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イスラエルとハマースの戦闘休止への違反を誘う動き:「何者か」がシリアで「イランの民兵」を爆撃

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

ヶ所

11月24日に発効したイスラエルとパレスチナのハマースの戦闘休止は2日の延長が合意され、双方による人質・囚人交換が続けられることになった。これにより、ガザ地区への攻撃、そしてレバノン南部・イスラエル北部での戦闘は小康状態が維持されることになった。

イスラエルによるガザ攻撃開始以降、パレスチナ人の抵抗を支持するとして、イスラエル、そしてシリアとイラク領内の米国基地に対する攻撃を続けてきたイラク・イスラーム抵抗(イラク人民動員隊の急進派)、レバノン・イスラーム抵抗(ヒズブッラー)、アンサール・アッラー(俗称はフーシー派)は、イスラエルとハマースの戦闘休止に準じるかたちで、事態を静観している。

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「イランの民兵」への爆撃

だが、「抵抗の枢軸」、あるいは「イランの民兵」などと総称されるこれらの組織の戦闘休止合意違反、つまりはイスラエルへの攻撃再開を誘発するような挑発、あるいは威嚇が11月29日に「何者か」によって行われた。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、シリア東部のダイル・ザウル県では、所属不明の無人航空機(ドローン)1機が、シリア政府の支配下にあるユーフラテス川西岸に飛来し、イラク国境に面するブーカマール市近郊で軍用車輛1台を爆撃、4人を殺害したのだ。

同監視団によると、4人のうち1人はイラク人、3人は「イランの民兵」とともに活動する国防隊(親政権の民兵・准軍事組織)のメンバーで、遺体はいずれも焼け焦げ、損傷が激しかったという。

爆撃を行った戦闘機の所属は不明だが、これまでに同地に対して有人・無人機によって爆撃を行ったことがあるのは、イスラエルと米主導の有志連合以外にはない。

なお、この爆撃の直後、米軍(有志連合)は、ダイル・ザウル県のユーフラテス川東岸でシリア政府が掌握している7町村(サーリヒーヤ村、ハトラ村、ムッラート村、スブハ村、マズルーム村、フシャーム町、タービヤト・ジャズィーラ村)の一つであるムッラート村一帯を砲撃した。また、7町村に接するダイル・ザウル民政評議会(クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治体政体の北・東シリア自治局の傘下機関)の支配地で厳戒態勢を敷き、パトロールを実施したほか、同地上空でドローンを旋回させた。

きっかけは所属不明の戦闘機の爆撃

ハマースの「アクサー大洪水」作戦開始(10月7日)から11日を経た10月18日、「イランの民兵」は、イスラエルのガザ地区への攻撃とパレスチナ人への犯罪行為に報復するとの名目で、イラク領内の米軍基地に対する攻撃を開始、19日には米国がシリア領内に違法に設置している基地をも標的とするようになった。

「ガザの復讐」などと称されるこの攻撃もまた、それに先立って「何者か」による挑発が行われていたことは看過すべきではない。すなわち、10月10日には「イランの民兵」が活動するブーカマール市一帯が所属不明の戦闘機の爆撃を受け、また17日にも同市近郊のサーリヒーヤ町一帯がドローンの攻撃を受けていたのだ。

米軍基地に対する一連の攻撃に対して、米軍は10月27日、11月9日、13日、22日にシリアとイラクで、イラン・イスラーム革命防衛隊とその関連組織の施設を狙って爆撃を行ったと発表している。それらは自衛のための爆撃だとして正当化されているが、事態の推移を注視すると、「イランの民兵」による米軍基地への攻撃は、「何者か」による攻撃へのリアクションであることが分かる。

