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海自イージス・システム搭載艦建造に3731億円、新型FFMに1740億円 来年度防衛予算の主な注目点

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
取得経費は1隻当たり約3920億円。イージス・システム搭載艦の能力(防衛省資料)

政府は12月22日、過去最大の7兆9496億円に及ぶ2024年度防衛予算案を閣議決定した。8月末に示された概算要求額は7兆7385億円だったが、これに実に2111億円が上積みされた。これで10年連続で過去最高額を更新した。

来年度は、昨年末に策定された政府の防衛力整備計画に基づき、5年間で総額約43兆円を投じる防衛力の抜本的強化の2年目に当たる。多額の予算を計上した注目の新規プロジェクトをまとめた。

●イージス・システム搭載艦、関連経費含めて計4546億円

防衛省は来年度から「イージス・システム搭載艦」2隻の建造に着手する。安倍政権が山口・秋田両県への配備を断念した迎撃システム「イージス・アショア」の代替策として導入する。このため、来年度予算に、その建造費など取得経費として3731億円を計上した。8月末の概算要求時の額は3797億円だったため、66億円ほど減額された。その理由について、防衛省は「イージス・システム搭載艦を建造する企業や米国と費用低減を調整した結果の合理化」と説明した。

取得経費3731億円に加えて、各種試験準備やテストサイトなどの運用支援設備といった関連経費として815億円(概算要求額約1100億円)も確保し、イージス・システム搭載艦の経費としては合計で4546億円を計上した。

●米海軍最新イージス艦の1.7倍

防衛省によると、イージス・システム搭載艦の大きさは全長190メートル、幅25メートル、基準排水量1万2000トン。これに対し、海自の最新鋭イージス艦まや型は全長170メートル、幅21メートル、基準排水量8200トンとなっている。また、米海軍の最新イージス艦「アーレー・バーク・フライトⅢ」と比べても、1.7倍の大きさになる。

米国におけるイージス艦建造状況(防衛省資料)
米国におけるイージス艦建造状況(防衛省資料)

イージス・システム搭載艦の乗組員は約240人となるが、これはまや型護衛艦の乗組員300人よりも2割ほど少なくなる。

イージス・システム搭載艦の主要兵装は、62口径5インチ砲1基を含め、まや型と類似している。30ミリの遠隔操縦機関砲も兵装される。

防衛省はイージス・システム搭載艦には長射程の12式地対艦誘導弾能力向上型(艦発型)、米国製巡航ミサイル「トマホーク」、迎撃ミサイルのSM-3ブロックIIAとSM-6が搭載されると説明した。

取得経費は1隻当たり約3920億円。イージス・システム搭載艦の能力(防衛省資料)
取得経費は1隻当たり約3920億円。イージス・システム搭載艦の能力(防衛省資料)

●イージス・システム搭載艦1隻当たりは約3920億円

防衛省は、2019年度から予算計上を始めたイージス・システム搭載艦1隻当たりの取得経費が合計で約3920億円に上るとの試算を公表した。こちらも概算要求時の約3950億円より30億円ほど減額された。

なお、財務省が10月にまとめた防衛予算資料では、イージス・システム搭載艦2隻の開発・建造費用が約7900億円(=概算要求時の1隻当たり3950億円×2)に達すると試算された。これは、まや型2隻の同費用の3243億円の約2.4倍に及ぶ。(下表参照)

海上自衛隊の最新鋭イージス艦まや型2隻とイージス・システム搭載艦2隻のライフサイクルコスト(LCC)分析比較(財務省資料)
海上自衛隊の最新鋭イージス艦まや型2隻とイージス・システム搭載艦2隻のライフサイクルコスト(LCC)分析比較(財務省資料)

●財務省、さらなるコスト増大の可能性を指摘

さらに、運用維持費を合わせた30年あるいはそれ以上の期間の総コスト「ライフサイクルコスト(LCC)」は、まや型2隻が8328億円なのに対し、イージス・システム搭載艦2隻は少なくともまや型2隻程度の費用は発生する見込みと財務省は説明。そして、当初陸上配備型のイージス・アショアでの運用を想定していた米ロッキード・マーチン社製のレーダー「SPY(スパイ)7」をイージス・システム搭載艦に転用するという異例の事態を受け、「SPY7レーダーをイージス艦に搭載するという世界初の試みに伴い、イージス・システム開発・維持費は新規コストや予見できないリスクへの対応コストが発生する可能性」を指摘し、さらなるコスト増大に警鐘を鳴らした。

