イスラエル軍によるシリアへの爆撃の報復として、シリアに違法駐留する米軍がドローン攻撃を受ける
シリアで米軍基地に対する攻撃が頻発している。きっかけは、言うまでもなくパレスチナのハマースが10月7日にイスラエルに対して開始した「アクサーの大洪水」作戦と、イスラエル軍によるガザ地区への激しい攻撃だ。
イスラエルの侵犯行為へのシリア軍の報復先はドローン攻撃を激化させるアル=カーイダ主導の反体制派
「アクサーの大洪水」作戦が始まって以降、イスラエル軍はシリアに対して5回、ないしは7回の侵犯行為(爆撃、砲撃)などを行った(「イスラエルがシリアのダマスカス、アレッポ国際空港を再び爆撃:非難を免れる理由はどこにあるのか?」を参照)。
これに対して、シリアの国防省は10月12日の声明で、シリアに対するイスラエル軍の攻撃を、「反体制派を支援するために続けている手法」だと非難、「イスラエルの武装勢力となりさがった」反体制派を追跡、打撃し続け、国から根絶すると宣言している。
そして、その言葉の通り、シリア軍はロシア軍とともに、シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が主導する反体制派が活動するシリア北西部に対して連日のように爆撃や砲撃を加えている。
攻撃は10月5日のヒムス軍事学校の卒業式を狙って、中国新疆ウィグル自治区出身者からなるアル=カーイダ系のトルキスタン・イスラーム党が行ったとされる無人航空機(ドローン)でのテロ攻撃以降、反体制派がアレッポ市などへのドローンによる爆撃を試みていることへの対抗措置であり、その目的は、反体制派のドローン製造場、武器弾薬施設、指揮所などに打撃を与えることで、その航空戦力を削ぐことにある。だが、この過程でシリア北西部での生活を余儀なくされている一般の住民にも被害が及んでおり、内外の活動家からの非難を招いている。
米軍を標的とした報復のアウトソーシング
だが、イスラエルの侵犯行為に対するシリアの報復は、反体制派に対して行われるものではない。なぜなら、「アクサーの大洪水」作戦が始まる以前にも繰り返されてきたイスラエルの侵犯行為に対するシリア側の報復は、多くの場合、シリア領内に違法駐留を続ける米軍と有志連合を標的としてきたからだ。
米軍(有志連合)は、イスラーム国を殲滅するとして、2014年9月にシリア領内での爆撃を開始、2015年に入ると地上部隊を投入した。だが、シリア領内での軍事行動、そして駐留は、国連安保理での承認を得ていないばかりか、シリア政府を含むシリアのいかなる当事者の了承も得ないまま行われたもので、国際法、国内法のいずれにおいても違法行為とみなし得るものである。
米軍(有志連合)のシリア国内での展開状況については不明な点も多い。だが、2021年の段階で16ヵ所に基地を設置しているとされる。県別の内訳は以下の通りである(「シリアにおける米国の軍事介入と部隊駐留の変遷(2011~2021年)」を参照)。
- ハサカ県(6カ所):カスラク村、カフターニーヤ市、ジャブサ油田、タッル・ブラーク町近郊の油田地帯、ハッラーブ・ジール村、ライフ・ストーン複合施設。
- ダイル・ザウル県(7カ所):カムシャ油田、ジャフラ油田、スーサ村、タナク油田、(下)バーグーズ村、ルワイシド村、CONOCOガス田。
- ラッカ県(1カ所):ジャズラ村。
- ヒムス県(2ヵ所):タンフ国境通行所。ザクフ地区
だが、米軍の基地を標的とするのは、シリア軍ではなく、「イランの民兵」と総称される民兵である。「イランの民兵」、あるいは「シーア派民兵」とは、紛争下のシリアで、シリア軍やロシア軍と共闘する民兵の蔑称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、同部隊が支援するレバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。シリア政府側は「同盟部隊」と呼ぶ。
シリア軍が米軍、あるいはイスラエル軍に対して直接報復を行うことは、国家間の戦争を誘発するリスクがあり、こうした事態になれば、シリアが劣勢を強いられることは言うまでもない。「イランの民兵」に報復をアウトソーシングすることは、その意味でシリアそのものに被害が及ぶのを回避するための戦術だと言うことができる。
6回の報復
「アクサーの大洪水」作戦開始以降、「イランの民兵」は、以下の通り6回にわたって、イスラエル軍の侵犯行為への報復とみなし得る攻撃を米軍に対して行った。
10月19日
