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なぜ鉄道会社は自由席を廃止していくのか? 本当の理由は・・・

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

ゴールデンウィークがいよいよ始まります。

去年はまだコロナが明ける前でしたが、今年のゴールデンウィークは行動制限が解除されて迎えるため、各地で混雑が予想されています。

去年までと違うのは鉄道会社が各社揃って自由席をやめて全車指定席として走らせる列車が多くなってきていることだと思います。

東海道・山陽新幹線の「のぞみ」はすでに今日から全車指定席で運転されていますし、在来線でも会社別にみると、

「JR北海道」

・北斗 札幌~函館

・すずらん 札幌~東室蘭・室蘭

・おおぞら 札幌~釧路

・とかち 札幌~帯広

「JR東日本」

・しおさい 東京~佐倉・成東・銚子

・わかしお 東京~茂原・上総一ノ宮・勝浦・安房鴨川

・さざなみ 東京~木更津・君津

「JR東海・西日本」

・しらさぎ 名古屋~敦賀

「JR西日本」

・やくも 岡山~出雲市

・スーパーいなば 岡山~鳥取

・スーパーはくと 京都~倉吉

・サンダーバード 大阪~敦賀

の各列車が、自由席の連結をやめて全車指定席として運転します。

でも、なぜ鉄道会社は自由席を廃止して全車指定席にしていくのでしょうか。

混乱を避けるため

鉄道会社はどこもそのような見解を示しています。

では、その混乱というのは何でしょうか?

・当日駅の窓口で切符を買うことを避けていただく

自由席のお客様は当日駅の窓口で切符を買われる傾向があります。現在全国的にオンラインで切符を買っていただく傾向にあり、順次窓口の数を減らしてきているのはご存じのことと思いますが、自由席特急券をお買い求めになるお客様に窓口に並んでいただきたくないというのが本音でしょう。

・ホームでの長蛇の列を避ける

新幹線のように頻繁に列車が発車する駅では「先発列車」「次発列車」など、乗車口に案内が書かれているのを目にしますが、自由席のお客様というのは、先着順に席に座れることから、発車時刻のかなり前からホームに並ばれる傾向があります。これに対して、指定席のお客様というのは、座席が確保されているのですから長時間並ぶことはありません。

多客期の輸送ではホームでの安全確保や混雑を避ける必要性が特に高まることから、自由席乗車口に長蛇の列になるのを避けることが必要になります。

実は一番のネックが車内での混乱

指定席車両は基本的には座席定員分の乗客を乗せますが、自由席車両は乗せられるだけ乗せるという原則があります。

そこで問題になるのは乗客があふれかえることです。

年末年始やゴールデンウィークなどの多客期によくみられるのは、自由席に乗り切れず列車が遅れてダイヤが乱れたり、車内が大混乱することです。

車掌が車内を巡回して切符類をチェックして回ることもできなくなります。

中には切符を買わずに乗っている人もいるかもしれませんが、指定席と違ってチェックの方法がありませんね。

こういう場合は鉄道会社は解決策として自由席旅客の指定席車両への誘導を行います。これは現場からの情報に基づいて指令所が各駅、各列車に対して「指定席誘導」を許可するもので、自由席のお客様を指定席への乗車にご案内いただくことで、何とか全員にお乗りいただこうとするものです。

自由席のお客様を指定席に誘導といっても座席は指定席ですから座ることはできません。通路やデッキにお立ちいただくことになるのですが、その時点で空席があれば人間の心理として座りたくなりますよね。でも、途中駅からお客様がご乗車になられて「そこは私の席だ。」となるのですからトラブルの原因にもなりかねません。旅客案内係の車掌は通常の人員で運行していますから、自由席を廃止することで、できるだけ車内でのトラブルを避けたい狙いがあります。

自由席では満席に乗せることは難しい

ここが意外とネックなのですが、自由席車両では座席の数通りのお客様を乗せることは難しいものがあります。一人で2席占有したり、あるいは切符が不要な未就学児童を席に座られせたりするお客様が多くいらっしゃいます。

窓側に座って通路側の座席に荷物を置くのはまだ良い方で、中には通路側に座って窓側に荷物を置いている確信犯的な人もいて、絶対に隣には座らせないぞというオーラが出ていますね。