イージス・システム搭載艦2隻のライフサイクルコスト(LCC)が増加するリスクの背景要因(財務省資料)
イージス・システム搭載艦2隻のライフサイクルコスト(LCC)が増加するリスクの背景要因(財務省資料)

イージス・システム搭載艦をめぐる将来のコスト増大が懸念される中、木原稔防衛相と鈴木俊一財務相は19日に大臣折衝を開催した。イージス・システム搭載艦について、①実効的なプロジェクト管理体制の構築を図ること、②イージス艦のこんごう型4隻の更新など今後イージス艦を取得・更新する場合にはその搭載レーダー選定について白紙的に検討することで一致した。

こんごう型は、米海軍が誇るイージス艦のアーレイ・バーク級駆逐艦をモデルとして海上自衛隊が1993年に初めて導入したイージス艦だ。搭載レーダーにはロッキード・マーチン社の旧型のAN/SPY-1を使用している。財務省は、このこんごう型の後継となるイージス艦のレーダーとして、コスト増大が想定されるイージス・システム搭載艦向けのSPY-7レーダーを前提にするのではなく、「白紙的に検討する」ことを防衛省に求めることで、レイセオン社のSPY6レーダーの採用も視野に入れるよう防衛省に釘を刺したとみられる。なぜならば、大きな理由としては、日米同盟強化の方針下で米海軍との相互運用性が求められる中、上記の財務省の資料にあるように、米海軍の次期イージス艦にも導入実績のあるSPY6レーダーが採用される予定だからだ。かりにこんごう型後継艦にSPY7レーダーを採用することになればコスト減に向けたスケールメリット(規模効果)が働きにくくなる。

海上自衛隊は、2027年度にイージス・システム搭載艦1番艦、2028年度に2番艦をそれぞれ就役させる予定だ。

●海上自衛隊「新型FFM」2隻の建造に1740億円

防衛省は、海自のもがみ型護衛艦「FFM」の能力向上型となる新型FFMを計12隻建造する。

もがみ型は2023年度計画艦までの計12隻で建造を終了する。2024年度計画艦から新型FFMが計12隻建造されることになる。来年度予算では2隻の建造に1740億円(概算要求額1747億円)を計上した。2028年度に配備される予定だ。

もがみ型は、平時の監視警戒といったこれまでの護衛艦運用に加え、有事には対潜戦、対空戦、対水上戦などにも対処できる新艦種の多機能護衛艦(FFM)だ。海自護衛艦として初の対機雷戦能力を有する。

もがみ型護衛艦1番艦もがみ。もがみ型は船体表面の凹凸を減らし、敵の対艦ミサイルなどに探知されにくいステルス性の形状を備える(海上自衛隊横須賀地方隊)
もがみ型護衛艦1番艦もがみ。もがみ型は船体表面の凹凸を減らし、敵の対艦ミサイルなどに探知されにくいステルス性の形状を備える(海上自衛隊横須賀地方隊)

防衛省によると、新型FFMには12式地対艦誘導弾能力向上型(艦発型)や新艦対空誘導弾といった長射程ミサイルが搭載される。対潜戦能力も強化される。各種海上作戦能力が向上する。対空戦能力と捜索能力が向上した新型FFMは簡易ミサイル・フリゲート(FFG)化すると言える。

防衛省は8月31日発表の概算要求時には、新型FFMの基準排水量が4500トンと発表していたが、12月22日発表の防衛予算資料ではそれを4800トンに修正した。

一方、8月25日に防衛省が公表した三菱重工業の新型FFMの提案概要によると、基準排水量は約4880トン、全長は約142メートル、最大幅は約17メートル、最高速度は30ノット以上となっており、結局、実物はこれに近い船体サイズに落ち着くようだ。

