「拷問室へ向かう男」の写真公開に北朝鮮国民も驚愕
米国務省は今月22日に発表した「2023 国別人権報告書」で、北朝鮮国内において政権側による不法・恣意(しい)的な殺人、強制失踪、拷問、児童労働など非人道的行為がはびこっていると指摘した。
北朝鮮当局が国民に拷問を加えているとする証言は、枚挙にいとまがない。たとえば韓国の文在寅前政権が2019年に亡命を求めた脱北漁民2人を北朝鮮に強制送還した事件だ。
韓国統一省は2022年7月、送還時の様子を収めた写真10枚と4分ほどのビデオ映像を公開した。
北朝鮮の内部情報筋が韓国デイリーNKに伝えたところによると、北朝鮮当局は男性2人の身柄を黄海北道(ファンヘブクト)の沙里院(サリウォン)にある国家保衛省傘下の施設で拘束。情報筋によれば「保衛省は50日間にわたり、肉体的な苦痛を伴う取り調べを行った後、2人を処刑した」という。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
つまり同省が公開した写真と映像は事実上、この2人が、北朝鮮の「拷問室」へと引き立てられていく、まさにその姿を収めたものと言えるわけだ。写真と映像を見ると、漁民の1人は明らかに怯え、渾身の力で送還に抗っている。一方、もう1人はすべて諦めたかのように、淡々とした様子だった。
文在寅前政権と関係者らは当時から、漁民2人が船内で同僚の乗組員16人を殺害し、逃亡していた事実を北朝鮮側の通信を傍受するなどして把握。国内に迎えることはできないと判断し、送還を決断したと説明している。
ただ、犯行情報が事実であるかを確認するための調査が、十分に尽くされたかは疑わしい。現在の尹錫悦政権は、一連の事件に対する捜査を進め、徐薫(ソ・フン)元国家情報院の院長ら4人が起訴されている。
一方、北朝鮮当局はこの事件を大いに「活用」している。
当局は、思想教育の資料でこの事件に触れ、「脱北した裏切り者の末路」を見せることで国民の恐怖を煽った。北朝鮮の人々からは、「中国で捕まったというのなら理解できても、南朝鮮に入った人々が送り返されたというのは想像すらできないこと」との反応を示したという。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
金正恩体制が恐怖政治によって成り立っているのは周知のとおりだが、それがあまりに「当然」なことになってしまったために、諸外国にはこれを重大視しない傾向がある。だが、核開発の暴走を続ける金正恩体制を危険視するならば、体制を存続せしめているあらゆる横暴を、見過ごしてはならないと思う。