あるいは3人グループで座席を向かい合わせにして4席使っていたり、新幹線のABC3列席に夫婦と赤ちゃんで3席使っていたりなど、いろいろなケースが見られます。

車掌が車内アナウンスで「座席の上には荷物は置かず、一人でも多くの方がお座りになれるようにご協力を」を何度も言っていますが、そういうタイプの人たちは聞く耳持たずですからたいていは知らん顔ですし、注意しようものならトラブルの原因にもなりかねませんから、つまりはそういう座席の利用の仕方をやめていただくためには自由席を廃止して指定席にするというのが一つの方法でもあるのです。

もともと特急列車は全車指定席が基本でした。

特急列車はもともとは特別急行列車。全席指定が基本の列車でした。これに対して急行列車というのが一般的だったのが国鉄時代の列車の階級制度でした。ところが昭和40年代に大きな赤字を抱えた国鉄が増収のために急行列車を順次廃止して特急列車を増発させていきました。

急行料金より特急料金の方が高いですから増収につながるという安易な考え方でした。

当然、急行列車の乗客たちは今までと同じ区間をより高い料金を払って特急に乗らなければならなくなったのですが、そのクレームを避けるために自由席車両を設け、少し割り引いた自由席特急券というものを発売開始したのです。

筆者はその時代を身を持って体験してきていますが、自由席に座れなかった乗客たちはどこへ行くかというと食堂車へ向かいます。そして、ビールやお酒、簡単なおつまみ類だけを注文して長時間食堂車で粘るのです。そうなると本来食事時間だけ食堂車にくる指定席の乗客へのサービスができなくなりますし、食堂車自体の売り上げも伸びません。筆者の経験では特急列車に自由席車両を設定したことが食堂車の廃止につながったと考えていますが、当時の国鉄は赤字解消のために一人でも多くの乗客を乗せることが最大の使命でしたから、食堂車を外して座席車を連結するという方針になっていきました。この辺りがJR各社の現状と当時の状況との違いかもしれませんね。

鉄道が身近でなくなってきた時代への対応

鉄道というのは駅へ行って切符を買って乗る。

昭和の時代からこれが当たり前でした。

庶民の身近な乗り物が鉄道だったのです。

ところが最近は少し変わってきていますね。

駅へ行っても切符を売ってない時代ですし、前もって準備しないと列車には乗れない時代になってきたようです。

でも、これは鉄道だけの話ではなくて、飛行機も時代とともに変化しています。

昔は飛行機に乗るためにはあらかじめ町中にある旅行会社の窓口へ行って航空券を発券してもらい、空港に早めに行ってチェックインをしていました。早めに行かないと希望の座席が取れませんから皆さん早めに空港へ行きます。そうなると空港で時間ができますから、空港というところにはレストランが数件入っていて、どこも賑わっていました。

今はどうでしょうか?

航空券? そんなものはありませんから旅行会社へも行きません。座席も事前に自分で好みの席を指定できますし、空港に到着したらチェックインカウンターなどに並ぶこともなく直接保安検査場を通ってゲートに向かいますね。だから空港のレストランは次々に閉店してしまう時代になりました。

高速バスだってスマホで予約して、乗り口でそのスマホの画面を見せれば乗ることができます。

このように飛行機やバスは過去20~30年間で大きく変化してきましたが、鉄道だけがほとんど変わることなく昭和のスタイルで営業を続けて来ていたのです。

ここに来てコロナがあって、さらに人手不足の時代となって、一気に変わろうとしているのが鉄道会社ですから、現時点ではシステムも十分ではありませんし、第一お客様が混乱しています。これが鉄道会社の現状なのですが、飛行機やバスがそうだったように、いずれ鉄道も間に紙や人を介さない時代がやってくることは間違いありません。

すでに日々利用している大都市圏の電車では、切符などというものはほとんど使わなくなりましたし、改札口に人がいるという光景も過去のものになっています。

同じように、長距離移動の新幹線や特急列車もそのようになっていくのが時代の流れだと筆者は考えます。

ただ、変化のスピードが少し速すぎて、年に数回しか利用しないような長距離輸送では戸惑いが生じているのかもしれませんが、本来の目的は自由席を廃止して全車指定席にすることで、各種考えられる多客時の混乱を避けるためというのが鉄道会社の意図するところなのです。

事前に調べて上手に使えば、自由席よりも割安な、あるいはほとんど金額が変わらない指定席もたくさん出ています。

自由席よりも指定席の方がいろいろな意味で快適なのは目に見えていますから、あらかじめ座席が確保できている指定席という制度を上手に使って、皆様方が快適なご旅行ができますことを願っております。

※写真はすべて筆者撮影のものです。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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