いずれにせよ、新型FFMはもがみ型(全長133メートル、最大幅16.3メートル、基準排水量3900トン)よりも大型化する。

新型FFMに関する三菱重工業の概要提案。防衛省は8月25日に主契約者に三菱重工業、下請負者にジャパンマリンユナイテッドにそれぞれ決定した(防衛省資料)
新型FFMに関する三菱重工業の概要提案。防衛省は8月25日に主契約者に三菱重工業、下請負者にジャパンマリンユナイテッドにそれぞれ決定した(防衛省資料)

●電子作戦機の開発に141億円

防衛省は、複雑化する電子戦環境に対応し、領域横断作戦に必要な電磁波領域の能力強化を図るために、電子作戦機を開発する。141億円を投じる。今夏の概算要求額は140億円とほぼ同額だった。川崎重工業の固定翼哨戒機(MPA)のP-1をベースに開発される。2033年度での開発完了を目指している。

哨戒機「P-1」(出典:海上自衛隊ホームページ)
哨戒機「P-1」(出典:海上自衛隊ホームページ)

●GPIの日米共同開発に757億円

GPIとはGlide Phase Interceptorの略語で、マッハ5以上で飛行する極超音速滑空ミサイルを迎撃する滑空段階迎撃用誘導弾のことだ。来年度から757億円を投じて日米共同開発に着手する。概算要求額は750億円だった。防衛省によると、両国は2030年代前半にこの開発を完了する計画だ。

日米が2030年代前半での開発完了を目指すGPIのイメージ図(レイセオン)
日米が2030年代前半での開発完了を目指すGPIのイメージ図(レイセオン)

●新地対艦・地対地精密誘導弾の開発に323億円

防衛省は、現在開発中の「12式地対艦誘導弾」能力向上型の先を行く次世代ミサイルとして、この新たな地対艦・地対地精密誘導弾を来年度から開発する。来年度は323億円を投じる。概算要求額は320億円だった。既存のミサイルよりも射程がはるかに長くなる。防衛省は「長距離飛しょう性能、精密誘導性能など対艦・対地対処能力を向上した新たなスタンド・オフ・ミサイル」と説明し、島しょ部防衛対処に十分なミサイルとして開発する予定。2030年度での開発完了を目指す。

川崎重工業は、今年3月中旬に日本で開催された日本最大の防衛装備品の見本市「DSEI JAPAN」で、長射程巡航ミサイルである新地対艦ミサイル(新SSM)の模型を公開した。同社がこの新地対艦・地対地精密誘導弾の開発・製造を担っていくとみられる。

(関連記事:国産トマホーク計画が完全復活、防衛省が「12式地対艦誘導弾」能力向上型の先を見据えて川崎重工業と契約

今年3月中旬に日本で開催された防衛装備品の見本市「DSEI JAPAN」で川崎重工業が展示した長射程巡航ミサイルである新SSMの模型(高橋浩祐撮影)
今年3月中旬に日本で開催された防衛装備品の見本市「DSEI JAPAN」で川崎重工業が展示した長射程巡航ミサイルである新SSMの模型(高橋浩祐撮影)

●機動舟艇3隻の取得に173億円

防衛省は、南西諸島の島しょ部などに部隊を迅速かつ確実に輸送できる能力を確保するため、来年度中に機動舟艇3隻を取得する。概算要求時の173億円が満額認められた。全長は35メートルの小さな艦艇になるという。

機動舟艇のイメージ(防衛省資料)
機動舟艇のイメージ(防衛省資料)

防衛省は競争入札を実施する予定だ。

2025年3月に陸海空合同の「自衛隊海上輸送群」(仮称)が海自呉基地に新設される予定で、機動舟艇は同基地に配備される。この輸送群には陸海空から計約100人が加わる予定だ。

●新型補給艦1隻の建造に830億円

新型補給艦のイメージ図(防衛省資料)
新型補給艦のイメージ図(防衛省資料)

防衛省は、あらゆる事態において護衛艦などの任務継続のため、海上での後方支援能力を強化した1万4500トンの補給艦を新たに建造する。830億円を投じる。概算要求額は825億円だった。補給艦「とわだ」の後継艦となる。2028年度に取得し、配備する予定だ。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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