから選手を鼓舞したりと、“最後のお務め”に尽力していた。このユニフォームでグラウンドに立つのは最後なんだと、思い出を噛みしめながら。
そして後輩たちは、偉大な先輩と一緒に過ごせる残り少ない時間を惜しみながら、必死にプレーした。
試合後には、そんな後輩たちの思いがあふれた。突如、自然発生的に胴上げが始まったのだ。オセアンリーガーたちの手で5度、宙に舞った秋吉投手は「胴上げは初めて。めったにやってもらえることじゃないし、嬉しかった。気持ちよかったよ」と後輩たちに感謝していた。
■福井ネクサスエレファンツからのメッセージ
では、秋吉投手と関わった福井ネクサスエレファンツの人々に思い出を聞こう。
◆吉村 慎之介 キャプテン
秋吉さんは戦力としてはもちろん大きいですし、でもそれ以上に人間として、「秋吉さん」っていう存在がチームにとって大きかったですね。とくにピッチャー陣は、すごくそれを感じてるんじゃないかな。
野手ともしっかりコミュニケーションをとってくれて、全員がやりやすい環境を作ってくれていましたね。人を分け隔てしないんで。
僕は元プロのピッチャーのバックで守るのは緊張するという経験があったんですけど、秋吉さんはそういうのを感じさせないというか、エラーしても自分がカバーするから大丈夫って、そういう雰囲気でやってくれるので、みんなも守りやすかったと思います。
バッターと対戦する前にポジショニングを指示してくれる。すると、実際、そこに飛んでくるんです。そこに打たせる投球をするのはすごいなって思っていましたね。
打つことに関しても、『このカウントだったら』とか『こういう場面だったら』とか、どういう球がくるのかをよく話してもらいました。『オレやったらお前に対してこういう球を投げる』とか、そういう投手目線の配球を教わりました。
秋吉さんがいなくなるのは、チーム的に考えたら痛いですよね。痛いんですけど、そうも言ってられない。自分たちもそこを目指してやってるんで。秋吉さんに続いて全員がそこを目指してもう一回、強い気持ちをもってチームとしてやっていきたいと思っています。
そして秋吉さんには、今までのプロでの成績以上の結果をソフトバンクで残してほしいと思います。
◆寺内 生 投手
僕が調子悪いときや打たれたとき、いつも秋吉さんに声かけてもらいました。『そんなにコースを狙いすぎんでいい』とか『そんなに気持ち背負わんでいいよ』とか。勝とう勝とうと思いすぎずに、マウンドに行ったら楽に楽しくなげるだけやってことを教わりました。
秋吉さんはほんと、優しすぎる。もう、みんなのお兄ちゃんみたいな感じでした。ベンチでもいつも傍にいてくれましたしね。
だから、NPB復帰が決まったときはめっちゃ嬉しかったんですけど、淋しかったです。淋しいほうが勝って…。
(ホークスで)抑えをやってる秋吉さんを見たいです。抑えを奪うくらいの活躍をしてほしい。
◆工藤 優太 投手
会う前は、年齢とか経歴とかも含めて壁があるのかなと思ってたんですけど、気さくに話しかけてくれて接しやすくてビックリしました。
秋吉さんには、自分の自信を持ってる速いスライダーを褒めてもらったことがあって、元々自信はあった球だけど、秋吉さんに褒めてもらったことでさらに自信がついて、それを活かしたピッチングができています。
秋吉さんとは投手野手関係なく、みんながコミュニケーションとれている。秋吉さんがいるから壁がなかったと思います。
いなくなるのは正直、淋しいです。もう一人、秋吉さんが欲しいなって思います(笑)。
今後は自分も同じNPBの舞台に行って、秋吉さんとそこで再会する…そうなれたら最高だなって思います。
◆後藤 茂基 投手
ごはんに連れてってもらったり、球場に行くとき車に乗せてもらったり、野球以外でも優しく接してくれました。後輩思いっていうか、裏表が全然ない人なんですよね、秋吉さんは。