なお、「アクサーの大洪水」作戦開始とイスラエルのガザ攻撃以降、「イランの民兵」と、「何者か」を含む米軍(有志連合)の攻撃の応酬は以下の通りである。

  • 10月10日、シリアのダイル・ザウル県ブーカマール市に近いハリー村にある鉄道通行所で「イランの民兵」の車列、ブーカマール市一帯(グリーン・ベルト地帯)のイラン・イスラーム革命防衛隊の陣地複数ヶ所、パレスチナ人民兵組織のクドス旅団の陣地1ヶ所、イラクのアンバール県のカーイム国境通行所に近いハズィーバ地区が所属不明の戦闘機の爆撃を受ける。
  • 10月17日、ブーカマール市近郊のサーリヒーヤ町一帯にある「イランの民兵」の陣地1ヶ所と四輪駆動車1台が所属不明のドローンの爆撃を受ける。
  • 10月18日深夜~19日未明、イラン・イスラーム抵抗はイラクのアンバール県にあるアイン・アサド米軍基地をロケット弾で攻撃したと発表。
  • 10月18日深夜~19日未明、イラクのスライマーニーヤ県にあるハリール米軍基地がドローンとロケット弾による攻撃を受ける。
  • 10月19日、イラン・イスラーム抵抗はシリアのヒムス県タンフ国境通行所の米軍(有志連合)基地をドローンで爆撃したと発表。
  • 10月19日、ダイル・ザウル県アブー・ハシャブ村近郊の砂漠地帯で、ウマル油田とCONOCOガス工場を結ぶパイプラインが攻撃を受け、大きな爆発が発生。
  • 10月19日、米軍基地(グリーン・ヴィレッジ基地)が設置されているウマル油田に対して、シリア政府の支配下にあるユーフラテス川西岸からロケット弾による攻撃が行われる。
  • 10月19日、CONOCOガス田の米軍基地もドローンによる爆撃を受ける。
  • 10月21日、イラク・イスラーム抵抗はアイン・アサド米軍基地をドローンで攻撃したと発表。
  • 10月22日、アイン・アサド米軍基地に対してカチューシャ・ロケット弾複数発が発射される。
  • 10月23日、イラク・イスラーム抵抗はタンフ国境通行所と同通行所を中心とする55キロ地帯内にあるルクバーン・キャンプ内の米軍基地をドローン2機で爆撃したと発表。米中央軍(CENTCOM)は2機を撃墜したと発表。
  • 10月23日、イラク・イスラーム抵抗はグリーン・ヴィレッジ基地とハサカ県シャッダーディー市の米軍基地をドローンで爆撃したと発表。
  • 10月24日、シャッダーディー市の米軍基地近くで「イランの民兵」の攻撃によると見られる爆発が発生。
  • 10月25日、イラク・イスラーム抵抗はハサカ県ハッラーブ・ジール村の米軍基地(アブー・ハジャル空港基地)を多数のロケット弾で攻撃したと発表。
  • 10月26日、イラク・イスラーム抵抗はシャッダーディー市の米軍基地にロケット弾多数を発射したと発表。
  • 10月26日、CONOCOガス田で「イランの民兵」による砲撃によると見られる激しい爆発が複数回発生。
  • 10月26日、イラク・イスラーム抵抗はイランのアルビール県にあるアルビール空港の米軍基地を2機のドローンで爆撃したと発表。
  • 10月27日、ロイド・J・オースティンIII米国防長官は、米軍がイラン・イスラーム革命防衛隊とその関連組織が使用するシリア東部(ブーカマール市近郊)の施設2ヶ所を爆撃したと発表。
  • 10月27日、ハッラーブ・ジール村の米軍基地が砲撃を受ける。
  • 10月27日、グリーン・ヴィレッジ基地に向けてロケット弾多数が発射され、6発が着弾。10月27日、グリーン・ヴィレッジ基地の居住区がドローンの攻撃を受け、複数回の爆発が発生。
  • 10月27日、イラク・イスラーム抵抗はアイン・アサド米軍基地を1機のドローンで攻撃したと発表。
  • 10月28日、イラク・イスラーム抵抗はタンフ国境通行所の米軍基地を2機のドローンで攻撃したと発表。
  • 10月28日、イラク・イスラーム抵抗はアイン・アサド米軍基地を1機のドローンで攻撃したと発表。
  • 10月29日、米軍所属と見られる戦闘機1機がブーカマール市内のイラン・イスラーム革命防衛隊第47中隊の陣地2ヶ所を爆撃。
  • 10月29日、イラク・イスラーム抵抗はシャッダーディー市の米軍基地を2機のドローンで攻撃したと発表。
  • 10月30日、イラク・イスラーム抵抗はアイン・アサド米軍基地を多数のロケット弾で攻撃したと発表。
