豚骨醤油でも平打ち麺でもなかった!? 今さら聞けない家系ラーメンの秘密
家系ラーメンは横浜にある一軒のラーメン店から始まった
今や全国的に人気を集めている「家系(いえけい)ラーメン」。豚骨醤油スープに鶏油を浮かべ、長さが短めの太麺を合わせ、具はチャーシュー、ホウレンソウ、海苔3枚というのが基本的な家系ラーメンのスタイル。麺の茹で加減やタレの濃さ、油の量などが自分好みに調整が出来、老若男女幅広い客層の支持を集めているラーメンだが、その発祥は神奈川県横浜市にある一軒のラーメン店だ。
その店の名前は『吉村家』(神奈川県横浜市西区岡野1-6-31)。1974(昭和49)年、磯子区新杉田の地に創業し人気店となり、1999年には西区南幸へ一度目の移転。そして、2023年3月に旧店舗から歩いて数分の場所に2階建の新店舗を構えた。移転後もその人気は変わらないどころか、以前よりも行列が増えているように感じる。創業から半世紀近く行列を作り続けているのは凄いことだ。
家系のスープの旨味は豚骨だけではない
『吉村家』創業者の吉村実さんは様々な仕事を転々とする中で、屋台のラーメンと出会い修業に入った。家系ラーメンの特徴でもある大量の豚ガラを使った濃厚なスープにキレのある醤油ダレの組み合わせは、創業者の吉村実さんが「九州の豚骨」と「東京の醤油」を合わせるという発想から生まれたものだった。
家系ラーメンのスープは営業中に骨を抜き差ししながら炊いていくのが基本。豚骨ラーメン店などでは営業前に骨を炊いてスープを完成させる店も少なくないが、家系ラーメンの場合は常に新しい骨が入っていることにより、フレッシュな骨の旨味と香りを表現出来るのだ。しかしスープの状態を安定させるには職人の経験や技術が必要となる。家系ラーメンのスープが難しいと言われる所以だ。
一般的には家系ラーメンのスープは「豚骨醤油」と称されることが多いが、厳密に言えば豚骨だけではなくて鶏も家系ラーメンには不可欠な要素だ。特に表面に浮かべる鶏油は家系ラーメンの味と香りを決める重要なパーツ。家系ラーメンは単なる豚骨醤油ラーメンではない。豚と鶏の両方の旨味が感じられてこそ、正しい家系ラーメンの姿なのだ。
麺は平打ち麺ではなくて細切り麺
麺も一般的には「太麺」「平打ち麺」と語られるが、『吉村家』をはじめとする総本山出身の店や流れを汲んでいる店で使われている麺は、厳密に言えば太麺でも平打ち麺でもない。『吉村家』などの家系ラーメンの多くは『酒井製麺』(東京都大田区)の麺を使用しているが、この麺の製法に秘密がある。
家系ラーメンや二郎ラーメンなどの麺は、通称「逆切り麺(縦切り麺)」と呼ばれるもの。一般的に中華麺は麺の厚さよりも麺を切り出す幅の方が太いが、逆切り麺の場合は麺の厚さの方が麺の幅よりも太い。どちらも一見平打ちの形状に見えるが、通常の麺よりも逆切りの麺の方が裁断された面が広いため、スープとの絡みが良くなり、茹で上がりも早くなるメリットがある。
また、家系ラーメン御用達の『酒井製麺』の麺にも種類があり、同じ家系ラーメンであっても使用している麺は違う。また『吉村家』をルーツに持たない店の場合は『酒井製麺』以外の製麺所の麺を使ったり、自家製麺の家系ラーメン店も増えている。中には数種類の麺を用意して好みで選べる店もある。
麺の茹で加減を聞く本当の理由とは?
家系ラーメン独特のシステムとして、味の濃さや油の多さ、麺の硬さなど好みを伝えてカスタマイズ出来る点がある。注文時に「お好みは?」と聞かれるので「味濃いめ、あとは普通」とか、「濃いめ、多め、硬め」などと言えば通じる。この中でポイントとなるのは麺の硬さだ。
『吉村家』などの流れを汲む家系の多くは、一般的なラーメン店のように一玉ずつ「振りざる(テボ)」に入れて茹でることはなく、大きな茹で窯に何玉分もの麺を一気に茹でる。それを「平ざる」を使って一玉分ごとに茹で上げるのだが、当然のことながら茹で時間に差が生まれる。それを逆手に取って好みの茹で加減を聞いて調整しているのだ。従って注文した全員が「硬め」を頼んだら、硬めの中の硬めや柔めが存在することになる。
今回は『吉村家』をはじめとする古くから愛されている家系ラーメンについて記したが、今や家系ラーメンは様々なスタイルやテイストのものも増えて、店ごとの個性が出てきている。一軒のラーメン店が生み出した一杯が、いまやラーメン界を代表するジャンルとなった。ぜひ色々な家系ラーメンを食べ歩いて、自分好みの家系ラーメンを見つけて欲しい。
※写真は筆者によるものです。
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