再び自殺を図る人を半分に──救急から引き継いで支援する精神科チーム #今つらいあなたへ
「支援」全体をまとめるのは精神保健福祉士
「多職種でやることに意味がある」と、札幌医科大学附属病院の高度救命救急センターで、精神科リエゾンチームに参加する精神科医の石橋竜太朗さんは話す。
「精神科医は精神疾患の経過と精神状態、患者を取り巻く心理社会的状況から、あらためて精神医学的評価と診断を行い、自殺企図を防止するための治療計画を立てます。看護師はケアを担当、精神保健福祉士はケース・マネジャーとして『生活支援』の全体を計画して進めるなど、多職種協働チームで治療を進めます。医師には話しにくいことであっても、看護師や精神保健福祉士には話してくれることがあるため、それぞれの専門職ならではの視点や角度から得られた情報を共有することで、患者さんそれぞれの事情や病状に合わせた支援の方向性が見えてきます」 精神保健福祉士は、面談の際、患者や患者の家族に「心理教育」もする。心理教育とは、自殺を図るに至った心理や精神科医療について、またどんな支援が受けられるかなどについて正しい理解をもってもらうこと。患者だけでなく、患者の家族にも話をするのは、自殺未遂によってショックを受けている家族の心をやわらげ、患者を見守っていく方法を考えてもらうためだ。 Aさんのケースでも、Aさん自身のそうした精神疾患や自らが自殺に至ったプロセスの理解、復帰への道筋の理解、そして具体的な対策が重要だ。 面談などで得られた情報から、Aさんが再び自殺を図ることなく社会に戻るための支援を精神科リエゾンチームで話し合う。Aさんのケースでは、精神科の治療を進めながら、子育ての負担を減らす対策をするなど、生活環境を整えるという方針を決めた。
搬送から2週間後、Aさんは同じ病院の精神科病棟に移り、精神保健福祉士との2回目の面談は精神科病棟で行った。退院して自宅に戻ったあとも、1カ月に1度のペースで面談を続けた。精神科への通院と服薬も途切れなかった。また、Aさんの長男は幼稚園に通うようになり、精神保健福祉士のアドバイスでAさんの母親は訪問介護サービスを受けるようになった。こうした取り組みでAさんの負担は減った。すると、4回目の面談でAさんは「死にたいと思うことがほとんどなくなった」と精神保健福祉士に語った。 搬送後、半年が経った7回目の面談。ここまでの面談と相談を通じて、Aさんと精神保健福祉士は、今後死にたい気持ちが大きくなったらどのように早めに気付くか、どのような具体的な対処が助けになるか、誰に相談するかなど、危機対応の対策を積み重ねてきた。それをあらためて確認して、Aさんは定期的な面談を終えた。 今後もAさんの精神に打撃を与えるような出来事は起こりうる。それでも、次に危機を迎えたときに、自殺企図とは違う行動をとれるようになる。それがこの精神科リエゾンチームによる支援の一つのゴールなのだ。 単に救急科から精神科につないだだけでは十分ではないと前出の河西教授は言う。 「この支援の核心は、退院後の定期的な面談と、面談によるモニタリングを精神保健福祉士と精神科チームが担うところにあるんです」 では、その中核を担う精神保健福祉士はどんな仕事をしているのか。