海自新型FFMは12隻を建造へ 2024年度防衛予算概算要求の主な注目点
防衛省は8月31日、過去最大の7兆7385億円に及ぶ2024年度防衛予算の概算要求を決定した。年末の予算編成で正式に予算案が決まる予定だ。主な注目点をまとめた。
●海上自衛隊「新型FFM」2隻の建造に1747億円
防衛省は、海上自衛隊のもがみ型護衛艦「FFM」の能力向上型となる新型FFMを計12隻建造すると公表した。
もがみ型は年2隻というハイペースで建造が進められ、当初は計22隻が建造される計画だった。しかし、もがみ型は令和5(2023)年度計画艦までの計12隻で建造を終了する。令和6(2024)年度計画艦から新型FFMが計12隻建造されることになる。来年度予算では2隻の建造に1747億円を要求した。令和10(2028)年度に配備される予定だ。
もがみ型は、平時の監視警戒といったこれまでの護衛艦運用に加え、有事には対潜戦、対空戦、対水上戦などにも対処できる新艦種の多機能護衛艦(FFM)だ。海自護衛艦として初の対機雷戦能力を有する。
防衛省によると、新型FFMには12式地対艦誘導弾能力向上型(艦発型)や新艦対空誘導弾といった長射程ミサイルが搭載される。対潜戦能力も強化される。各種海上作戦能力が向上する。防衛省と海上自衛隊は垂直発射システム(VLS)のセル数については、回答を控えた。なお、VLSが後日装備ではなく、竣工時から設置されているのは令和5年度計画艦からとなっている。
新型FFMについて、防衛省担当者は「長射程ミサイルの搭載、対潜機能の強化を行っていくことを念頭に置いている。将来の能力向上を容易に行える各調整などを考えている」「対潜能力としては、これまでのものよりも探知能力が向上したソナーシステムを採用し、平時の警戒監視能力の向上や有事における対潜戦の能力向上を予定している」と述べた。
対空戦能力と捜索能力が向上した新型FFMは簡易ミサイル・フリゲート(FFG)化したと言えるだろう。
海自関係者は「ユニコーンマストの下部のレーダー配置にヒントがあるように感じる。ミサイル管制装置を独立させたのは今後搭載を予定しているミサイルに対応させるためでしょう」と指摘した。
さらに「もがみ型のCIC(戦闘指揮所)に設置されている360度光学モニターの視野がマストを高くすることによりさらに広がる」とも指摘した。
防衛省が8月31日に公表した概算要求資料によると、新型FFMの基準排水量は4500トン。一方、8月25日に防衛省が公表した三菱重工業の新型FFMの提案概要によると、基準排水量は約4880トン、全長は約142メートル、最大幅は約17メートル、最高速度は30ノット以上となっている。
この違いについて、防衛省は「どちらも確定的な数値ではなく、性格の違う数値である」と説明した。具体的には「4500トン」が「企画提案を始めるにあたり、官側が求める性能に基づく規模感を示した概数」と説明。その一方、「約4880トン」は「提案企業に対し、基準排水量の制限を設けていないため、提案企業は自由に提案することが可能」とし、「結果として、主契約者に決定された三菱重工業が提案した艦の基準排水量」の数値を公表したという。
いずれにせよ、新型FFMはもがみ型(全長133メートル、最大幅16.3メートル、基準排水量3900トン)よりも大型化する。
とはいえ、防衛省は新型FFMの乗組員数はもがみ型と同じわずか90人にとどまると述べた。海自関係者は「省力化、省人化が最大の課題です。増加したスペース配分をどのように活用できるでしょうか?」と述べた。
●イージス・システム搭載艦2隻の取得経費に約3800億円
防衛省は来年度予算で、安倍政権下で断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策として導入する「イージス・システム搭載艦」2隻の建造費として約3800億円を計上した。これに加えて、各種試験準備やテストサイトなどの運用支援設備、システム技術教育などの関連経費として約1100億円を要求しており、イージス・システム搭載艦の経費としては合計で約4900億円を計上した。
防衛省はイージス・システム搭載艦の大きさは全長190メートル、幅25メートル、基準排水量1万2000トンと説明した。これに対し、まや型イージス艦2隻は全長170メートル、幅21メートル、基準排水量8200トンとなっている。