  • 10月30日、米軍所属と見られる戦闘機(あるいはドローン)複数機がブーカマール国境通行所を経由してイラクからシリアに入国した車列を爆撃し、貨物車輛3輌が破壊される。
  • 10月30日、報復として、グリーン・ヴィレッジ基地がロケット弾15発の攻撃を受ける。
  • 10月30日、米主導の有志連合がダイル・ザウル県タービヤ・ジャズィーラ村、ムッラート村にある「イランの民兵」の陣地複数ヶ所を爆撃、ロケット弾発射台複数基を破壊。
  • 10月30日、報復として、イラク・イスラーム抵抗はCONOCOガス田の米軍基地に対して多数のロケット弾で攻撃したと発表。
  • 10月31日、イラク・イスラーム抵抗はアイン・アサド米軍基地を2機のドローンで攻撃したと発表。
  • 10月31日、グリーン・ヴィレッジ基地がロケット弾の攻撃を受け、複数回の爆発が発生した。
  • 11月1日、グリーン・ヴィレッジ基地がユーフラテス川西岸からのロケット弾2発による攻撃を受ける。
  • 11月1日、CONOCOガス田のパイプラインが攻撃を受ける。
  • 11月1日、イラク・イスラーム抵抗はタンフ国境通行所を2機のドローンで爆撃したと発表。
  • 11月2日、イラク・イスラーム抵抗はイスラエルの死海沿岸の重要な標的1ヶ所を攻撃したと発表。
  • 11月2日、ブーカマール市近郊の砂漠地帯に所属不明の複数の戦闘機が飛来、その後激しい爆発が複数回発生。
  • 11月2日、イラク・イスラーム抵抗はアルビール空港の米軍基地を2機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月2日、イラク・イスラーム抵抗はイスラエルのエイラート市を攻撃したと発表。
  • 11月3日、イラク・イスラーム抵抗はハッラーブ・ジール村の米軍基地を多数のロケット弾で攻撃したと発表。
  • 11月3日、グリーン・ヴィレッジ基地で原因不明の爆発が複数回にわたって確認された。
  • 11月4日、イラク・イスラーム抵抗はアルビール空港の米軍基地を2機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月4日、イラク・イスラーム抵抗はシャッダーディー市の米軍基地をロケット弾で攻撃したと発表。
  • 11月5日、イラク・イスラーム抵抗はハサカ県タッル・バイダル村にある米軍基地を1機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月5日、米軍基地が設置されているハサカ県カスラク村の上空にも複数のドローンが飛来、複数回の爆発が発生。
  • 11月6日、イラク・イスラーム抵抗はアイン・アサド米軍基地に3回、アルビール空港の米軍基地に1回、タッル・バイダル村の米軍基地に1回、タンフ国境通行所の米軍基地に1回の攻撃を行ったと発表。
  • 11月7日、イラク・イスラーム抵抗はグリーン・ヴィレッジ基地を複数のドローンで、CONOCOガス田の米軍基地を多数のロケット弾で攻撃したと発表。
  • 11月7日、イラク・イスラーム抵抗はハリール米軍基地を2機のドローンで、アルビール空港の米軍基地を複数のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月8日、イラク・イスラーム抵抗はシャッダーディー市の米軍基地を複数のドローンとロケット弾で2回にわたり攻撃したと発表。
  • 11月9日、CENTCOMは米軍がイラン・イスラーム革命防衛隊と同隊に所属するグループが使用しているシリア国内の施設1ヶ所(ダイル・ザウル市のブール・サイード通りにある軍の指揮所複数ヶ所と武器庫)を爆撃した、と発表。シリア人権監視団によると、シリア人3人を含む9人が死亡。
  • 11月9日、グリーン・ヴィレッジ基地からマヤーディーン市一帯の「イランの民兵」の陣地複数ヶ所に対して砲撃が行われる。
  • 11月9日、CONOCOガス田の米軍基地がロケット弾と複数のドローンの攻撃を、グリーン・ヴィレッジ基地がロケット弾の攻撃を受ける。
  • 11月9日、イラク・イスラーム抵抗はハリール米軍基地を4機のドローンで2回にわたって攻撃するとともに、アイン・アサド米軍基地に対して3回の作戦を実施したと発表。
