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チャーシューと焼豚は違う? 今さら聞けないチャーシューの秘密

山路力也フードジャーナリスト
ラーメンの丼の中の「華」と呼ぶべき存在のチャーシュー。

日本と中国のチャーシューはまったく別のもの

日本のチャーシューは焼豚ではなく煮豚が主流だ。
日本のチャーシューは焼豚ではなく煮豚が主流だ。

 ラーメンの具材の中でも欠かすことが出来ない存在の「チャーシュー」。丼の中の華と呼ぶべき存在のチャーシューだが、そのルーツは中国にある。中国料理(広東)のチャーシューは「叉焼」「焼肉(シウヨッ)」などと呼ばれ、調味料や香辛料で味付けした豚肉を炉釜やオーブンなどで焼き上げて作る肉料理のことだ。

 一方、日本のラーメンのチャーシューの場合は、焼かずに煮て作る「煮豚」が一般的で、豚肉を茹でた後に醤油などの調味料で煮込んで味を染み込ませて仕上げる。中国料理(北京)であれば醤油で煮る「醤肉(ジャンロー)」という肉料理に近い。中国の叉焼とは風味や食感も全く異なるものだ。

 中国の本格的な叉焼を作ろうとすると炉釜やオーブンなどの焼く場所が必要となり、ラーメン店のような小さな厨房では物理的に難しい問題がある、また、煮豚だからこそ柔らかな食感に仕上げることも出来る。日本式のチャーシューには日本ならではの良さもあるのだ。

チャーシュー麺はチャーシュー増しではなかった?

チャーシューが多いからチャーシュー麺というわけではなかったのだ。
チャーシューが多いからチャーシュー麺というわけではなかったのだ。

 昨今、ラーメンのチャーシューは豚肉だけではなく、牛チャーシューや鶏チャーシューなどを提供する店も増えてきた。ラーメンにおけるチャーシューという言葉は、今や焼豚や豚肉という原義をはるかに超えて、ラーメンにおける肉全般という意味合いになってきている。

 今でこそ「チャーシュー麺」とは、通常のラーメンよりもチャーシューの量が多い、いわゆる「チャーシュー増し」と同義になっているが、本来のチャーシュー麺はただ単にチャーシューの枚数を増やしたチャーシュー増しではなく、チャーシュー麺用の特別なチャーシューが使われたものだった。

 チャーシューを作るとどうしても一本の中に美味しい部分とそうでない部分が出来る。その中でいわゆる「上」の部分はチャーシュー麺用として分けられ、「並」の部分が通常のラーメン用として使われていた。今でも老舗のラーメン店や町中華などの中には、仕込みの段階でチャーシューを選別している店がある。

ラーメンのチャーシューにもトレンドがある

昨今人気が高まっている吊るし焼きの燻製チャーシュー。
昨今人気が高まっている吊るし焼きの燻製チャーシュー。

 チャーシューと一言で言っても、使用する豚肉の部位や製法によって、その食感や味わいは異なる。店の数だけチャーシューがあると言っても過言ではないが、その時代や食の嗜好などが反映された一種の傾向や流行はある。チャーシューにもトレンドが存在するのだ。

 かつては豚バラ肉を巻いて柔らかく煮た「豚バラロールチャーシュー」が一世を風靡した。豚肉はどうしても煮てしまうと身が締まって食感が固くなってしまうが、脂身の多く原価も安いバラ肉を巻くことによって、今までにない柔らかな食感のチャーシューが可能になった。また、大きなサイズのチャーシューを作ることが可能になり、チャーシューに注目が集まる契機となったと言えるだろう。

 昨今ではフランス料理の技法である「真空調理法」を応用した低温調理チャーシューや、釜で吊るして炙り焼きにして香りをつける燻製チャーシューなどがトレンドとなっている。またオーブンにスチーム機能を加えた「スチームコンベクション」の小型化によって、厨房に導入しているラーメン店も増えつつあり、新たなスタイルのチャーシューが生まれつつある。

 たかがチャーシュー、されどチャーシュー。食の世界は知れば知るほど奥深く、知ったことによってその美味しさは増していくものだ。ラーメン店に行ったら、どんなチャーシューなのかを考えて食べてみると、また違った美味しさが発見できるかもしれない。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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