イラク・イスラーム抵抗を名乗る武装グループが、同日にイラクのアンバール県にあるアイン・アラブ米軍基地とアルビール県にあるハリール米軍基地をドローンやロケット弾で攻撃したのに続いて、タンフ国境通行所に設置されている米軍(有志連合)基地をドローン3機で攻撃した。
イラク・イスラーム抵抗とは、イラクのシーア派民兵からなる人民動員隊を構成するヒズブッラー大隊、バドル機構、アサーイブ・アフル・ハック、ヌジャバー運動、ジハード連隊、殉教者の主大隊、アンサール・アッラー、フラーサーニー連隊、イラク自由人旅団などからなる。イラクの人民動員隊、あるいは「イランの民兵」内の急進派とみられる諸派から構成されている。
10月19日
ダイル・ザウル県ユーフラテス川東岸のアブー・ハシャブ村近郊の砂漠地帯で、ウマル油田とCONOCOガス工場を結ぶパイプラインが攻撃を受け、大きな爆発が発生した。パイプラインは、米軍(有志連合)がシリア産のガスを盗奪するために使用しているもので、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、爆発は仕掛けられていた爆発物によるものだった。
10月19日
シリア人権監視団によると、ウマル油田に設置されている「グリーン・ヴィレッジ」と呼ばれる米軍基地一帯に「イランの民兵」がロケット弾5発を撃ち込んだ。
10月20日
シリア人権監視団によると、米軍(有志連合)がハサカ県マーリキーヤ市近郊のルーバール(ルーバールヤー)村の農業用飛行場に設置している基地(2017年半ば頃に撤収したとされていた)近くの上空に飛来、基地に接近しようとした「イランの民兵」の無人航空機1機を迎撃、これを撃墜した。
これに関して、イラク・イスラーム抵抗は10月23日に声明を出し、マーリキーヤ市近郊の基地をドローンで攻撃し、直接の被害を与えたと発表した。
米軍基地へのドローン攻撃
5回目、6回目の報復攻撃は10月23日に行われた。
シリア人権監視団などによると、23日朝、タンフ国境通行所一帯地域(55キロ地帯)上空に、「イランの民兵」のドローン複数機が飛来、うち1機が通行所に設置されている基地を爆撃した。
これに対して、基地に駐留する米軍(有志連合)が迎撃、爆撃を行ったドローンを撃墜するとともに、基地を爆撃しようとした別の2機についても撃墜した。このうち1機はルクバーン・キャンプの東約4キロの地点、もう1機はルクバーン・キャンプの東約3キロの地点で撃墜されたという。
この攻撃に関して、イラク・イスラーム抵抗は声明を出し、タンフ国境通行所とルクバーン・キャンプに米国が設置している基地2ヵ所に対して月曜日(23日)早朝に無人航空機(ドローン)2機で攻撃を行い、直接の損害を与えたと発表した。
ルクバーン・キャンプとは、シリアとヨルダンの国境の緩衝地帯に設置されたキャンプで、米軍(有志連合)の支援を受ける武装勢力のシリア自由軍の実効支配のもと、シリア政府支配地、隣接するヨルダンから隔絶されたなか、1万人以上(推計)の国内避難民(IDPs)が収容されている。
一方、米中央軍(CENTCOM)も23日午後10時頃、X(旧ツイッター)を通じて、以下の通り発表した。
シリア:2023年10月23日朝、米軍はシリア南西部の米軍と連合軍に接近した一方向(one-way)攻撃型無人航空機(ドローン)2機が目標としていた標的に到達する前に破壊した。死傷者や被害は出ていない。
7回目の攻撃は、「グリーン・ヴィレッジ」基地が設置されているウマル油田一帯に対して行われた。シリア人権監視団によると、「イランの民兵」がドローン複数機で爆撃を実施、少なくとも2回の爆発が発生した。
この攻撃についても、イラク・イスラーム抵抗が10月23日晩に声明を出し、ダイル・ザウル県にあるウマル油田とハサカ県のシャッダーディー市にある米軍基地2ヵ所に対しても複数のドローンで攻撃を加え、直接の損害を与えたと発表した。このうち、シャッダーディー市の米軍基地に対する攻撃は確認されていない。
一連の攻撃に対して、米国は報復の意思を示している。その規模、そして標的はいまだ不明だ。だが、「イランの民兵」がレバノンのヒズブッラーを含む勢力であることは、レバノン南部とイスラエル南部で続いているヒズブッラーとイスラエル軍の戦闘を刺激しかねない。また、イスラエル軍によるガザ地区への過剰な攻撃が非難を浴びるなか、それを黙認する米国がシリアでも過剰な攻撃を行えば、これに対する非難の声が上がることは必至で、そのことが米国を標的としたさらなる攻撃を誘発するかもしれない。