防衛省は、イージス・システム搭載艦の船体サイズは米海軍の最新イージス艦「アーレー・バーク・フライトⅢ」の1.7倍になると指摘した。
イージス・システム搭載艦の乗組員は約240人となるが、これはまや型駆逐艦の乗組員300人よりもはるかに少ない。
海上自衛隊は、2027年度にイージス・システム搭載艦1番艦、2028年度に2番艦をそれぞれ就役させる予定だ。
防衛省は、イージス・システム搭載艦1隻当たりの取得経費が約3950億円に上るとの試算を公表した。
(関連記事:三菱重工、ドローンを撃墜する高出力レーザー装置の実物初公開)
イージス・システム搭載艦の主要兵装は、62口径5インチ砲1基を含め、まや型と類似している。30ミリの遠隔操縦機関砲も兵装される。
防衛省はイージス・システム搭載艦には長射程の12式地対艦誘導弾能力向上型(艦発型)、米国製巡航ミサイル「トマホーク」、迎撃ミサイルのSM-3ブロックIIAとSM-6が搭載されると発表した。
●電子作戦機の開発に140億円
防衛省は、複雑化する電子戦環境に対応し、領域横断作戦に必要な電磁波領域の能力強化を図るために、電子作戦機を開発する。川崎重工業の固定翼哨戒機(MPA)のP-1をベースに開発される。令和15(2033)年度での開発完了を目指している。
●GPIの日米共同開発に750億円
GPIとはGlide Phase Interceptorの略語で、マッハ5以上で飛行する極超音速滑空ミサイルを迎撃する滑空段階迎撃用誘導弾のことだ。防衛省によると、両国は2030年代前半にこの開発を完了する計画だ。
防衛省によると、米国では今、レイセオンとノースロップの2社と契約の上で、両社を競合させてコンセプト検討などを実施中で、高性能で低コストのGPIを開発することを目指している。開発段階でその2つのコンセプトから1つを決定する。その決定を行うのが2030年ごろと言われている。
防衛省は、今回要求した750億円がGPIの基本設計段階の2つのコンセプトにおいて、日本側が担当する部位の試作や製造、試験のための経費だと説明した。しかし、両社どちらかの選定結果にもより、全体的な経費は未定のままだと述べた。
その上で、防衛省担当者は「あくまで予定だが、日本側はロケットモーター(1段目)とかキルビークル(2段目)の推進装置を主に担当する予定。2030年代前半での開発完了を目指している。部隊配備はまだ先のことで時期は決まっていない」と述べた。
●新地対艦・地対地精密誘導ミサイルの開発に320億円
防衛省は2030年度を目標にこの新たなミサイルを開発する予定で、既存のミサイルよりも射程がはるかに長くなる可能性が高い。「長距離飛しょう性能、精密誘導性能など対艦・対地対処能力を向上した新たなスタンド・オフ・ミサイル」と説明し、島しょ部防衛対処に十分なミサイルを開発する予定。
川崎重工業は、今年3月中旬に日本で開催された日本最大の防衛装備品の見本市「DSEI JAPAN」で、長射程巡航ミサイルである新地対艦ミサイル(新SSM)の模型を公開した。このミサイルが関係している可能性が極めて高い。
(参考記事:国産トマホーク計画が完全復活、防衛省が「12式地対艦誘導弾」能力向上型の先を見据えて川崎重工業と契約)
●機動舟艇3隻の取得に173億円
防衛省は、南西諸島の島しょ部などに部隊を迅速かつ確実に輸送できる能力を確保するため、来年度中に機動舟艇3隻を取得する。全長は35メートルになるという。
防衛省は予算を確保したうえで、競争入札を実施する予定だ。
2025年3月に陸海空合同の「自衛隊海上輸送群」(仮称)が海自呉基地に新設される予定で、機動舟艇は同基地に配備される。この輸送群には陸海空から計約100人が加わる予定だ。
●新型補給艦1隻の建造に825億円
防衛省は、あらゆる事態において護衛艦などの任務継続のため、海上での後方支援能力を強化した1万4500トンの補給艦を新たに建造する。補給艦「とわだ」の後継艦となる。令和10(2028)年度に取得し、配備する予定だ。
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