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国産トマホーク計画が完全復活、防衛省が川崎重工業と契約 「12式地対艦誘導弾」能力向上型の先見据える

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
防衛装備庁が研究事業を進める「島嶼防衛用新対艦誘導弾」(新SSM)(防衛省資料)

防衛省は6日、相手の脅威圏外から発射できる「スタンド・オフ・ミサイル」に関する事業の進捗状況を発表した。この中で、川崎重工業と「島嶼(とうしょ)防衛用新対艦誘導弾」の技術研究として今年度から2027年度までの5年間で約339億円の契約を交わしたことを公表した。そして、早期装備化の方針を明らかにした。

このミサイル(誘導弾はミサイルと同義)は、燃費に優れる小型のターボファンエンジンを推進装置とし、飛行機のように翼を有して水平飛行する。射程、形状、性能の面で米国の巡航ミサイル「トマホーク」と共通点が多いことから、「国産トマホーク」「日本版トマホーク」と位置づけられてきた。陸上自衛隊が2012年度から調達を開始した三菱重工業製の「12式地対艦誘導弾(12式SSM)」に対し、川崎重工業製のこの新型巡航ミサイルは「新地対艦ミサイル(新SSM)」と呼ばれてきた。

しかし、菅義偉内閣が2020年12月、12式SSMの能力向上型の開発を閣議決定した。これを受け、政府は2021年度予算にその開発費用として335億円を計上した。さらに、早期配備が可能な米国製トマホークの調達や極超音速ミサイルの研究開発が進んでいることから、新SSM=国産トマホークの装備化は立ち消えになったとの観測が出ていた。

ところが、防衛装備庁担当者は6日、新SSM装備化についての筆者の質問に対し、「我々としては可能な限り、速やかに装備化したい。今研究をしている弾そのものが、即装備化されるわけではないのかなと思っているが、いずれは可能な限り早く装備化したいとの考えの下、研究をして技術的な蓄積を図っていこうとする段階にある」「(新SSMは)12式SSM能力向上型の先を見据えたもの」などと述べた。

これは国産トマホーク計画が完全復活した格好だ。政府は昨年12月、防衛力の抜本的強化に向け、今年度から5年間の防衛費の総額を43兆円程度とすることを閣議決定。過去最大の防衛費の増額がかなったことから、新SSMを含め、少しでも多くの長射程巡航ミサイルの研究開発を改めて推進することになったとみられる。

●新SSMの要素技術の研究内容とは

防衛省は2018年度から、中国を念頭に置いた南西諸島の防衛を主な目的として、この新SSMの要素技術の研究に着手した。ここで言う「要素技術」とは、長射程化技術や高機動化、ミサイルの残存性向上のためのレーダー反射断面積(RCS)の低減化を図るステルス技術などを指す。島嶼防衛用と名付けられているものの、新SSMが想定する射程は2500キロもあり、西日本から発射すれば中国の内陸部にあるミサイル基地にも届く長射程ミサイルだ。

新SSMの研究をめぐっては、読売新聞が今年1月17日、「政府は、通常の攻撃用に加え、敵の偵察、防空妨害用の計3種の弾頭を交換可能な新型巡航ミサイルを開発する方針を固めた」と報道。これを受け、浜田靖一防衛相も同日の記者会見で、「本研究はこれまでの要素技術の研究で得られた長射程化技術、高機動化技術といった研究成果を活用しつつ、将来の拡張性を有したモジュール化による多機能性を持つ、対艦誘導弾のプラットフォームの確立を目指すもの」と説明した。

今年度予算では、モジュール化したシーカーや弾頭、多機能性を持つ対艦誘導弾のベースとなるプラットフォームの設計、試作品を製造するための経費として342億円を計上した。シーカーや弾頭をモジュール化することで、目的に応じて新型ミサイルに載せ替えることができる。

防衛装備庁担当者は「現時点において(新SSMの)装備化が具体的に決まっている訳ではない。これは変わっていない。一方で、いつまでもダラダラと研究をやっていていいというものでもない。今回の契約でモジュール化をしてプラットフォームを完成させようとする段階まで来ている。可能な限り実用化を目指していく」と述べた。

川崎重工業は、今年3月中旬に日本で開催された日本最大の防衛装備品の見本市「DSEI JAPAN」で、長射程巡航ミサイルである新SSMの模型を公開した。

今年3月中旬に日本で開催された防衛装備品の見本市「DSEI JAPAN」で川崎重工業が展示した長射程巡航ミサイルである新SSMの模型(高橋浩祐撮影)
今年3月中旬に日本で開催された防衛装備品の見本市「DSEI JAPAN」で川崎重工業が展示した長射程巡航ミサイルである新SSMの模型(高橋浩祐撮影)

防衛省が6日に発表した4つのスタンド・オフ・ミサイル事業の進捗状況は、以下のようになっている。開発完了時期は、極超音速誘導弾が2031年度末、島嶼防衛用高速滑空弾の能力向上型が2030年度末、目標観測弾が2026年度末をそれぞれ目指している。防衛省は開発完了後、速やかに量産、配備を目指す方針だ。なお、島嶼防衛用高速滑空弾の能力向上型ではない早期配備型は今年度から量産が始まっている。

①極超音速誘導弾の研究

 契約年月日:2023年4月27日

 契約相手:三菱重工業

 契約額:584億円

極超音速誘導弾の研究について(防衛省資料より)
極超音速誘導弾の研究について(防衛省資料より)

②島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)の開発

 契約年月日:2023年6月1日

 契約相手:三菱重工業

 契約額:2003億円

島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)の開発について(防衛省資料より)
島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)の開発について(防衛省資料より)

③目標観測弾の開発

 契約年月日:2023年6月2日

 契約相手:三菱重工業

 契約額:221億円

目標観測弾の開発について(防衛省資料より)
目標観測弾の開発について(防衛省資料より)

④島嶼防衛用新対艦誘導弾の要素技術の研究

 契約年月日:2023年6月2日

 契約相手:川崎重工業

 契約額:339億円

島嶼防衛用新対艦誘導弾の要素技術の研究について(防衛省資料より)
島嶼防衛用新対艦誘導弾の要素技術の研究について(防衛省資料より)

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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