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ネットだけの人気に限界も…一枚岩ではない日本保守党の将来-岩盤保守の内情【衆院東京15区補選】

古谷経衡作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長
日本保守党にとって初の国政選挙である東京15区補選。公認の飯山氏は4位で落選した(写真:アフロ)

 東京15区補選は、我々にあまりに多くの示唆を与えてくれた。自民党と公明党が公認・推薦・支持する候補が存在しない場合、有権者の投票行動はどうなるのか―。従来「思考実験」でしかなかったものが、実際の小選挙区で実証されたのだ。

 結果は既報の通りで、立憲民主党の酒井菜摘氏が当選した。落選したものの、2位につけたのは参議院議員を辞職して臨んだ須藤元気氏であった。選挙は当選した人の票分析をしていればそれで終わりというものではない。

 重要なのは負け方である。須藤氏が2位につけたのは氏への依然として大きな期待感の表れであり、強い組織票もなく選挙区を電飾自転車で回りどぶ板を展開した須藤氏の健闘は、確実に次につながる結果になった。或る意味東京15区補選の真の勝利者は須藤元気氏かもしれない。

・日本保守党公認、飯山あかり氏の得票は4位

 さて私が従前からきわめて注目していたのは、2023年9月に結成された日本保守党の公認を受けた飯山陽(あかり)氏の得票動向である。結果、同党公認の飯山氏の得票は24,264票で4位に終わった。

 日本保守党は岸田政権におけるLGBT理解増進法に反発する形で、作家の百田尚樹氏を代表として設立され、当初は「百田新党」などと呼ばれた。同党は有権者の約2%と推計される、いわゆる「岩盤保守」の一部から絶大な支持を得る形で、今次東京15区補選で初めての国政選挙を戦うことになった。

 ネットでは主にX(旧ツイッター)で #日本保守党 #飯山あかり が連日トレンド入りし、その盛り上がりは公示前からすでに最高潮にあったといってよい。また同党支持を明確にする『HANADA』などの保守系論壇誌も、毎号日本保守党への全面支援を明確にする紙面構成で、雑誌媒体もこれに加勢した。

 日本保守党が結党して約8か月。乾坤一擲の大勝負に、日本保守党は岩盤保守を巻き込みながら臨んだのである。その結果として飯山氏の4位落選をどうとらえるのかが、本稿の主目的である。

・日本保守党結党に至る前史をふりかえる

 東京15区の岩盤保守の動向を分析する前に、日本保守党が今次選挙に至る前史を簡単に紐解きたい。

 第二次安倍政権ののち、菅政権、岸田政権となったが、岩盤保守層はおおむね自民党を支持してきた。2021年9月、自民党総裁選では安倍氏の理念を引き継ぐとされる高市早苗氏を岩盤保守は猛烈に支持するキャンペーンを張った。総裁選で投票資格のない非自民党員もが一丸となって、ネットや保守系論壇誌でキャンペーンを行った。と同時に、河野太郎氏への批判を強めた。

 結果、高市氏は3位となり、決選投票に進めなかった。岩盤保守は岸田新内閣で高市氏の「官房長官」ないし「防衛大臣」などへの重要閣僚起用を期待したが、実際の人事は政調会長であり、その期待は裏切られたと映った(とはいえ、党三役たる政調会長への抜擢は厚遇なのであるが)。

 2022年8月の内閣改造では、高市氏は内閣府特命担当大臣(経済安保など)として入閣したが、またしても官房長官などではなかったため、このあたりから岩盤保守の「岸田離れ」が加速していく。それと相前後して安倍元総理銃撃事件があり、岩盤保守は精神的支柱であった安倍氏を失ったことにより一時的混乱状態に陥った。

 同年11月には、岩盤保守のプラットフォーム的存在であったネット番組『真相深入り!虎ノ門ニュース』が突然終了となる。背景には運営会社であったDHCがオリックスに買収されたことで、オ社側のブランドイメージへの配慮があったと思われる。

 このとき、同番組の二大看板であった作家の百田尚樹氏とジャーナリストの有本香氏はすぐさま『ニュースあさ8時!』(略称・あさ8)の配信を開始する。一方、『真相深入り!虎ノ門ニュース』の旧スタッフらが中心となって、翌2023年3月には『帰ってきた 虎ノ門ニュース』が事実上の後継番組としてネット配信がスタートした。