車の中ではいつも野球の話をしていました。自分は配球をキャッチャーに任せてたけど、秋吉さんは自分で考えていて、どうやって組み立てるのかとか。やっぱり自分で考えるのは大事だし、人任せでやってたら成長しないなと気づかされました。
今はブルペン投球から、そういうところをしっかり意識してやるように変わりましたね。
今までプロ野球選手と練習や試合をやったことなかったので、最初は『わぁ秋吉選手だぁ』みたいな憧れだけだったんですけど、一緒にやっていく中で話もたくさんしてもらって、本当に頼りがいのある先輩で、その憧れの秋吉さんに一つでも近づきたいなと思うようになりました。
秋吉さんが復帰することで、自分もNPBに行ってまた一緒にやりたいなっていう気持ちが強くなりましたね。秋吉さんがいなくなっても、ひとりでもNPBに行けるように頑張ります。
秋吉さんには圧倒するような、圧巻のピッチングを見せてもらいたいですね。
◆坂本 竜三郎 捕手
秋吉さんの経験の豊富さで、駆け引きだったり、勝負の仕方を教わりました。同じバッターと対戦していく中で、秋吉さんは相手の特徴だったり弱いところを把握されているんで、僕がリードされている形でした。
たとえば、秋吉さんはまっすぐが強いんで、僕はまっすぐで押せると思った場面でも、秋吉さんは首振ってスライダーっていうことがあったりとか…。秋吉さんはリスクの低いほう、リスクが最小限で抑えられるように考えて投げられていた方。それは自分にとっても勉強になったし、これをほかのピッチャーと組んだときに活かしたいですね。
秋吉さんのまっすぐは球速以上の速さを感じますし、キレだったり制球だったり、僕は見たことないくらい群を抜いてすごいピッチャーだったので、やはりNPBの一流選手は精度が違うなと思いました。そんな秋吉さんが抜けるのは、キャッチャーとしてもチームとしてもすごく痛いです。
でも、やっぱり戻るべき人だと思ってたんで。野球だけじゃなくて、人として尊敬してますし、率直に嬉しいですね、いちファンとして。本当に人間性も素晴らしいですし、そういうところは僕も見習わないといけないと思います。
僕、巨人ファンなんで、テレビで見るのはセ・リーグなんですけど、これからはソフトバンクを見ます(笑)。
◆濱 将乃介 選手
秋吉さんとは野球と関係ないプライベートの話もします。それくらい話しやすいですね。
選手ですけど、コーチみたいでもありますし、秋吉さんが九回に投げると安心できますし、とても頼りがいがある。マウンドに立ったときのオンとオフのモードの切り替えがすごいなって、そこは学びました。
秋吉さんが抜けても、しっかりした自分たちの野球ができるようにしないといけない。秋吉さんが抜けたから弱くなるんじゃなくて、今の雰囲気のままいきたい。みんながそれぞれ、秋吉さんに教わったことをどんどん出していけたらなと思います。
秋吉さんの活躍は、これからテレビで見ます、見ます!めちゃチェックして見ます!そして、僕も来年は同じ舞台に立てるように頑張ります。
◆沢田 裕紀 カメラマン
最初は怖い人だと思ってたんですよ。やっぱりピッチャーとして第一線でやってた人で、日本代表とかすごい経験をしている方じゃないですか。
でも何かのタイミングでしゃべるようになって、なんと気さくな人なんやと(笑)。
選手にも分け隔てせず全員を公平に見て、的確に選手個々の性格とかしっかり把握しながら接してるんで、ほんとすごいです。
自分のことだけじゃなくて視野が広いというか、周りを見てるなというのがよくわかります。細かなことまでしっかり見てますし、それもピッチャーだけじゃなくて野手陣のことも見てますから。
それに、いろいろ協力もしてくださってました、野球教室なんかも。予定メンバーに入ってないときも残ってくれてて、ヒョコッと顔を出して教えてくれたりもありました。「帰っていただいていいですよ」って言っても、熱心に教えてくれるんです。