  • 11月10日、イラク・イスラーム抵抗はタンフ国境通行所の米軍基地を1機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月11日、イラク・イスラーム抵抗はルマイラーン町の米軍基地を2機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月12日、米主導の有志連合所属と見られる戦闘機がダイル・ザウル県マヤーディーン市近郊の指揮所1ヶ所、ブーカマール市にある陣地4ヶ所を爆撃。
  • 11月12日、イラク・イスラーム抵抗はイスラエルのエイラートを攻撃したと発表。
  • 11月13日、オースティン米国防長官は、イラン・イスラーム革命防衛隊とその関連組織が使用しているシリア東部の施設、具体的にはアブー・カマール市とマヤーディーン市の近くにある訓練施設や隠れ家を精密攻撃したと発表。シリア人権監視団によると、シリア人1人とイラク人6人が死亡。
  • 11月13日、グリーン・ヴィレッジ基地一帯がドローンとロケット弾の攻撃を、CONOCOガス田の米軍基地がロケット弾の攻撃を受ける。
  • 11月13日、シャダーディー市の米軍基地が3機のドローンの攻撃を、ハッラーブ・ジール村を2度にわたりドローンの攻撃を受ける。
  • 11月13日、イラク・イスラーム抵抗はグリーン・ヴィレッジ基地を1機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月14日、イラク・イスラーム抵抗はウマル油田の米軍基地、グリーン・ヴィレッジ基地をそれぞれ1機のドローンで攻撃、CONOCOガス田の米軍基地をロケット弾で攻撃したと発表。
  • 11月15日、イラク・イスラーム抵抗はアイン・アラブ米軍基地をロケット弾で攻撃したと発表。
  • 11月15日、グリーン・ヴィレッジ基地がイラク・イスラーム抵抗が発射したと見られるロケット弾の攻撃を受ける。
  • 11月17日、イラク・イスラーム抵抗はハッラーブ・ジール村の米軍基地を1機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月17日、イラク・イスラーム抵抗はハリール米軍基地とアイン・アラブ米軍基地をそれぞれ1機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月18日、イラク・イスラーム抵抗はタンフ国境通行の米軍基地を1機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月18日、CONOCOガス田がイラク・イスラーム抵抗が撃ったと見られるロケット弾の攻撃を受ける。
  • 11月19日、イラク・イスラーム抵抗はハリール米軍基地を1機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月20日、イラク・イスラーム抵抗はアイン・アサド米軍基地を1機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月21日、イラク・イスラーム抵抗はシャッダーディー市の米軍基地をロケット弾などで攻撃したと発表。
  • 11月21日、イラク・イスラーム抵抗はアイン・アサド米軍基地を攻撃したと発表。これに対し、サブリナ・シン米国防総省副報道官は、この攻撃で複数人が軽傷を負ったとしたうえで、その直後にAC-130対地専用攻撃機が、攻撃に関与した車輌1輌と戦闘員多数に対して自衛のための爆撃を実施し、一部を殺害したと発表。
  • 11月22日、CENTCOMは、前日の攻撃への報復として、イラク国内の2ヶ所(首都バグダード南のアンバル区とジュルク・サクル区近くにある人民動員隊所属のヒズブッラー大隊の作戦本部や指揮所)に対して精密爆撃を実施したと発表。ヒズブッラー大隊によると5人死亡。
  • 11月22日、イラク・イスラーム抵抗はハリール米軍基地に対してドローンで2回の攻撃を行ったと発表。
  • 11月23日、イラク・イスラーム抵抗はCONOCOガス田の米軍基地をロケット弾で、グリーン・ヴィレッジ基地を1機のドローンで攻撃したと発表。
  • 11月23日、イラク・イスラーム抵抗はアルビール空港の米軍基地に対してドローンで3回の攻撃を、アイン・アサド米軍基地に対してドローンで2回の攻撃を行ったと発表。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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