・日本保守党は「岩盤保守層」を固めきれていない~岩盤保守の内部分裂

筆者制作
筆者制作

 私が何が言いたいのかといえば、おおよそ2022年末まで岩盤保守の中心的存在であった旧虎ノ門ニュースの人々は、翌年までに「あさ8」と「帰ってきた」に分裂したということである。事実、「帰ってきた」の方には原則的に元看板コメンテーターであった百田氏や有本氏の出演はない。

 この分裂のまま、「あさ8」側の中心人物である百田氏、有本氏らが岸田政権におけるLGBT理解増進法を契機として2023年9月に「日本保守党」を結成する流れになる。LGBT法は表面上結党の理由ではあったが、それ以前から岩盤保守界隈では、岸田政権下による高市氏の冷遇(と彼らには見える)という状況が、「反岸田」「反岸田自民」となってふつふつと蠢(うごめ)いていたのである。

 実は現在、岩盤保守界隈には百田氏らが代表を務める日本保守党と、それに反目するグループが存在する。便宜上、前者を百田派、後者を反百田派とする。現在、反百田派の中心的存在とみなされているのは、経済評論家の上念司氏、政治アナリストの渡瀬裕哉氏、元早稲田大学教授の有馬哲夫氏、経済評論家の渡邉哲也氏、ほかに一部の政治系ユーチューバーなどであり、これに最近ではその発言がヘイトスピーチとされ、訴訟になっている大阪府泉南市議会議員の添田詩織氏などが加わっているとされる。さらに中堅から比較的新人の保守系言論人や文化人などの一部も反百田派に親和的な姿勢を見せており、反百田派は決して小さいグループではない。

 また2020年に設立された政治団体『新党くにもり』は、反グローバリズムと反自民党を鮮明にし、日本保守党関係者と緊張状態にある。従来「くにもり」は岩盤保守の中でも少数勢力とされていたが、近年では政治的進歩派(れいわ新選組など一部の野党)の支持層の一部に食い込んでいることから、こちらも無視できる数ではなく、巨視的に言えば反百田派に分類されてよい。

 ちなみに今次の補選では参政党から吉川候補が出馬し約8,600票を獲得したが、私の過去分析にあるように、参政党は岩盤保守と一部分で重なるものの、その多くは「オーガニック推進」「反ワクチン」「スピリチュアル(精神世界)」の傾倒者で占められているので、本稿では分析の対象からは除外している。

 反百田派とされる彼らは日本保守党への応援を一切行っていないばかりか、それぞれのSNSや動画チャンネルなどで日本保守党への批判を繰り返しており、またそれに応酬する形で、百田派と反百田派に属するとされるネットユーザー双方による喧騒が続いているというのが現在の状態である。

 本稿冒頭に、「(日本保守党は)有権者の約2%と推計される、いわゆる「岩盤保守」の一部から絶大な支持を得る」と書いたが、あえて”一部”と留保したのは、日本保守党を巡ってすでに岩盤保守内部で分裂が起こっているからだ(参考として概略図を上記のとおり制作した)。

 つまり日本保守党は岩盤保守の全部を代表するものではない。当然岩盤保守の圧倒的大多数が日本保守党を支持しているわけでもない。

 そもそも、岩盤保守界隈がおおむね2023年までに百田派と反百田派に分裂したのはなぜなのだろうか。時間軸は2020年11月の米大統領選挙にさかのぼる。当時の大統領選挙は再選を目指すトランプ氏とバイデン氏の対決であった。当然バイデン氏が当選するわけであるが、トランプ敗北の報が伝わるや、「(バイデン陣営による)集票操作である」「(バイデン陣営に)票が盗まれた」などと、米国のQアノンと同じような主張をしだしたのが、現在の百田派の人々である。

 一方、それを「陰謀論だ」として批判したのが現在の反百田派の人々である。それにより反百田派の人々がそのユーザー数やファンの数で劣後したので、当時の「虎ノ門ニュース」から次々と降板するという騒動に発展し、これを契機に岩盤保守界隈は分裂して今に至っているのだ。