野球教室でも相手をよく見てましたね。頭ごなしに言うんじゃなくて、「こうするとこうなるよ」とか、自分の経験を踏まえた上で的確に教えているのがわかります。
秋吉さんがいなくなるのは嬉し悲しですよ。嬉しいんですけど、いなくなる悲しさもありますね。
ぜひ福井以上はもちろん、日ハム以上の活躍をしてほしい。年齢は関係ないと思うので、とにかくバリバリやってほしい。
秋吉さんはいつもポーカーフェイスで、ピンチでも動じない。どんなことがあっても笑顔でした。福井でやってきたことを、そのままやってほしいですね。そして、若い選手たちが秋吉さんに続いてほしいなという思いがあります。
■ホークスで優勝の1ピースに
多くの人々に慕われた秋吉投手。約半年という短い期間ではあったが、新チームと新リーグに残した功績ははかり知れない。それだけに、秋吉投手退団の喪失感は非常に大きい。
しかし秋吉投手の野球人生にとっては、これほど喜ばしいことはない。ここまでひたすらNPB復帰を目指して流してきた汗が、ようやく報われたのだ。奥さんも2人の息子さんたちも泣いて喜んでくれたという。
秋吉投手も「淋しい思いもあるし、(NPBに)戻れるっていう嬉しさもある。半々くらいって感じ」と複雑な心境を吐露する。
しかし、すぐに表情を引き締め、「ホークスではしっかり1軍で投げて結果を残すことが一番。ここまで上(NPB)でしっかり投げられるように調整してきたから、それを全部出せるように頑張る」と新天地での奮闘を誓っている。優勝、そして日本一に向かって貢献する1ピースになるつもりだ。
今後、秋吉投手がNPBで活躍することが福井ネクサスエレファンツの、そして日本海オセアンリーグの選手たちにとって希望の光となる。
NPBでより輝きを増す秋吉投手の姿が早く見たい。
【秋吉亮*スピーチ全文】
本日はオセアンリーグのオールスターにお越しくださいまして、ありがとうございます。試合前の貴重なお時間をお借りして、自分から報告があります。
報道でも出ておりますが、みなさんご存じかと思いますが、福岡ソフトバンクホークスに入団することになりました。
去年、ノンテンダーで自由契約になり、野球を辞めようかと思った時期もありました。本当に今思えば、辞めなくてよかったなとすごく思っています。
独立リーグにきて、選手のみんなには「みんなと同じ夢、目標がある」と伝えて、一生懸命、練習や試合をしてきました。選抜チームでの試合のときも他チームの選手のみんなからも「教えてください」と来たとき、自分は一人でも多くの選手がNPBに行ってほしいという思いもありまして、自分なりにアドバイスしてきました。
自分が先にNPBの世界に戻りますが、一人でも多くオセアンリーグからNPBの世界に来てもらえることを楽しみに、ドラフトを見ています。
夢や目標を諦めなければ絶対にかなう―。僕はそう信じています。
最後になりますが、ここ独立リーグに来る話をいただいた黒田社長、そして福井球団会長の西村さん、社長の篠田さん、オーナーの杉山さん、そしてスタッフ、ボランティアさんには本当に感謝しています。
また、いろいろな方からのサポートをしていただき、その結果、このようにプロに戻れることになったと思います。
ソフトバンクは現在、首位を走っています。少しでも力になってリーグ優勝、そして日本一になれるように頑張りますので、これからも応援よろしくお願いします。
本日はありがとうございました。
【秋吉亮*日本海オセアンリーグ成績】
18試合 20・1/3回 1勝2敗7S 防御率2.66 奪三振率15.49
被安打9 奪三振35 与四球7 与死球2 失点6(自責6)
(写真提供:日本海オセアンリーグ)
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