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シリアとイラクで米軍基地を攻撃し、ハマースをめぐる紛争に米国を引きずり込もうとする「イランの民兵」

青山弘之東京外国語大学 教授
Islamic World News、2021年12月31日

シリアとイラクに駐留を続ける米軍に対する攻撃が止まない。

きっかけは、言うまでもなくパレスチナのハマースが10月7日に開始した「アクサーの大洪水」作戦に対するイスラエル軍の反撃だ。イスラエル軍は10月26日からガザ地区に対して地上部隊による攻撃も開始、また爆撃を強化している。

イスラエルによる一連の攻撃への報復に対して、シリアとイラクで活動するいわゆる「イランの民兵」、とりわけイラク・イスラーム抵抗は、両国内に駐留する米軍の基地などに対して無人航空機(ドローン)やロケット弾による攻撃を繰り返している。

米軍は10月27日に、ダイル・ザウル県ユーフラテス川西岸にある「イランの民兵」の拠点を爆撃し、攻撃継続を躊躇させようとした。だが同日、ハサカ県のハッラーブ・ジール村近郊に米軍が設置している基地(アブー・ハジャル空港基地)、ダイル・ザウル県でも、ユーフラテス川東岸のウマル油田にある米軍の「グリーン・ヴィレッジ」基地、そしてイラクのアイン・アサド米軍基地が攻撃を受けた。このうち、アイン・アサド米軍基地の攻撃については、イラク・イスラーム抵抗が関与を認める声明を出した。

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10月28日もイラク・イスラーム抵抗は、シリアとイラク領内の米軍基地への攻撃を続けた。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、同日未明、米主導の有志連合が駐留するタンフ国境通行所に設置されている基地がドローン2機の爆撃を受けた。これに関して、イラク・イスラーム抵抗は声明を出し、標的2ヶ所に直接の損害を与えたと発表した。

イラク・イスラーム抵抗はまた、アイン・アサド米軍基地に対してドローン1機で攻撃を加え、確実な損害を与えたと発表した。

この攻撃と前後して、ジョー・バイデン米大統領は上下両院議長に書簡を送り、10月27日の米軍によるシリア爆撃の正当性を以下の通り、説明していた。

10月17日(シリア時間で18日)以降、シリアとイラクに駐留する米軍に対する攻撃は、米軍関係者と米軍とともに活動する多国籍軍の生命を重大な脅威にさらしている…。(27日の)攻撃は抑止力の確立を目的としており、事態悪化のリスクを制限し、民間人の死傷者を避けるために実施された。

攻撃命令は憲法上の権限に沿ったもので、憲法上の権限に従って、国内外で米国国民を保護し、米国の国家安全保障と外交政策上の利益を促進するという自らの責務に合致している…。

国際法に準拠し、国連憲章第51条に基づいて自衛権を行使した。

だが、「イランの民兵」は米軍への攻撃を躊躇しておらず、バイデン大統領が言うところの「抑止力の確立」は実現しているようには見えない。

イランのホセイン・エミール・アブドゥッラフヤーン外務大臣は10月28日、ブルームバーグのインタビューに応じ、次のように述べた。

彼らは我々からいかなる命令も指示も受けていない。米国は彼らがイランと関係があると主張している。だが、これらの組織は独自に決定を下している。

彼ら(レバノンとパレスチナの抵抗組織)から聞いたのは、彼らが引き金に指をかけている、ということだ。

米国は他国に自制を示すよう忠告しているが、イスラエルを全面支援している。米国がこうした行動を続ければ、米国に対する新たな戦線が開かれるだろう。

ガザ地区に対するイスラエル軍の攻撃に対抗して、シリアとイラクで「イランの民兵」が執拗に繰り返す米軍への攻撃は「ガザの(ための)報復」などと言われる。「イランの民兵」、あるいはレバノンでイスラエル軍と散発的な交戦を続けるヒズブッラー主体のレバノン・イスラーム抵抗、パレスチナ諸派、「イランの民兵」、シリア、そしてイランからなる抵抗枢軸は、ハマースをめぐる武力紛争に引きずり込まれることへの米国の戸惑いを刺激することで激しさを増すイスラエルの攻撃を最小限に食い止めようとしている。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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