 現在の勢力関係では、百田派が主流で、反百田派が非主流・傍流ということになるが、それぞれ各個人に固定ファンがいることを考えると、私の感触的には主流派7対非主流派3くらいというところではないか。

 ここまで読んで「なんという低レベルの論争か」と思う読者もおられようが、岩盤保守界隈内部の実相とは、このようなものなのでぐっとこらえて付き合っていただきたい。

・保守系論壇誌も日本保守党を巡って温度差

雑誌のイメージ。写真ACより許諾済、イメージ画像です。
雑誌のイメージ。写真ACより許諾済、イメージ画像です。

 さて以上のような岩盤保守内部の分裂を受けて、日本保守党を巡る保守系論壇誌の論調も微妙に異なっている。前掲した『HANADA』は百田氏や有本氏と伝統的に距離が近く、紙面において全面支援を明確にしている一方、『WILL』は原則支援はするものの全面的というほどではなく、やや距離を置いている印象である。他方、保守論壇誌の老舗である『正論』は是々非々ではあるが、基本的には応援する、という風に分かれている。

 特に『HANADA』と『WILL』の日本保守党に対する論調の違いは、2016年に編集方針の違いなどから当時『WILL』の編集長であった花田紀凱(かずよし)氏が版元であるWAC社の鈴木隆一社長から解任されたため、編集部員の一部を伴って飛鳥新社に移籍し、新雑誌『HANADA』を創刊して分裂したことが影響していると思われる。この分裂劇の最中、私はこの両方の雑誌に寄稿している立場だったが、両雑誌の関係者にあって、双方に対する遺恨や不信は相当のものであると感じたものの、詳細はまた別の機会にしたい。

『HANADA』が日本保守党推しなら、『WILL』はそこまではいかない、という温度差の背景にはこのような確執があると予想されるが、そこで登場してきたのが今次補選で立候補者となった飯山陽氏である。飯山氏はイスラーム研究者としての実績と、鋭敏な野党批判、進歩的メディア批判で知られ、岩盤保守界隈ではここ数年知名度がにわかに上昇してきた人物である。

 この界隈に疎いクラスタからすれば「無名」と映るが、飯山氏の界隈での知名度は充分であった。飯山氏はイスラーム研究という、岩盤保守界隈にはなじみの薄い分野から頭角を現してきており、一方で保守界隈での言論実績はまだ数年というところでもある。よって基本的には前掲した反百田派からも、これまでの言動に基づく来歴を勘案して、大きな批判にさらされる理由は薄い。つまり飯山氏は百田派と反百田派のブリッジとして適役というわけだ。

 日本保守党初の国政選挙に、百田氏や有本氏ではなく飯山氏が公認候補者に選ばれた背景には、このような岩盤保守内部の”複雑な事情”がうかがえよう。

・日本保守党公認、飯山あかり氏の基礎票は10,000票~12,000票

遊説する飯山氏
遊説する飯山氏写真:アフロ

 このような前史を踏まえたうえで、同党公認の飯山氏の得票24,264票の分析に進もう。東京15区を構成する東京都江東区における有権者数は約43万人。これに対し素直に(前掲推測の通り)2%を掛けると同区における岩盤保守のおよその実数がわかるのである。すると、

430,000×0.02=8,600

 が江東区における岩盤保守の推計値であり、この8,600票がそのまま飯山氏の基礎票になるはずだが、私の推計によると岩盤保守は首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)に大きく集積しており、2%というのは北海道から沖縄までの全国平均であるからこれよりも上位(3%~)に推測しなければならない。仮に3%として計算すると同区でのそれは12,900票になる。3.5%と推計すると15,050票になる。4%とすると17,200票だが、これはやや高すぎるであろう。

 しかし前史で述べたようにそもそも岩盤保守が百田派と反百田派に分裂しているのだから、日本保守党は岩盤保守層の100%を掌握できているわけではないのだ。

 そうすると雑駁な概算で、日本保守党が「身内票」つまり、岩盤保守票の最大推計のうち7割を固めたとして約10,000票~12,000前後というのが飯山氏の基礎票ということになる。結果として今次補選において飯山氏はこれの約2倍程度(約24,000票)を獲得した。有権者全体からすると、約5.6%を飯山氏は獲得した。

