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「こってり」の正体は何なのか? 今さら聞けない濃厚ラーメンの秘密

山路力也フードジャーナリスト
「こってり」という言葉の意味を考えたことがあるか。

博多の豚骨ラーメンは本当に「濃厚」なのか

福岡の濃厚豚骨ラーメンの代表格『八ちゃんラーメン』。
福岡の濃厚豚骨ラーメンの代表格『八ちゃんラーメン』。

 「最近出来た店のラーメン、濃厚で美味しかったよ」「自分も食べに行ったけど、そんなに濃厚じゃなかったけどな」

 ラーメンのスープを語る上で、よく「濃厚」「こってり」などという言葉が使われることがある。その対義語としては「淡麗」「あっさり」なのだろうか。いずれにせよ、ラーメンのスープはその「濃さ」で表現される傾向が強い。

 濃厚なラーメンと言えば、福岡博多の豚骨ラーメンを思い浮かべる人も多いだろう。ドロドロとした豚骨臭いスープにバリカタの細麺を合わせた博多ラーメンのイメージを持つ人が少なくないが、実際の博多ラーメンのスープでポタージュのようにドロドロとしたものはほとんどない。

 では博多ラーメンが濃厚ではないのかと問われれば、決してそんなことはない。豚骨の髄から抽出されたスープの味わいはまさに濃厚で、さらにラードや背脂などの油分が加わってよりその印象は濃厚さを増す。食べ終わった後の印象としては、やはり「濃厚な豚骨ラーメン」という言葉に尽きる。

「濃厚」という言葉の曖昧さ

福岡の行列店『博多一双』のスープは表面に脂泡が浮いた「豚骨カプチーノ」。
福岡の行列店『博多一双』のスープは表面に脂泡が浮いた「豚骨カプチーノ」。

 しかし日常食としても愛されている博多ラーメンの多くは、ベースとなる豚骨スープの質感や粘度がサラリとしているものが多い。一方、東京にある博多ラーメンの中にはスープ自体がかなり濃厚なものがある。「本場の博多ラーメンは濃厚だと思っていたけれど、そうでもなかった」という感想が生まれる理由だ。

 ラーメンの世界ではドロドロとしたスープの質感や粘性についても濃厚と言うし、旨味の強さや味の濃さについても濃厚と言うことがある。つまりラーメンにおいて「濃厚」や「濃い」という言葉は、なんとなくイメージ先行で言葉の定義が曖昧なままに使われているのだ。

 その結果、あるラーメンを濃厚と感じる人もいれば、そうでない人も存在することになる。ラーメンについて「濃厚」「濃い」と表現する場合には、スープの旨味なのかタレの味なのか油分なのか粘度なのか、何が濃厚なのかを意識することで食い違いは少なくなるだろう。このことはラーメン店が自分のラーメンを表現する上でも重要なポイントだ。

「こってり」の正体は何なのか

「こってり」といえば京都発祥の人気チェーン『天下一品』。
「こってり」といえば京都発祥の人気チェーン『天下一品』。

 これが「こってり」「あっさり」という言葉になると、さらに複雑さを増してくるので注意が必要となる。「こってりラーメン」といえば、京都発祥の人気チェーン『天下一品』を思い浮かべる人は多いだろう。『天下一品』の「こってりラーメン」はいわゆる「鶏白湯」と呼ばれるスープで、味の濃さはもちろん粘度も高くまさにポタージュのような質感だ。

 しかしながら、実際に『天下一品』の「こってりラーメン」を食べてみると、そこまでのしつこさやくどさを感じる人は少ないのではないか。その理由として考えられるのが、スープのトロッとした質感が何によるものかという点。『天下一品』の場合は鶏の骨や肉と野菜などが主な材料であり、油脂分による粘性はあまり感じられない。

 分かりやすい例として「ベジポタラーメン」を挙げれば、スープそのものの濃度や粘度はかなり高いが、油脂分や動物系素材由来ではなくジャガイモなどの野菜由来の粘度なので「こってり」と感じる人は少ないはずだ。スープの中に可溶性固形分がどれだけ含まれているかを数値化した指標に「Brix(ブリックス)濃度」というものがあるが、その数値が高いからと言って「こってり」「しつこい」わけではない。

もう一つの「こってり」派閥がある

千葉に本店を構える『こってりらーめん なりたけ』のスープはサラリとしている。
千葉に本店を構える『こってりらーめん なりたけ』のスープはサラリとしている。

 スープの表面にたっぷりの背脂を浮かべた「背脂チャッチャ系」と呼ばれるラーメンも、「こってり」の表現が使われることが多い。千葉に本店を構え、かつてフランス・パリにも出店していたこともある『こってりらーめん なりたけ』は、店名に「こってり」と付けているほど。『天下一品』同様に自身のラーメンが「こってり」であると表現している。

 『なりたけ』の源流をたどれば『らーめん弁慶』そして『千駄ヶ谷ホープ軒』という、屋台から生まれたラーメン店の流れを汲んでいる。スープは半濁ほどでサラッとした質感で『天下一品』のスープとは真逆と言っても良い。『なりたけ』が「こってり」である理由は、言うまでもなくスープに浮く背脂だ。背脂の量は注文時に調整が出来るので自分好みの「こってり」を楽しむことが出来る。

 ラーメンは十軒十色、店の数だけ味がある。それを抽象的な言葉や概念で括ろうという発想がそもそも間違っているのかも知れない。「濃厚」「こってり」も店によって様々ということだ。あなたはどんな濃厚ラーメン、どんなこってりラーメンが好きですか?

※写真は筆者によるものです。
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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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