イスラエルとハマースの戦闘休止に応じる「イランの民兵」:放置されるシリアでの暴力の応酬
イスラエルとパレスチナのハマースが、カタールの仲介のもとに4日間の戦闘休止に合意し、11月24日午前7時(日本時間午後2時)に同合意が発効した。
合意がいつまで履行されるか、そして双方による人質の解放がどの程度順調に進むか、そして休止を終えてイスラエルがいつハマース掃討を目的とした攻撃を再開するのは、今のところ定かではない。
だが、両者の戦闘休止に呼応するかたちで、レバノン南部・イスラエル北部、イラク、シリア東部、イスラエル南部などでの「イランの民兵」、あるいは「抵抗枢軸」と、イスラエル、あるいは米軍との戦闘も休止状態に入ったようである。
「イランの民兵」とは、イスラエルに対する武装闘争を主唱・実践するレバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、イエメンのアンサール・アッラー(蔑称はフーシー派)、アフガニスタン人からなるファーティミーユーン旅団などを指す蔑称である。これらの組織にシリア、イランを加えた陣営は、抵抗枢軸を自称している。
「イランの民兵」、あるいは抵抗枢軸は、イスラエルによるガザ地区への攻撃への報復だとして、イスラエル、そしてそれを支援する米国を標的とした攻撃、イスラエル軍や米軍と交戦を続けていた。
レバノン・イスラーム抵抗
レバノン南部・イスラエル北部では、ヒズブッラーが主導するレバノン・イスラーム抵抗がイスラエル軍と戦闘を続け、テレグラムのアカウント(https://t.me/s/mmirleb)や公式アカウント(https://central-media.net/)を通じて連日戦果を誇示してきた。だが、イスラエルとハマースの戦闘休止に呼応するかたちで、11月24日には攻撃を停止した。
レバノン・イスラーム抵抗は11月24日、前日の戦果を発表、その映像4点(https://t.me/mmirleb/467、https://t.me/mmirleb/468、https://t.me/mmirleb/470、https://t.me/mmirleb/471)を公開するのみで、新たな攻撃を実行したとの声明は出さなかった。
イラク・イスラーム抵抗
イラクの人民動員隊は、所属組織の一つであるヒズブッラー大隊などが、イラク・イスラーム抵抗名義で、イラクとシリア領内に設置されている米軍基地に対して、無人航空機(ドローン)やロケット弾での攻撃を続けていた。イスラエルのガザ攻撃に加担している米国への報復として行われた攻撃は、イラクのアイン・アサド基地(アンバール県、ハリール基地、アルビール空港基地(いずれもアルビール県)、シリアのウマル油田やCONOCOガス田に違法に設置されている基地(いずれのダイル・ザウル県)、タンフ国境通行所基地(ヒムス県)、ハッラーブ・ジール村やシャッダーディー市の基地(いずれもハサカ県)を標的とした。
11月21日と22日には、米軍がこれらの攻撃に対する報復としてイラク領内のイラク・イスラーム抵抗の車輛や人民動員隊の司令部などを爆撃、ヒズブッラー大隊のメンバー5人が死亡した。これを受けて、イラク・イスラーム抵抗運動は11月23日にイラクとシリアの領内の米軍基地に1日の攻撃回数としては最大となる8回の攻撃を実施した。だが、レバノン・イスラーム抵抗と同様、11月24日にテレグラムのアカウント(https://t.me/s/elamharbi)を通じた情報発信を行わなかった。
アンサール・アッラー
アンサール・アッラーは、イスラエル南部のエイラート一帯を狙って、ドローンや弾道ミサイルでの攻撃を繰り返す一方、11月19日には、紅海で日本郵船が運航する英国の企業が所有する船舶(イスラエルの実業家が共同所有)をイスラエルの船舶だとして拿捕した。
11月22日には、エイラートに対して弾道ミサイルでの攻撃を試み、イスラエル軍は報復として、(なぜか?)シリアの首都ダマスカス近郊に展開するヒズブッラーの拠点を爆撃し、報復合戦が再び激化するかに見えた。
だが、アンサール・アッラーのヤフヤー・サリーウ報道官は11月24日、新たな作戦の実行について発表しなかった。X(旧ツイッター)のアカウント(https://twitter.com/army21ye)を通じて公開したのは、首都サヌアで、「抵抗運動の選択とパレスチナ人民の抵抗を支持する大規模デモ」の写真だった。
イスラエル
イスラエルは、レバノン・イスラーム抵抗やアンサール・アッラーによる攻撃への報復として、これらと連携、支援しているシリアに対する爆撃を強化、ダマスカス国際空港やアレッポ国際空港といった民生施設に対しても容赦ない攻撃を加えてきた。だが11月24日にシリア領内への攻撃は確認されず、またイスラエル占領下のゴラン高原に対するシリア政府支配地からの攻撃も確認されなかった。
イスラエル軍のアヴィハイ・アドライ報道官は午後1時4分、Xアカウント(https://twitter.com/avichayadraee)で、イスラエル南部のエイラートで空襲警報が発出されたことに関して、「個人誤差」による誤報だったと発表した。
忘却の彼方に追いやられた戦闘
とはいえ、この地域で戦闘がなかったわけではない。
ロシア軍は、11月23日夜から24日未明にかけて、シリアのラッカ県ラサーファ市一帯の砂漠地帯にあるイスラーム国の陣地複数ヵ所を狙って爆撃を実施した。
トルコ軍は、シリアのアレッポ県マンビジュ市西のブーガーズ村をドローンで爆撃し、住民1人を負傷させた。
シリアではさらに、イドリブ県、アレッポ県、ラタキア県、ハマー県で、シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構、同組織が主導する反体制派の「決戦」作戦司令室がシリア軍と交戦、シリア軍兵士3人が狙撃され死亡した。
米軍は、戦闘には参加しなかったが、ロシア国防省の発表によると、戦闘機やドローンによってシリア領空を9回にわたって侵犯した。
ガザ地区での戦闘(再開)や殺戮の有無が争点化することで、パレスチナ問題の本質への関心がおざなりになるとしばしば言われる。その本質とは、欧州のユダヤ教徒への差別や抑圧のはけ口としてパレスチナという地が選ばれ、そこにイスラエルという国家が建設され、土地の簒奪や住民の強制移住をもたらしたというものだ。
だが、忘却の彼方に追いやられかねないのは、パレスチナ問題の本質だけでない。諸外国の介入によって際限なく続く「シリア内戦」と呼ばれる国際紛争、あるいは代理戦争における暴力や不正の応酬もまた、この地域をめぐる侵略、干渉、紛争がパレスチナ問題、そしてイスラエル・ハマース衝突などへと矮小化されることで、未処理のまま放置されるのである。