 では氏の得票の24,264票から仮に10,000票~12,000票前後を引くとして、残りの10,000票強余りはどこから来たのであろうか。これはまさしく、自民党不在の選挙である本区特有の事情であって、自民党支持者の一部が流れたためである。

・自民党支持層のうち、約2割が日本保守党の飯山氏に流れる―飯山氏の得票を分析する

 東京都選挙管理委員会によると、東京15区での全体投票率は40.7%の稀に見る低率であった。この背景は公明党支持者の棄権や、同区で問題となった選挙妨害等により、投票行為そのものへの無関心・政治活動への嫌悪などが影響したと思われるが、同委員会によると、期日前投票の割合は13.01%(不在者投票を入れると約57,000人)ある。江東区の有権者における投票者数は、選管発表により約175,000人である。よって投票日当日の投票者数は、

175,000-57,000=118,000

 ということになる。NHKの当日出口調査によれば、このうち自民党支持と答えたものは、約24%である(下図)。とすれば、118,000×0.24=28,320 が自民党支持者の票ということになる。

引用、NHK(https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20240428a.html)
引用、NHK(https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20240428a.html)

 朝日新聞の報道によれば、自民党支持者のうち、1割台半ばを飯山氏は獲得したという出口調査がある。一方時事通信社は、自民党支持者の23.5%が飯山氏に流れたとする。両者の真ん中ほどを取ってこれを2割とすると、

28,320×0.2=5,664

 となり、約5,700票前後の自民党支持票が投票当日に飯山氏に流れたと推測される。このほかに無党派層の動向がある。前掲朝日新聞の報道によれば、飯山氏は無党派層(支持政党が特になしの回答)の約1割台半ばを獲得したとある。これを仮に15%とする。無党派層は投票者全体の約4割(前掲NHKの政党支持別割合に基づくと)ということになるが、こうなると118,000×0.4=47,200票である。これの15%とすれば、7,080票(約7,000)が飯山氏に流れたと類推することもできる。

 また若干の期日前投票における自民党支持層からの流入も加味しなければならない。期日前投票の総数は選管によると約57,000票であるが、このうち約2割が飯山氏に投票(約11,000票)したとNHKが報道している。この多くは熱心に日本保守党を支持する岩盤保守が事前投票を行った結果とみるべきである。ここでは無党派層からの流入を7,000、期日前における自民党支持者からの流入を1,000として考える。

 これらをすべて合算すると飯山氏の得票は以下のように分解できるのである。

12,000(岩盤保守の基礎票)+5,700(当日投票の自民党支持者の流入票)+1,000(期日前投票の自民党支持者の流入票)+7,000(無党派層からの流入票)=25,700

 よって日本保守党公認候補の飯山氏が獲得した24,264票の、近似値になるのは自明なのである。当然、いかに政治的に熱心な岩盤保守層とはいってもその投票率が100%になるということはありえないから、25,700票からやや下がったところ、約24,000票でピタリとなろう。

・オール岩盤保守ではなかった日本保守党

 つまり日本保守党は、本来の基礎票から別に10,000票強を自民党支持層などから「仕入れていた」と分析することができる。これは岩盤保守層における日本保守党の猛烈な盛り上がりに対照すれば、やや不振と言うべきではないか。

 繰り返すように、日本保守党は岩盤保守全部から支持されているわけではない。これは2014年に鳴り物入りで衆院選挙に臨んだ「次世代の党」とは性質を異にしている。次世代の党は石原慎太郎氏を中心として、岩盤保守と呼ばれるほとんどすべての基礎票を固めた。保守界隈の重鎮から若手、新人まであらゆる人々が一丸となって次世代の党を支援する一大キャンペーンを張った。

 それは『正論』や『産経新聞』を筆頭とした伝統的な保守グループに、新興のネットを中心とした岩盤保守の票が加わったものである。

 日本保守党はこうした「オール岩盤保守」であった次世代の党とはまるで事情が違っている。前提的に岩盤保守界隈の分裂がある以上、「身内の票」すら固めきれておらず、そして今次東京15区にあっては、自民党が不在という特殊条件が作用してもこの結果なのである。

 朝日新聞の報道によれば、自民党支持層のうち、約2割が須藤元気氏に流れたとある。その他は立憲の酒井氏、維新の金澤氏、無所属の乙武氏などに細分化されている。自民党支持層のなかで政治的思想傾向が類似するのはあきらかに飯山氏のはずだが、その中で最も票が流れたのが「消費税全廃」や「原発再稼働慎重」を掲げた須藤氏であったのは興味深い。

 これはひとえに、日本保守党が前述の理由により猛烈な「反岸田・反岸田自民」だからである。自民党支持層としても、手放しで飯山氏に助力することはできない情勢なのであった。結局、日本保守党は自民党支持層の受け皿になった、とはまったく言えない。

 また無党派層から仮に前掲計算のごとく約7,000票が流れたとしても、それは自民党の公認や推薦候補が存在しないことを前提にしたものであり、昨今の無党派層に対する自民党候補者の食い込みを考えると、この部分についての将来にあっての弾力性は乏しいと考えてよいのではないか。

・日本保守党は次期衆院選挙で議席を獲得できるか?

 インターネット上やSNSで日本保守党が連日取り上げられ、トレンドに飯山氏の名前が挙がり、街頭演説ではかなりの人だかりができたことは事実だ。しかし、現実的にはその中の何人が江東区の有権者であったのか疑わしい。ネットのインフルエンサー、特に特定の政治的クラスタで人気のある人物は、リアルの場になると局所的に多くの人々が集まり、まるで多数から支持を受けているように思えるが、それは錯覚に近い。

 当たり前だが地域の人々と密に会話し、路地裏で政策を訴え、周知を図るという地道などぶ板しか勝つ道はないのである。ネットでの盛り上がりや人気だけでは、少なくとも小選挙区において優勢を確保することは難しい、という現実が改めて浮き彫りにされた選挙であった。

 このような現状を考えると、今後も日本保守党が国政選挙の小選挙区において議席を確保することは極めて難しいと見るべきであろう。飯山氏は全体得票においての割合では14.2%であった。他の候補(今回で言えば乙武氏など)が立候補を取りやめ、日本保守党に一本化し、かつ自民党の公認・推薦候補が存在しなければ可能性はないわけではない。

 しかしこれは理論上のお話であり、自民党が存在しない小選挙区という「きわめて特殊な」選挙局面は今後、そうないと思われることから、少なくとも来る衆議院総選挙での日本保守党の議席獲得は難しいであろう。参議院全国比例ならば、かつての参政党がそうであったように1議席の可能性は残されているが、前述したような「岩盤保守分裂」の背景にあってはその道のりは一筋縄にはいかないだろう。

 むろん、現在百田派と反百田派に代表される岩盤保守分裂の状態が解消され、岩盤保守の基礎票をほぼすべて固めることができる統一候補が生まれるとすれば、議席獲得の可能性はないわけではない。が、私が観測するに両派の溝は相当深く、骨肉の争いは将来も継続されるとみている。

・それでも日本保守党は乙武洋匡氏には勝つ

 選挙後、日本保守党の支持者らは「無所属の乙武洋匡氏を下して4位になった」ことで飯山氏の健闘をたたえている。確かに乙武氏の得票は約19,700票であり、飯山氏を5,000票近く下回って5位に終わった。

 乙武氏は選挙戦終盤、元2ちゃんねる管理人の西村博之氏の応援演説を受けるなどで戦局挽回を図ったが、かなわなかった。西村氏もネットのインフルエンサーとして知られ、ネットには多くのファンがいると「されて」いる。

 見方を変えれば日本で一番知られているかも知れないネットインフルエンサーが応援に駆けつけてもなお、飯山氏に対し無残にも敗北した乙武氏の選挙結果は、結局、

「ネットで影響力があることと、実際に日々を生活する人々の心を動かすのは別モノ」

 という当たり前のことを我々に突き付けたのかもしれない。(了)

作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長

1982年北海道札幌市生まれ。作家/文筆家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長。一般社団法人 日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。テレビ・ラジオ出演など多数。主な著書に『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社)、『愛国商売』(小学館)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)、『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)、『欲望のすすめ』(ベスト新書)、『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)等多数。

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